労働安全衛生法改正2025年化学物質管理の新たな対応策

労働安全衛生法改正2025年化学物質管理の新規制

労働安全衛生法改正2025年の主要変更点
⚗️

対象物質の大幅拡大

リスクアセスメント対象物質が約670物質から約2,900物質へ段階的に拡大

📋

自律的管理体制の構築

化学物質管理者の選任義務化と濃度基準値による管理強化

🔒

罰則規定の強化

SDS通知義務違反への罰則新設とデジタル申請の義務化

労働安全衛生法改正による化学物質管理体系の転換

2025年の労働安全衛生法改正により、化学物質管理は従来の「個別規制型」から「自律的管理」へと大きく転換されています 。これまでの規制では、国が指定した約670物質のみが管理対象でしたが、改正により危険性・有害性が確認されたすべての化学物質約2,900物質が段階的に対象となります 。この変更の背景には、化学物質による労働災害の約8割が規制対象外の物質によるものであったという深刻な現状があります 。

参考)改正労働安全衛生法が成立、SDS違反に罰則! ~「化学物質…

医療従事者にとって重要なのは、病院や診療所で使用される消毒剤、医療用薬品、検査試薬なども新たな規制対象に含まれる可能性があることです。厚生労働省は毎年50-100物質のGHS分類を行い、危険性が特定された物質を順次追加しています 。2025年4月1日からは約700物質が新たに表示・通知対象物質となり、これらはすべて労働安全衛生規則別表第2に列挙される予定です 。

参考)【2025年4月1日】労働安全衛生法の改正まとめ:義務対象物…

この管理体系の転換により、事業者は自らリスクを評価し、適切な管理措置を講じることが求められるようになります。従来のような国による一律の規制ではなく、各事業場の実情に応じた柔軟な対応が可能となる一方、事業者の責任も大幅に拡大されています 。

参考)化学物質による労働災害防止のための新たな規制について|厚生労…

労働安全衛生法化学物質管理者の選任義務化と職務内容

2024年4月から施行された改正により、リスクアセスメント対象物を製造、取扱い、または譲渡提供する事業場では、化学物質管理者の選任が義務化されています 。化学物質管理者は事業場ごとに選任され、一般消費者向け製品のみを取り扱う事業場は対象外となります 。

参考)【2024年4月施行】化学物質管理者とは?選任義務・役割・資…

化学物質管理者の具体的な職務は多岐にわたります。主な業務として、ラベルやSDS(安全データシート)の確認、化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理、リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選定・実施管理、化学物質の自律的な管理に関わる記録の作成・保存、労働者への教育などが含まれます 。

参考)【改正労働安全衛生法】化学物質管理者の選任が義務化されました…

医療機関では、薬剤師や安全衛生管理者、化学的知識を有する医師などが化学物質管理者に選任されるケースが多くなると予想されます。選任に必要な要件は「化学物質管理者の業務を担当するために必要な能力を有する者」とされており、特別な資格は必要ありませんが、実務上は化学物質の危険性・有害性に関する専門知識と管理経験が求められます 。

参考)4月1日施行「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」の選任…

化学物質管理者は、リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応も担当するため、緊急時の対処法や関係機関への報告手続きについても十分な知識を持つ必要があります 。

労働安全衛生法SDS通知制度の強化とリスクアセスメント義務

2025年5月の労働安全衛生法改正により、SDS(安全データシート)通知制度が大幅に強化されました 。最も重要な変更点は、SDS交付者がSDSの通知事項を変更した場合、変更後の通知事項を速やかにSDS受領者へ通知することが義務化されたことです 。再通知の相手先は概ね1年以内に化学物質を譲渡・提供した継続取引先とされています 。

参考)リスクアセスメント実務者視点で読み解く安衛法SDS通知制度改…

従来法令では、SDSの「人体に及ぼす作用」について5年以内ごとの見直しが規定されていましたが、新たな化学物質規制施行後はSDS通知義務対象物質が毎年50-100物質程度ずつ追加される方針のため、交付者側でのSDS更新が定期的に発生する状況となっています 。

参考)SDSの更新義務について:更新頻度や一括更新する方法をわかり…

リスクアセスメント指針では、SDSの危険有害性情報が変更された場合、リスクアセスメントを再度実施することが規定されているため、受領者側では更新通知をトリガーとしたリスクアセスメント見直し体制の確立が重要となります 。具体的には、更新内容からリスクアセスメントを再度行うべきかを判断し、必要に応じて評価を実施、評価結果に応じて工程条件や局所排気装置、保護具等のばく露低減対策を見直す一連の実務フローが必要です 。
現在のリスクアセスメント対象物質は896物質で、2026年4月には約2,900物質になる予定です 。医療従事者にとっては、病院で使用する化学物質のSDSを定期的に確認し、更新があった場合は速やかにリスクアセスメントを見直すことが重要です 。

