薬物代謝をわかりやすく解説

薬物代謝とはわかりやすく

薬物代謝の基本理解
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ADME概要

吸収・分布・代謝・排泄の総合的プロセス

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CYP酵素系

シトクロームP450による主要な代謝機構

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個人差要因

遺伝・環境・生理的因子による代謝能変動

薬物代謝の基本メカニズムとADME概念

薬物代謝は、体内に取り込まれた薬物を体外に排出しやすい形に変化させる生体反応です。この過程は、吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)の4つのステップからなり、頭文字を取ってADMEと呼ばれています。

参考)薬物の体内動態(吸収、分布、代謝、排泄)を知っておこう

薬物代謝の主な目的は、脂溶性の高い薬物を水溶性に変換することです。肝臓が薬物代謝の中心的な臓器として機能し、ここで薬物はより極性の高い化合物へと変化させられます。この変換により、薬物は腎臓、肺、胆汁、皮膚、便を通じて体外へ排出されやすくなります。

参考)飲んだ薬はどのようにして体の中で働くのか?

投与された薬物は、まず消化管から吸収され、門脈を通じて肝臓に到達します。肝臓では初回通過効果により一部の薬物が代謝され、残りの未代謝薬物が全身循環に入って標的部位に到達し薬効を発揮します。

参考)くすりを飲んでから、効果を発揮して体から出ていくまで。くすり…

薬物代謝酵素CYPの種類と特異性

シトクロームP450(CYP)は、薬物代謝における最も重要な酵素群です。ヒトに投与される薬物の代謝反応の約80%に関与し、酸化反応により薬物を分解して体外排出しやすい形にします。

参考)CYP(薬物代謝酵素)とは

薬物代謝に関わる主要なCYPは6種類あります:

参考)CYP酵素系とは何か?基本となるメカニズムの解説~CYP酵素…

  • CYP1A2: フルボキサミンに阻害され、カルバマゼピンで誘導される
  • CYP2C9: アミオダロンで阻害され、リファンピシンで誘導される
  • CYP2C19: オメプラゾールで阻害され、リファンピシンで誘導される
  • CYP2D6: パロキセチンで阻害され、誘導薬は知られていない
  • CYP2E1: アセトアミノフェンで阻害され、エタノールで誘導される
  • CYP3A4: ベラパミルで阻害され、リファンピシンで誘導される

特にCYP3A4は現在臨床で使用されている医薬品の50%以上の代謝に関与しており、薬物治療の最適化を考える上で最も重要な代謝酵素です。肝臓だけでなく小腸にも豊富に発現し、経口投与薬物の初回通過代謝に重要な役割を果たします。

参考)https://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/byoyaku/Research/Transporter.html

薬物代謝第一相反応と第二相反応の詳細

薬物代謝反応は、第一相反応と第二相反応に大別されます。それぞれ異なるメカニズムと目的を持ち、協調して薬物の排出を促進します。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/9/1/9_25/_pdf

第一相反応は、酸化・還元・加水分解により薬物に極性の高い官能基を導入し、水溶性を高める反応です。主要な反応には以下があります:

参考)薬4-1版_立ち読み

  • 酸化反応: CYPによる水酸基導入が代表的
  • 還元反応: ニトロ基のアミノ基への変換など
  • 加水分解反応: エステル結合の切断など

    参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00382.html

この段階では薬物の分子量は大きく変化せず、極性官能基の導入により水溶性が向上します。
第二相反応は抱合反応とも呼ばれ、第一相反応で生じた官能基に内因性物質を結合させる反応です。主な抱合物質には:

  • グルクロン酸抱合
  • 硫酸抱合
  • グルタチオン抱合
  • アセチル抱合

第二相反応により分子量と極性が大幅に増加し、腎臓や肝臓からの排泄が促進されます。

薬物代謝能の個人差に影響する要因分析

薬物代謝には50-100倍という大きな個人差が存在し、これが薬効や副作用の個人差の主要な原因となっています。この個人差を決定する要因は複数あります。

参考)薬物代謝関連因子の新たな発現調節機構の解明

遺伝的要因が最も重要で、CYP遺伝子の多型により各種薬物の代謝速度に個人差が現れます。酵素活性が低い場合は薬物血中濃度が過度に上昇し副作用リスクが高まり、活性が高い場合は薬効が減弱する可能性があります。特にCYP2D6、CYP2C19の遺伝多型は臨床的意義が高く、人種間でも頻度が異なります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/39/6/39_6_368/_pdf

生理的要因として以下が挙げられます:

参考)https://www.kpu-m.ac.jp/doc/classes/igaku/tiiki/files/32320.pdf

環境的要因では、併用薬による薬物間相互作用が重要です。CYP酵素の阻害や誘導により、薬物代謝が著明に変化します。喫煙、飲酒、食事なども薬物代謝に影響を与える外的要因として知られています。
これらの要因を統合的に評価することで、患者個々の薬物動態特性を把握し、個別化医療の実現に繋がります。

薬物代謝における肝外組織の重要な役割

薬物代謝は肝臓で主に行われると理解されがちですが、実際には多くの肝外組織でも重要な代謝反応が進行します。これらの組織での代謝は、薬物の生体内運命に大きな影響を与えます。

参考)301 Moved Permanently

小腸は経口投与薬物にとって極めて重要な代謝部位です。小腸粘膜にはCYP3A4とP糖蛋白質(P-gp)が豊富に発現しており、吸収過程での代謝と排出の両方に関与します。この小腸での初回通過代謝により、多くの薬物のバイオアベイラビリティが制限されています。
その他の肝外組織でも薬物代謝が行われます:

  • 腎臓: 特に腎クリアランスの高い薬物の代謝
  • : 吸入薬や揮発性薬物の代謝
  • 皮膚: 経皮投与薬物の代謝
  • : 中枢神経系薬物の代謝
  • 消化管: 消化管内での薬物変換

これらの肝外代謝は、薬物の臓器選択性や副作用発現に密接に関連しています。特に、標的臓器での局所代謝は薬効発現や毒性発現の重要な決定因子となります。
鼻粘膜や呼吸器系組織にも薬物代謝酵素とトランスポーターが存在し、点鼻薬や吸入薬の薬物動態に影響を与えています。これらの知見は、投与経路の選択や剤形設計において重要な情報となります。
薬物代謝の詳細な機序と臨床的意義について
日本薬学会による薬物代謝の定義と分類
CYP酵素系の基本メカニズムと相互作用