ベルベリンの効果と作用機序

ベルベリンの効果と作用機序

ベルベリンの主要な薬理効果
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血糖降下作用

AMPK活性化を介したグルコース代謝の改善とインスリン感受性向上

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抗菌・腸管保護作用

病原菌抑制と腸内細菌叢の正常化による消化器症状の改善

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抗炎症作用

炎症性サイトカインの抑制と慢性炎症性疾患への応用

ベルベリンの血糖降下作用機序

ベルベリンの血糖降下作用は、従来のインスリン分泌促進剤とは異なる独自のメカニズムを有している 。主要な作用機序として、AMPK(アデノシンモノリン酸活性化プロテインキナーゼ)の活性化が挙げられる 。AMPKはエネルギー代謝の主要制御酵素であり、その活性化により肝細胞でのグルコース消費量が32〜60%まで増加することが確認されている 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10819502/

また、ベルベリンは膵β細胞におけるKCNH6チャネルへの直接結合により、チャネル閉鎖を促進し、ブドウ糖刺激後の脱分極を延長させてインスリン分泌を増大させる作用も報告されている 。さらに、腸管におけるジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)の局所阻害を介した血糖調節作用も明らかになっている 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10397012/

メタアナリシスによる28研究の解析では、ベルベリンが空腹時血糖値、食後血糖値、HbA1cを有意に低下させ、経口血糖降下薬との併用は単独療法よりも効果的であることが示されている 。

参考)ゴールデンシール – 24. その他のトピック – MSDマ…

ベルベリンの抗菌作用と腸管保護効果

ベルベリンは多種の病原菌に対して強い抗菌活性を示す 。特に赤痢菌、チフス菌、ブドウ球菌、病原性大腸菌などの有害細菌に対して殺菌作用を発揮し、抗生物質耐性菌に対しても有効性が確認されている 。腸炎ビブリオやキャンピロバクターに対する抗菌活性も in vitro で実証されている 。

参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=2314002F2022

腸管における作用機序では、腸内細菌叢の正常化が重要な役割を果たしている 。ベルベリンは腸内においてインドールやスカトールなどの有害アミンの生成に関与する酵素と拮抗し、腸内の腐敗発酵を防止する 。さらに、胆汁分泌作用により腸内細菌叢を正常な状態に保持し、腸管内の病原菌増殖を抑える効果も認められている 。

参考)https://medical.nihon-generic.co.jp/uploadfiles/medicine/PHELL_IF.pdf

蠕動運動抑制作用により、家兎摘出腸管の蠕動を抑制し弛緩作用を示すことで止瀉効果を発揮する 。アセチルコリン、バリウム、経壁電気刺激によるモルモット摘出腸管の収縮も抑制することが確認されている 。

ベルベリンの炎症性腸疾患に対する治療効果

岡山大学の研究グループによる画期的な発見により、ベルベリンが炎症性腸疾患(IBD)に対して新たな治療アプローチとなる可能性が示されている 。ベルベリンは腸管粘膜内のCD4+T細胞におけるAMPK活性化を誘導し、慢性腸炎マウスモデルの腸炎を抑制することが明らかになった 。

参考)炎症性腸疾患の新たな炎症抑制の機序を発見 – 国立大学法人 …

作用機序では、インターロイキン-10(IL-10)産生の亢進による傷害腸管粘膜の修復促進が重要な役割を果たしている 。腸管マクロファージにおけるfatty acid synthase活性化を介したIL-10産生の増加により、炎症性サイトカインであるインターフェロン-γとIL-17Aの産生が抑制される 。

参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-18K06698/18K06698seika.pdf

AMPK活性化の阻害実験では、炎症性サイトカインの増加が認められ、腸管炎症がAMPKに依存していることが実証されている 。この作用は腸管の炎症抑制において初めて明らかにされたものであり、従来知られていたAMPK活性化作用とは異なる新たな発見である 。

参考)https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press2019/press20191122-6.pdf

ベルベリンの心血管系および代謝への影響

ベルベリンは糖尿病治療効果のみならず、心血管疾患のリスク因子に対する包括的な改善効果を示している 。脂質代謝改善作用では、総コレステロール、トリグリセライド、LDLコレステロールを有意に低下させ、HDLコレステロールを増加させる効果が確認されている 。

参考)https://www.mdpi.com/1424-8247/17/1/7/pdf?version=1703080633

インスリン抵抗性の改善は、ベルベリンの重要な薬理作用の一つである 。マルチパスウェイメカニズムによりグルコースおよび脂質代謝を調節し、血清インスリン値の改善も認められている 。KKAyマウスを用いた実験では、体重、空腹時血糖値、脂質プロファイルの全般的な改善が観察されている 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10254920/

抗炎症作用においては、NF-κBなどの過剰に活性化した炎症経路の正常化により、酸化ストレスを抑制し、CRPやIL-6などの炎症バイオマーカーを低下させることが報告されている 。これらの多面的な効果により、慢性疾患の予防と管理における治療ポテンシャルが注目されている 。

参考)ベルベリン:血糖値を下げ、炎症を抑える二つの力

ベルベリンの安全性プロファイルと臨床応用上の考慮点

ベルベリンの安全性プロファイルは比較的良好であり、通常の用量では非常に低い毒性を示すことが確認されている 。主要な副作用としては、一部の患者で軽度の胃腸反応が発生する可能性があるものの、重篤な副作用の報告は少ない 。メタアナリシスでは、ベルベリン単独または経口血糖降下薬との併用において、総有害事象の発生率および低血糖リスクを有意に増加させないことが示されている 。

参考)ベルベリンとバーベリー(ベルベリス等祭):臨床レビュー – …

ハーブ由来成分としての特性を考慮すると、ゴールデンシールなどの植物に含まれるベルベリンは、心不全、下痢、感染症などの多様な健康問題について研究されている 。しかし、治療期間が90日を超える場合や60歳以上の患者では効果が減弱する可能性が報告されており、長期使用時の効果持続性について注意深い観察が必要である 。

参考)厚生労働省eJIM

胃腸などの粘膜への刺激が少ないため小児の下痢にも使用可能であるが、腸管出血性大腸菌(O157など)による出血性大腸炎に対しては、毒素の腸管内滞留リスクから使用禁忌とされている 。臨床応用においては、患者の基礎疾患、併用薬、年齢などを総合的に評価した適切な使用が求められる。

参考)タンニン酸ベルベリン

MSDマニュアル – ゴールデンシールの臨床エビデンス
岡山大学 – 炎症性腸疾患の新たな炎症抑制機序の発見
ベルベリンの抗糖尿病作用に関する包括的レビュー