高血糖と感染リスクはなぜ関係するのか

高血糖と感染リスクはなぜ関係するのか

高血糖が感染リスクを高める3つのメカニズム
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好中球機能の低下

血糖値が250mg/dl以上で細菌を食べる能力が急激に低下

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免疫反応の抑制

抗体産生能力が低下し再感染のリスクが増大

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血流障害の発生

毛細血管の血流悪化で免疫細胞が感染部位に到達困難

高血糖による好中球機能の低下メカニズム

糖尿病患者の易感染性の主要な原因として、好中球の機能低下が挙げられます 。好中球は白血球の一種で、体内に侵入した細菌やウイルスを貪食(食べる)する重要な役割を担っています 。

参考)糖尿病で感染症になりやすい理由とは

研究によると、血糖値が250mg/dl以上になると好中球の貪食能が急激に低下することが判明しています 。具体的なメカニズムとして、高血糖状態では好中球内のNADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の減少が起こり、活性酸素産生能が著しく低下します 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscc1971b/22/3/22_168/_pdf

さらに、in vitro実験では、90~500mg/dlの濃度範囲でブドウ糖溶液中に好中球を浮遊させた場合、生理的濃度以上の高血糖により好中球の遊走能、貪食能、殺菌能が有意に減弱することが示されています 。このような機能障害は、感染病巣での除菌を妨げ、感染症の重症化や難治化の要因となります。

参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06405/064050735.pdf

高血糖が引き起こす免疫反応の抑制機序

高血糖状態は獲得免疫にも深刻な影響を及ぼします 。獲得免疫とは、一度感染した病原体に対して抗体が作られ、次回の侵入時に迅速に対応する仕組みです 。

参考)25. 糖尿病と感染症

糖尿病患者では、この免疫反応が著しく低下することが知られています。高血糖により抗体産生細胞であるB細胞やT細胞の機能が抑制され、病原体特異的抗体の産生能力が減弱します 。これにより、同じ病原体に繰り返し感染するリスクが増大します。

参考)糖尿病患者さんの免疫力低下について

また、糖尿病性神経障害により感覚鈍麻が生じ、感染症の初期症状を見逃しやすくなることも問題です 。このため感染の発見が遅れ、その間に病原体が体内で増殖し、重症化に至る可能性が高まります。

参考)https://www.toukaidou.com/archive/5604/

高血糖による血流障害と感染拡大の関係

高血糖は微小血管系に深刻な影響を与え、血流障害を引き起こします 。毛細血管の血流が悪化すると、身体中に十分な酸素や栄養が届けられなくなり、細胞機能が全般的に低下します。

参考)糖尿病と感染症:免疫力が下がるって本当?|立川市の内科より解…

特に重要な点は、血流障害により好中球が感染部位に到達しにくくなることです 。さらに、糖尿病による微小血管障害は炎症反応時に低酸素環境から嫌気環境を作り出し、これが好中球と単核球の機能低下に関与することも明らかになっています 。

参考)糖尿病患者がかかりやすい感染症(1/3) │ KANSEN …

加えて、高血糖状態では尿中に糖が多く排泄されるため、尿路や外陰部において細菌が繁殖しやすい環境が形成されます 。これにより尿路感染症のリスクが大幅に増加し、しばしば再発を繰り返すことになります。

感染症によるサイトカインストームと高血糖の悪循環

糖尿病患者が感染症に罹患すると、サイトカインストームと呼ばれる免疫システムの暴走が起こりやすくなります 。サイトカインとは、感染症が引き金となって炎症細胞や血管内皮細胞から分泌されるタンパク質です。

参考)【新型コロナ】糖尿病や肥満の人が重症化するのを防ぐ治療法の開…

感染時には、インスリンを効きにくくする物質(TNF-α、IL-1、IL-6などのサイトカイン)が大量に分泌されます 。これらの物質はインスリン抵抗性を増強し、血糖値を普段より高く押し上げます 。

参考)糖尿病と新型コロナウイルスについて

興味深いことに、糖尿病患者は肥満や高血圧、心血管疾患を合併していることが多く、これらの病態では血管や全身に慢性炎症が既に存在しているため、サイトカインストームがより起こりやすい状態にあります 。このため多臓器不全に陥り、重症化するリスクが健常人と比べて著しく高くなります。

参考)糖尿病は新型コロナウイルスが重症化しやすい?

高血糖環境における病原微生物の増殖促進機構

高血糖状態は病原微生物にとって理想的な増殖環境を提供します 。まず、高血糖自体が細菌の好む栄養豊富な環境であり、特にブドウ球菌や大腸菌などのグラム陽性菌・グラム陰性菌の増殖が促進されます。
細菌は糖を主要なエネルギー源として利用し、グリコーゲンとして蓄積する能力を持ちます 。高グルコース環境では、細菌内でADP-グルコース量が増加し、グリコーゲン合成転写因子(GgaR)が不活性化され、グリコーゲンの蓄積が促進されます 。

参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000076.000119558.html

また、高血糖により組織内の浸透圧が上昇し、細胞膜の透過性が変化することで、病原体の細胞内侵入が容易になります 。このような複合的な要因により、糖尿病患者では感染が成立しやすく、かつ治療に抵抗性を示すことが多くなります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4731895/

糖尿病性腎症の進行に伴い、尿中への糖の排泄が増加すると、尿路系での細菌増殖がさらに促進されます 。特に女性では膀胱炎から腎盂腎炎への上行感染のリスクが高まり、重篤な敗血症に進展する可能性もあります。

参考)https://www.mdpi.com/2075-1729/13/2/539