虚血と貧血の違いをわかりやすく解説

虚血と貧血の違い

虚血と貧血の基本的な違い
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虚血:局所的な血流不足

特定の組織や臓器への血液供給が不足した状態

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貧血:全身の酸素運搬能力低下

血液中のヘモグロビン濃度の低下による酸素供給不足

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影響範囲の違い

虚血は局所的、貧血は全身的な影響を与える

虚血の病態と発生機序

虚血とは、特定の組織や臓器に必要な酸素と栄養を含む血液が十分に供給されない状態を指します。この状態は血管の狭窄、閉塞、または血圧の著しい低下によって引き起こされます。虚血性心疾患では、冠動脈の動脈硬化によって心筋への血流が不足し、典型的には胸部圧迫感や胸痛などの症状が現れます。

虚血の主な原因には、動脈硬化による血管狭窄、血栓症、冠動脈の痙攣(冠攣縮性狭心症)、ショック状態による極度の低血圧があります。また、慢性的な高度貧血も冠動脈の血流低下を引き起こし、二次的な虚血の原因となることがあります。虚血性大腸炎の場合、便秘による大腸内圧の上昇が血管を圧迫して虚血状態を引き起こすという、より複雑な病態も存在します。

参考)虚血性大腸炎の原因|海老名胃腸内科内視鏡クリニック|海老名市…

貧血の定義と診断基準

貧血は、血液中のヘモグロビン濃度が基準値以下に低下した状態として定義されます。日本の診断基準では、成人男性で13.0g/dl以下、成人女性で12.0g/dl以下、65歳以上の高齢者では男女問わず11.0g/dl未満が貧血とされています。貧血の診断では、ヘモグロビン濃度の測定に加えて、平均赤血球容積(MCV)による分類が重要です。

貧血は平均赤血球容積によって小球性貧血(MCV 80未満)、正球性貧血(MCV 80-100)、大球性貧血(MCV 100以上)の3つに分類されます。小球性貧血の代表的な疾患は鉄欠乏性貧血で、全貧血の約70%を占めています。正球性貧血には腎機能障害による貧血や骨髄性貧血が含まれ、大球性貧血では胃切除後やアルコール性貧血が代表的です。

参考)貧血の分類と診断|貧血|大阪市北区「南森町駅」「大阪天満宮駅…

虚血性心疾患における症状と経過の特徴

虚血性心疾患の症状は、血流不足の程度と持続時間によって異なります。狭心症では労作時の胸部圧迫感や胸痛が特徴的で、安静により症状が改善します。一方、心筋梗塞では冠動脈の完全閉塞により持続的な胸痛が生じ、緊急の血行再建が必要となります。

虚血は心臓以外の臓器でも発生し、特に虚血性大腸炎では左下腹部痛、下痢、血便という特徴的な症状の組み合わせが見られます。これらの症状は感染性腸炎や潰瘍性大腸炎との鑑別が重要で、血便は便器が真っ赤になるほど大量に出る場合も多く報告されています。虚血は進行すると組織の壊死や不可逆的な機能障害を引き起こすため、早期の診断と治療介入が極めて重要です。

参考)https://konan-clin.jp/%E8%99%9A%E8%A1%80%E6%80%A7%E5%BF%83%E7%96%BE%E6%82%A3

鉄欠乏性貧血の症状と気づきにくい特徴

鉄欠乏性貧血の症状は多彩で、初期段階では気づきにくいことが特徴です。典型的な症状には疲れやすさ、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れがありますが、これらは日常的な疲労と誤解されやすいため見落とされがちです。特に高齢者では活動量が少ないため貧血に気づかないことが多く、だるさや微熱、なんとなく元気がないといった曖昧な症状で現れることがあります。

鉄欠乏性貧血に特徴的な症状として、氷食症(氷を食べたくなる)やスプーン爪(爪のそり返り)があります。氷食症は脳への酸素供給量低下や満腹中枢障害、体温調節障害が原因と考えられており、鉄欠乏性貧血の診断に役立つ重要な所見です。また、無症状で経過することも多く、健康診断の血液検査で初めて発見される場合も少なくありません。

参考)鉄欠乏性貧血の原因と症状、治療について

虚血と貧血の治療アプローチと予後の違い

虚血の治療は原因に応じて薬物療法と血行再建術が選択されます。薬物療法では冠拡張薬、ベータ遮断薬による虚血改善と、抗血栓薬による血栓予防が基本となります。重症例では経皮的冠動脈形成術(PCI)や冠動脈バイパス手術による血行再建が必要で、適切な治療により心筋虚血の解除と心機能の正常化が期待できます。

一方、貧血の治療は原因疾患の治療と鉄剤による補充療法が中心です。鉄剤内服により6-8週間でヘモグロビンは正常化しますが、貯蔵鉄(フェリチン)の正常化には6ヶ月程度を要するため、長期間の継続が重要です。男性や閉経後女性の鉄欠乏性貧血では、約16%に消化管がんが発見されるため、上部・下部消化管内視鏡検査による原因検索が必須です。心不全患者では貧血合併率が30-50%と高く、貧血の改善により予後の改善が期待されています。

参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=22824

虚血は局所的な血流不足により急性かつ重篤な症状を呈する一方、貧血は全身性の酸素運搬能力低下により慢性的で多様な症状を示すという本質的な違いがあります。両者は病態、症状、治療法、予後が大きく異なるため、適切な鑑別診断と治療選択が患者の生命予後に直結する重要な医学的課題といえるでしょう。