参考)化学物質のリスクアセスメントとは?実施方法などをわかりやすく…

労働安全衛生法濃度基準値による化学物質ばく露管理

2024年4月1日から施行された労働安全衛生規則第577条の二第2項により、濃度基準値設定物質への労働者のばく露程度をそれ以下とすることが義務付けられました 。濃度基準値とは、危険有害性物質群の屋内作業場における製造あるいは取り扱う労働者へのばく露程度をそれ以下とすることを義務付けた基準値です 。

参考)労働安全衛生法における濃度基準値とその運用について

具体的な義務対象物質は、当初案では67物質または物質群とされていましたが、その後の追加により2024年4月1日適用で74物質、2025年10月1日適用で121物質、計195物質または物質群となっています 。濃度基準値の単位は、主に蒸気としてばく露するものにはppm、ミストまたは固体粒子としてばく露するものにはmg/m³を使用しています 。
濃度基準値は「8時間」と「短時間」の一方または両方が設定されており、特別則対象物質および発がん性物質を除く物質が対象となっています 。事業者は、これらの物質を取り扱う際に労働者のばく露濃度が基準値以下となるよう適切な措置を講じる必要があります 。

参考)https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/content/contents/001973734.pdf

医療機関では、手術室や検査室で使用される麻酔ガス、消毒剤、化学試薬などが濃度基準値設定物質に該当する可能性があります。建設業界では化学物質のリスク管理マニュアルやQ&Aが作成されているように、医療業界でも業界特有の化学物質使用状況に応じた管理指針の策定が求められています 。

参考)建設業における化学物質管理

労働安全衛生法皮膚等障害化学物質の保護具着用義務化

2024年4月の労働安全衛生法改正により、皮膚等障害化学物質(1,064物質)への保護具着用義務が大幅に拡大されました 。従来は「特別規制対象物質」のみが保護具着用の義務対象でしたが、改正により皮膚刺激性有害物質と皮膚吸収性有害物質の両方が対象となりました 。

参考)1-4.その他に確認すべきこと

皮膚刺激性有害物質は、皮膚や眼に障害を与える恐れが明らかな化学物質で皮膚炎などの局所的な影響があるものです 。一方、皮膚吸収性有害物質は、皮膚からの吸収や侵入により健康障害が生じる恐れが明らかな化学物質で、意識障害やがんの発病など全身に影響を及ぼすものです 。

参考)【2024年4月施行】保護具着用管理責任者の選任義務化とは?…

対応レベルは3段階に分けられています:①健康障害を起こすおそれのあることが明らかな化学物質等(皮膚等障害化学物質等)を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者は、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具の使用が義務化されています 。②健康障害を起こすおそれがないことが明らかなもの以外の物質を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者(①の労働者を除く)は、保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具の使用が努力義務とされています 。③健康障害を起こすおそれがないことが明らかなものについては、皮膚障害等防止用保護具の着用は不要です 。
医療従事者は、手術時の抗がん剤取り扱い、消毒剤の使用、検査試薬の操作など日常的に化学物質に接触する機会が多いため、該当する化学物質の特定と適切な保護具の選定が重要となります 。

労働安全衛生法新規化学物質の電子申請義務化への対応

2026年7月1日より、労働安全衛生法に基づく新規化学物質関連の電子申請が原則義務化されます 。対象となる手続きは、①新規化学物質の名称、有害性の調査の結果の届出(安衛則第34条の4)、②労働者が新規化学物質にさらされるおそれがない旨の確認申請等(安衛則第34条の5、第34条の6)、③新規化学物質の有害性がない旨の確認申請(安衛則第34条の8)、④少量新規化学物質の製造・輸入に係る確認申請(安衛則第34条の10)です 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/001361375.pdf

電子申請のメリットとして、いつでも申請が可能であること、パソコン上だけで手続きが完了すること、電子署名・電子証明書が不要であることが挙げられています 。なお、施行前の2025年1月1日から電子申請が可能となる予定で、④の手続きについてはすでに電子申請を受け付けています 。

参考)労働安全衛生法に基づく新規化学物質の電子申請について|厚生労…

この電子申請義務化は、化学物質管理のデジタル化と情報公開の効率化を目的としており、新規化学物質の製造や輸入を行う事業者は、従来の書面提出から電子申請への切り替えが求められます 。ただし、電子申請が著しく困難な場合には、引き続き書面での提出も認められる予定です 。

参考)労働安全衛生法の改正まとめ|2024年・2025年・2026…

医療機関や医薬品製造業者にとっては、新規医療用化学物質や診断薬の開発・導入時に電子申請システムの活用が必要となり、申請手続きの効率化と迅速化が期待されます 。また、2026年施行予定の改正では、約850種の化学物質の増加も見込まれており、継続的な管理体制の整備が重要です 。