ブラジキニンとプロスタグランジンの関係と炎症機序

ブラジキニンとプロスタグランジンの炎症機序

ブラジキニンとプロスタグランジンの炎症機序
🔥

炎症性メディエーターとしての役割

組織損傷時に産生され、痛み・腫脹・発赤を引き起こす主要な物質として機能

相互強化作用による疼痛増強

プロスタグランジンがブラジキニンの発痛作用を著明に増強する協調的メカニズム

🎯

NSAIDsによる治療標的

COX阻害によるプロスタグランジン産生抑制が炎症・疼痛制御の基盤

ブラジキニンの生理的特性と発痛メカニズム

ブラジキニンは、9個のアミノ酸から構成されるノナペプチドであり、血管透過性亢進、血管拡張、そして強力な発痛作用を示す生理活性物質である。組織損傷が発生すると、血漿から漏出した血漿キニノーゲンが血漿カリクレインやトリプシンによって限定分解され、ブラジキニンが生成される。

参考)ブラジキニン – Wikipedia

ブラジキニンは、C線維のポリモーダル受容器に作用し、既知の物質の中で最も強い発痛作用を示すことが確認されている。この発痛メカニズムは、ブラジキニンが侵害受容器のB2受容体に結合することから始まる。通常、ブラジキニンは恒常的に発現しているB2受容体を介して生理作用を誘導するが、一方でB1受容体は外傷や炎症時にのみ発現する誘導型受容体である。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/66/6/66_813/_pdf

急性の痛みは主にB2受容体を介し、慢性炎症の痛みはB1受容体を介することが研究により明らかになっている。ブラジキニンがB2受容体に結合すると、Gタンパク質を介してホスホリパーゼC(PLC)が活性化され、続いてホスファチジールイノシトール4,5,2リン酸(PIP2)がイノシトール1,4,5,3リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)に分解される。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca1981/14/3/14_3_181/_pdf

プロスタグランジンの産生と炎症における役割

プロスタグランジンは、細胞膜のリン脂質から遊離されたアラキドン酸がシクロオキシゲナーゼ(COX)の作用により変換されて生成される生理活性物質である。組織が損傷を受けた際、細胞膜のリン脂質がアラキドン酸に変化し、COXの作用によってプロスタグランジンが産生される。

参考)プロスタグランジンとはどんな関係?

プロスタグランジンE2(PGE2)は特に重要な起炎物質・発痛増強物質として知られ、血管拡張作用により血流を増大させ、発赤や熱感を引き起こす。プロスタグランジン自体には直接的な発痛作用は弱いが、ブラジキニンなどの発痛物質の疼痛閾値を低下させる重要な機能を有している。

参考)https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2013_file/release131219.pdf

炎症性発熱の機序においては、感染性刺激により視床下部視索前野のPGE2産生が亢進し、EP3受容体発現神経の興奮を抑制することで、最終的に交感神経系を亢進させて発熱応答を引き起こす。また、プロスタグランジンの発生を利用した医薬品として、血管拡張薬子宮収縮薬、消化性潰瘍薬などが臨床で使用されている。

参考)プロスタグランジン

ブラジキニンとプロスタグランジンの相互強化作用

ブラジキニンとプロスタグランジンの間には、炎症と疼痛において重要な相互強化作用が存在することが研究により明らかになっている。プロスタグランジンは、ブラジキニンと比較して直接的な発痛作用は弱いが、ブラジキニンによる発痛を著明に増強させる作用を有している。

参考)痛みのメカニズム

この相互作用の分子機構について詳細な研究が行われており、プロスタグランジンE2(PGE2)はEP3受容体を介してブラジキニンB2受容体の脱感作を減弱させることが判明している。具体的には、PGE2がEP3受容体に作用してcAMPを増加させPKAを活性化することにより、ブラジキニン反応を増強すると考えられている。

参考)KAKEN href=”https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20602007/” target=”_blank” rel=”noopener”>https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20602007/amp;mdash; 研究課題をさがす

実験的研究では、カラゲニン足浮腫モデルにおいてプロスタグランジンI2(PGI2)がブラジキニン反応を増強することが確認されており、IP受容体を介してcAMPを増加させPKAの活性化を起こすことで、ブラジキニン応答を増強することが示されている。このような複雑な相互作用により、炎症部位では単一の物質による作用以上の強い疼痛反応が生じることとなる。

