オートクレーブで滅菌できないもの
オートクレーブ滅菌が不可能な熱に弱いプラスチック素材
オートクレーブ滅菌では121℃~134℃の高温処理が行われるため、熱に弱いプラスチック素材は変形や溶融のリスクがある 。特に以下のプラスチック材料は滅菌処理に不適合である:
参考)オートクレーブとは?代表的な滅菌方法・プラスチック別の滅菌可…
- ポリスチレン(PS):透明で軽量だが熱変形温度が低く、オートクレーブの高温により溶解する可能性がある
- ポリエチレン(PE):半透明から不透明の材料で、高温処理により形状が維持できない
- アクリル(PMMA):透明性に優れるが高温・高圧下で劣化や破損につながる
一方で、ポリプロピレン(PP)やポリカーボネート(PC)は121℃でのオートクレーブ処理に耐性があり、医療用途では推奨されている 。PP製品は半透明の外観を示し、複数回の滅菌処理に耐えることができる 。プラスチック素材の選択時は、材料の熱変形温度(HDT)や耐熱性を十分に確認する必要がある 。
参考)https://lab-brains.as-1.co.jp/for-biz/2021/07/38040/
オートクレーブ滅菌が困難な精密光学機器・電子機器
精密光学機器や電子機器は、高温・高圧・湿度の三つの条件により内部機構に損傷が生じるためオートクレーブ滅菌には不適合である 。医療現場で頻繁に使用される以下の機器は代替滅菌法を選択する必要がある:
- 内視鏡類:硬性鏡・軟性鏡ともに光学系統やセンサー部分が高温により劣化する
- 顕微鏡:レンズ系統やプリズムが湿気により曇りや劣化を起こす
- 電子カメラ・撮影装置:CCD素子や制御回路が熱や湿気に極めて脆弱である
- 精密測定機器:圧力センサーや温度センサーなどの電子部品を含む機器
これらの機器には、エチレンオキサイド(EO)ガス滅菌や過酸化水素プラズマ滅菌など、低温での化学滅菌法が適用される 。特にEOガス滅菌は55℃程度の低温で実施できるため、熱に敏感な光学機器の滅菌に有効である 。
参考)オートクレーブなしで滅菌は可能か?効果的な代替手段を探る -…
オートクレーブ滅菌に不適合な液体・油脂・粉末類
液体、油脂、粉末類は物理的特性により蒸気の浸透が阻害され、効果的な滅菌が困難である 。これらの物質の滅菌上の問題点は以下の通り:
- 液体類:容器内で蒸気の通り道を塞ぎ、加熱により膨張・沸騰する危険性がある
- 油脂・パラフィン:防水性により蒸気が浸透せず、高温で溶融して汚染を引き起こす
- 粉末状物質:グローブパウダーなどの乾燥した微粒子は蒸気との接触が不十分である
液体の滅菌にはろ過滅菌や紫外線照射が、油脂類には乾熱滅菌(180℃~200℃)が適用される 。粉末状物質についてはエチレンオキサイドガス滅菌またはγ線照射滅菌が選択される。特に高タンパク質溶液(ワクチン・血清)は熱変性により生物学的活性を失うため、ろ過滅菌が不可欠である 。
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オートクレーブ滅菌が禁忌な危険化学物質・放射性物質
化学的に不安定な物質や危険性の高い化学物質は、オートクレーブの高温・高圧条件下で予測不可能な反応を起こすリスクがある 。医療現場で注意すべき禁忌物質は以下の通り:
- 可燃性物質:アルコール系消毒剤、有機溶媒などは蒸気圧上昇により爆発の危険性がある
- 腐食性物質:塩素系漂白剤、強酸・強塩基はオートクレーブ本体を腐食させ有毒ガスを発生する
- 反応性物質:過酸化物や不安定な化合物は熱により分解・爆発する可能性がある
- 放射性物質:汚染拡散のリスクがあり専門的な封じ込め処理が必要である
これらの物質の処理には化学的中和、焼却処理、または専門業者による処理が適用される 。特に家庭用漂白剤や実験室で使用される有機溶媒は、事前に適切な廃棄処理を行い、オートクレーブ滅菌対象から除外する必要がある。
オートクレーブ滅菌における独自の注意点と代替滅菌戦略
医療現場では、オートクレーブ滅菌不可能な材料に対する体系的な管理と代替滅菌戦略が重要である。特に災害時や資源制約下での滅菌においては、創意工夫が求められる 。
実際の臨床現場では、混合材料製品への対応が課題となる。例えば、金属部品とプラスチック部品を組み合わせた医療機器では、各材料の特性を考慮した滅菌法の選択が必要である 。また、炭素鋼製器具は湿気により腐食するため、オートクレーブ後の十分な乾燥が不可欠である 。
参考)高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)にも対応する金属+樹脂の直接接…
滅菌効果の確認には生物学的指示薬(BI)の使用が推奨され、特に滅菌困難な材料では化学的指示薬との併用により滅菌の確実性を担保する 。医療従事者は、各材料の物理的・化学的特性を理解し、適切な滅菌法を選択する専門的判断能力が求められる。
参考)https://www.jsmi.gr.jp/wp/docu/2021/10/mekkinhoshouguideline2021.pdf
さらに、医療機器承認を受けていない理化学用オートクレーブは医療用器具の滅菌には使用できないため、医療現場では必ず認証を受けた医療用オートクレーブを使用する必要がある 。これは患者安全の観点から極めて重要な規制要件である。