フマル酸とマレイン酸の沸点
フマル酸の沸点と物理的性質
フマル酸(トランス-2-ブテン二酸)は、分子式C4H4O4で表される不飽和ジカルボン酸です 。フマル酸の沸点は522℃と非常に高く、これは強力な分子間水素結合によるものです 。フマル酸の結晶は白色の針状結晶として存在し、300-302℃で融点を示します 。200℃で昇華する特性を持ち、密度は1.625 g/cm³です 。
フマル酸は水に対して低い溶解度(0.63g/100mL at 25℃)を示しますが、これはカルボキシ基間の強い分子間相互作用による結晶格子の安定化が原因です 。興味深いことに、フマル酸は同じ分子式を持つマレイン酸とは大きく異なる物理的性質を示します。フマル酸は加熱しても酸無水物を容易には生成しませんが、230℃で異性化脱水して無水マレイン酸になる特性があります 。
マレイン酸の沸点と熱的性質
マレイン酸(シス-2-ブテン二酸)は、フマル酸の幾何異性体として存在し、沸点は355-356℃です 。マレイン酸の融点は131℃で、フマル酸よりもはるかに低い値を示します 。この違いは、シス型構造による分子内水素結合の形成によるものです 。
参考)https://x.com/ChemBotChem/status/1465631291135913987
マレイン酸は白色結晶として存在し、比重は1.59を示します 。水に対する溶解度は78g/100mL(25℃)と非常に高く、フマル酸の約125倍の溶解度を有します 。マレイン酸は加熱により容易に無水マレイン酸を生成する特性があり、135℃で分解が始まります 。この脱水反応の容易さは、分子内での2つのカルボキシ基の近接配置によるものです。
参考)http://www.kokusan-chem.co.jp/sds/D003320.pdf
ジカルボン酸の幾何異性体による沸点差
フマル酸とマレイン酸の沸点差(167℃)は、幾何異性体による分子間相互作用の違いに起因します 。トランス型のフマル酸では、2つのカルボキシ基が分子の両端に位置するため、分子間で効果的な水素結合ネットワークを形成できます。これにより結晶格子が安定化し、高い沸点を示します 。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/110-16-7.html
一方、シス型のマレイン酸では、カルボキシ基が同じ側に配置されているため、分子内水素結合を形成しやすくなります 。この分子内水素結合により、分子間相互作用が弱くなり、結果として低い沸点を示します。このような構造-物性相関は、1887年にドイツのJ.A. Wislicenusによって初めて見出された幾何異性体の典型例です 。
フマル酸の生体内代謝と医療応用
フマル酸は生化学的にトリカルボン酸サイクル(クエン酸回路)の重要な代謝中間体として機能します 。コハク酸の脱水素反応により生成され、フマラーゼ酵素の触媒作用により水を付加してリンゴ酸に変換されます。この代謝経路は細胞のエネルギー産生において必須の過程です。
医療分野では、フマル酸から合成されるフマル酸エステルが乾癬治療薬として注目されています 。また、フマル酸は食品添加物として安全性が認められており、酸味剤、膨張剤、pH調整剤として使用されます。その殺菌力により、生鮮食品の保存料としても利用され、微生物の代謝を阻害することで抗菌効果を発揮します 。
無水マレイン酸の工業的製造と沸点特性
無水マレイン酸は、マレイン酸の脱水により生成される重要な工業原料で、沸点は202℃です 。この化合物は融点52.8-57℃の無色針状晶として存在し、昇華性を示します 。無水マレイン酸の製造過程では、共沸蒸留による脱水工程が重要な役割を果たします 。
参考)https://www.kishida.co.jp/product/catalog/msds/id/7533/code/010-47015j.pdf
工業的には、粗マレイン酸含有水溶液から共沸蒸留により無水マレイン酸を製造する際、溶媒の沸点が重要な要素となります 。適切な溶媒の沸点範囲(80-190℃)を選択することで、効率的な脱水と分離が可能になります。無水マレイン酸は合成繊維、合成樹脂、医薬品の中間体として幅広く利用されており、その熱的性質の理解は製造プロセス最適化に不可欠です 。