参考)301 Moved Permanently

さらに、ブラジキニンによる受容体刺激に伴うPLA2の活性化を介してプロスタグランジンが生成され、痛みは相乗的に増強される。この機序は、急性炎症から慢性疼痛への移行を促進する要因として重要視されている。

参考)https://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/09jugyou/5.angiotensin.pdf

NSAIDsによるプロスタグランジン産生抑制機構

非ステロイド性抗炎症薬NSAIDs)は、アラキドン酸カスケードにおいてシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することで、プロスタグランジン類の合成を抑制し、抗炎症・鎮痛・解熱作用を発揮する。NSAIDsの作用機序は1971年にVane博士によって証明され、これにより長い間不明であった鎮痛薬の作用メカニズムが解明された。

参考)日本ペインクリニック学会

COXには恒常的に発現するCOX-1と炎症時に誘導されるCOX-2の2つのアイソザイムが存在し、従来のNSAIDsは両方を阻害するため、COX-1阻害による胃潰瘍などの副作用が問題となっていた。しかし、新しく開発されたCOX-2選択的阻害薬はCOX-1を阻害しないため、消化管障害などの副作用が少ないことが示されている。
NSAIDsは炎症局所で増加したブラジキニンなどの発痛物質の痛覚受容体感受性の閾値を低下させるプロスタグランジンの産生を抑制することで、疼痛を軽減する。具体的には、NSAIDsがCOXの疎水性チャネルを封鎖することでアラキドン酸が酵素活性部位に結合することを防ぎ、PGE2やPGI2の産生を阻害する。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/10/100_2888/_pdf

近年の研究では、COXではなくプロスタグランジンの最終合成酵素を標的とする新しいアプローチが検討されており、特に悪玉作用を示すPGE2の産生を担う膜結合型PGE合成酵素-1(mPGES-1)が注目されている。この戦略により、副作用を軽減しながらより選択的な抗炎症作用を得ることが期待されている。

参考)研究・開発の窓│プロスタグランジン産生機構の研究から、新たな…

炎症性疾患における臨床的意義と治療への応用

ブラジキニンとプロスタグランジンの相互作用は、様々な炎症性疾患の病態生理において中心的な役割を果たしている。関節リウマチにおいては、これらの炎症メディエーターが関節破壊の進行に重要な影響を与えることが知られており、NSAIDsによる治療効果の基盤となっている。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/7de2a979f8d6ae07c7d5d2cc546ee780158c4388

遺伝性血管性浮腫(HAE)においては、C1インヒビター欠損により過剰なブラジキニン産生が生じ、ヒスタミンとは異なる機序による血管性浮腫が形成される。この疾患では、従来の抗ヒスタミン薬が無効であり、ブラジキニン系を標的とした治療が必要となる点で臨床的に重要である。
疼痛管理の分野では、急性疼痛と慢性疼痛における受容体の違いが治療戦略に影響を与えている。急性の痛みは主にB2受容体を介するのに対し、慢性炎症の痛みはB1受容体を介するため、疼痛の性質に応じた適切な治療法の選択が重要となる。
最新の研究では、プロスタグランジンE2がマスト細胞上のEP3受容体に作用してマスト細胞を活性化させることが明らかとなり、EP3遮断薬が副作用の少ない抗炎症薬となる可能性が示唆されている。このような知見は、従来のNSAIDsとは異なる新しい治療標的の開発に繋がる可能性がある。
また、アルツハイマー病や大腸癌の発症・進展においても、mPGES-1の関与が確認されており、炎症メディエーターを標的とした治療戦略の応用範囲はさらに拡大している。これらの研究成果は、ブラジキニンとプロスタグランジンの相互作用に関する理解が、単なる疼痛・炎症制御を超えて、幅広い疾患の治療に応用できる可能性を示している。
ブラジキニンとプロスタグランジンの相互作用について詳細な解説が記載されています
プロスタグランジンによる神経機能調節の最新研究成果が掲載されています
プロスタグランジンE2によるブラジキニン受容体の脱感作機序に関する科研費研究報告があります