トシリズマブとバイオシミラーの特徴
トシリズマブバイオシミラーの承認状況と開発経緯
2025年現在、トシリズマブのバイオシミラーは世界各国で相次いで承認されています。日本では持田製薬が2025年3月にトシリズマブバイオシミラー(開発コード:RGB-19)の製造販売承認申請を行い、9月には承認を取得しています。一方、欧州では2024年12月にセルトリオンのAvtozma®(CT-P47)が欧州委員会(EC)より承認を受けており、米国では2025年5月に初のトシリズマブバイオシミラー「Tofidence」が発売されています。
参考)https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=77730
これらのバイオシミラーは、健康成人110名を対象とした第Ⅰ相臨床試験および関節リウマチ患者368名を対象とした第Ⅲ相臨床試験において、先行バイオ医薬品との同等性が確認されています。トシリズマブは1980年代に大阪大学で発見されたインターロイキン-6とその受容体の研究から生まれた、数少ない日本国産の抗体医薬品です。
参考)オルガノン社、バイオジェン社からアクテムラバイオシミラーの米…
トシリズマブバイオシミラーの作用機序とIL-6阻害効果
トシリズマブバイオシミラーは、ヒト化抗インターロイキン-6受容体モノクローナル抗体として、膜結合型および可溶性IL-6受容体の両方に特異的に結合します。IL-6は、関節リウマチの病態形成において中心的な役割を果たす炎症性サイトカインで、ESRの上昇、貧血、自己抗体の産生、関節組織の破壊などの主要症状に深く関与しています。
参考)医薬品審査センターが「トシリズマブ注射液バイオシミラー臨床試…
🔬 IL-6シグナル伝達の阻害メカニズム
- 膜結合性IL-6受容体(mIL-6R)への結合阻害
- 可溶性IL-6受容体(sIL-6R)への結合阻害
- gp130を介したシグナル伝達の完全遮断
トシリズマブは、IL-6とIL-6受容体との結合を阻害することで、IL-6の様々な生物活性を抑制し、結果として炎症反応の連鎖を断ち切る効果を示します。この作用により、関節の炎症改善だけでなく、全身の炎症性症状や機能障害の改善も期待できます。
トシリズマブバイオシミラーの臨床効果と安全性データ
セルトリオンが実施したCT-P47の第III相臨床試験では、471名の中等度から重度の関節リウマチ患者を対象に、先行バイオ医薬品との比較検討が行われました。主要評価項目であるDAS28-ESRにおいて、12週目で-0.01、24週目で-0.1という推定差を示し、事前に定義された同等性マージン内に収まることが確認されています。
参考)https://www.businesswire.com/news/home/20240607044459/ja
📊 臨床試験結果の要点
- 有効性:先行品と同等の治療効果を達成
- 安全性:治療に伴う有害事象の発生率が類似
- 免疫原性:抗薬物抗体陽性率が同等レベル
- 薬物動態:32週目までの平均血清濃度が類似
さらに、先行バイオ医薬品からCT-P47への切り替え試験においても、52週目まで特筆すべき安全性の問題は確認されず、維持群と比較して同等の忍容性が実証されています。これらの結果は、バイオシミラーの治療効果と安全性が先行品と遜色ないことを示す重要なエビデンスとなっています。
参考)https://www.businesswire.com/news/home/20250221859215/ja
トシリズマブバイオシミラーの医療経済学的意義
バイオシミラーの導入による最も大きなメリットの一つは、医療費の削減効果です。関節リウマチ患者がエタネルセプトを使用する場合の例では、先行バイオ医薬品からバイオシミラーへの切り替えにより、年間418,982円の薬剤費軽減が可能となります。これは患者負担で約125,674円、保険者負担で約293,238円の削減に相当します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001437918.pdf
💰 医療費削減効果の具体例
- エタネルセプト25mgペン:先行品10,450円 → BS 6,422円
- インフリキシマブ100mg:先行品60,223円 → BS 24,994円
- 年間薬剤費の削減幅:20-40%程度
2025年4月の薬価改定では、トシリズマブ(アクテムラ)の薬価は32,608円で据え置かれている一方、バイオシミラーの価格設定により患者と医療保険制度双方にメリットがもたらされています。厚生労働省もバイオシミラーの使用促進策として、「バイオ後続品使用体制加算」を設けるなど、積極的な普及を推進しています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001214918.pdf
トシリズマブバイオシミラーの臨床現場での独自活用法
従来の関節リウマチ治療において、トシリズマブバイオシミラーの独自の活用法として、MTX非併用療法での優位性が注目されています。ADACTA試験では、メトトレキサートを併用しない単剤療法において、トシリズマブがアダリムマブよりも優れた有効性を示すことが確認されており、MTXに不耐性または禁忌の患者群での第一選択薬としての位置づけが確立されています。
🎯 独自の治療戦略
- MTX不適応患者での単剤療法
- TNF阻害薬無効例での二次治療
- 高齢者における安全性を重視した選択
- 感染症リスク患者でのリスク軽減策
また、COVID-19治療における緊急使用の経験から、重症例でIL-6レベルが著明に上昇した患者への適応拡大も注目されています。サイトカイン放出症候群の治療薬として、新型コロナウイルス感染症診療方案にも記載されており、免疫過剰反応を制御する新たな治療選択肢として期待されています。
参考)国家医薬品監督管理局によるトシリズマブ注射液バイオシミラー医…
生物学的製剤の治療歴やバイオマーカーの特性に応じた個別化医療の観点から、IL-6阻害薬は従来のTNF阻害薬とは異なるメカニズムで作用するため、治療抵抗例に対する有力な選択肢となっています。