多剤併用による副作用の理解と対策

多剤併用による副作用

多剤併用による副作用の概要
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薬物相互作用による副作用

複数薬物の併用で生じる薬物動態学的・薬力学的相互作用

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処方カスケードのリスク

副作用が新たな病状として誤認され連鎖的に処方が増加

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高齢者での高発生率

75歳以上の4割が5種類以上の薬剤を使用し副作用リスクが増大

多剤併用による薬物動態学的相互作用

薬物動態学的相互作用は、ある薬物が他の薬物の吸収、分布、代謝、排泄に影響を与えることで血中濃度が変動し、副作用や効果減弱を引き起こす現象です。特に重要なのが、肝臓のシトクロムP450酵素系での代謝阻害や誘導で、CYP3A4で代謝される薬物が最も多いため、相互作用も頻繁に発生します。
代表的な例として、マクロライド系抗生物質がシクロスポリンやカルシウム拮抗薬のCYP3A4による代謝を阻害し、血中濃度上昇による副作用を引き起こすことがあります。また、トランスポーターを介した相互作用では、免疫抑制剤がOATP1B1トランスポーターを阻害することで脂質異常症治療薬の肝取り込みが阻害され、血中濃度上昇による副作用が報告されています。
薬物動態学的相互作用は、特に腎機能や肝機能が低下した高齢者において顕著に現れ、通常では問題にならない薬物でも重篤な副作用を引き起こす可能性があります。これらの相互作用による副作用は多くが予測可能であり、適切な薬剤選択と用量調整により回避可能です。

参考)薬物有害反応 – 23. 臨床薬理学 – MSDマニュアル …

多剤併用における薬力学的副作用

薬力学的相互作用では、血中濃度に関係なく複数の薬物が同一または関連する受容体や生理機能に作用することで、副作用が増強または減弱されます。最も危険な組み合わせとして、β遮断薬とβ2刺激薬の併用があり、同一レセプターでの拮抗により気管支拡張作用が低下し、喘息悪化のリスクが高まります。

参考)薬物相互作用 – 23. 臨床薬理学 – MSDマニュアル …

特に問題となるのは、スルフォニル尿素系血糖降下薬とβ遮断薬の併用です。これらは異なる受容体に作用しますが、β遮断薬が低血糖時のエピネフリン作用を阻害するため、血糖降下薬の作用が増強され、重篤な低血糖や低血糖からの回復抑制が発生します。
抗精神病薬の多剤併用では、単剤療法と比較して錐体外路症状のリスクが1.63倍、ジストニアのリスクが5.91倍に増加し、副作用スコアも有意に高値を示すことが大規模研究で明らかになっています。また、睡眠薬と抗うつ薬の併用では、両者の鎮静作用が相加的に働き、過度の眠気や転倒リスクが増大します。

参考)抗精神病薬の多剤併用は50年間でどのように変化したのか|医師…

多剤併用における処方カスケード現象

処方カスケードは、薬物による有害事象が新たな病状として誤認され、それに対する治療薬が追加処方される現象で、多剤併用による副作用の重要な原因の一つです。例えば、痛み止めによる便秘が副作用ではなく新たな疾患として扱われ、便秘薬が追加処方され、さらにその薬剤による副作用で新たな薬剤が処方される連鎖が生じます。

参考)多くの薬を服用することの問題点

処方カスケードが発生しやすい状況として、複数医療機関受診による薬剤情報の不連携、Do処方による不適切な薬剤継続、服薬アドヒアランス低下による薬効不足の誤認があります。特に高齢者では、ふらつきや認知機能低下が薬剤の副作用ではなく加齢による変化と判断され、新たな治療薬が追加される場合が多く見られます。

参考)ポリファーマシーって知っていますか?-その症状はくすりの副作…

このような処方カスケードは、患者の薬剤負担と医療費増大だけでなく、真の原因となる薬剤の特定を困難にし、重篤な副作用の見逃しにもつながります。医療従事者間の情報共有とお薬手帳の活用により、処方カスケードの早期発見と予防が可能となります。

参考)https://www.city.tsuyama.lg.jp/common/photo/free/files/10567/202010020810420299843.pdf

多剤併用における高齢者特有の副作用リスク

高齢者では、生理機能の変化により薬物動態が大きく変化し、多剤併用による副作用リスクが著明に増大します。加齢に伴い肝代謝能は40歳以降約1%/年の割合で低下し、腎機能も同様に低下するため、薬物の血中濃度が上昇しやすくなります。また、体脂肪量の増加により脂溶性薬物が蓄積しやすく、体内水分量の減少により水溶性薬物の血中濃度が上昇しやすくなります。

参考)高齢者の薬物動態|薬に影響する加齢の3つの変化

75歳以上の高齢者では約4割が5種類以上の薬剤を使用しており、6種類以上になると副作用の発生頻度が顕著に増加します。特に問題となる副作用として、ふらつき・転倒による骨折、意識障害、低血糖、肝機能障害などがあり、これらは重篤な健康被害や死亡につながる可能性があります。

参考)Vol.06 複数の薬を飲んで体調不良? それ「ポリファーマ…

チトクロムP450酵素系による第I相反応の代謝能は高齢者で特に低下するため、この経路で代謝される薬物では用量調整が必要です。一方、グルクロン酸抱合などの第II相反応は加齢の影響を受けにくいため、高齢者では第II相反応で代謝される薬剤の選択が推奨されます。

参考)高齢者における薬物動態 – 20. 老年医学 – MSDマニ…

多剤併用副作用に対する革新的予防戦略

多剤併用による副作用予防には、従来の減薬アプローチに加え、薬物療法以外の治療手段を積極的に導入する包括的戦略が重要です。生活習慣の改善、環境調整、ケアの工夫、専門職による運動療法、食事療法、心理療法、リハビリテーションなどの非薬物的介入により、薬物療法の必要性自体を減少させることができます。

参考)https://www.jpma.or.jp/information/industrial_policy/proper_use/lofurc0000003wdk-att/kaiin.pdf

薬剤師による薬剤レビューシステムでは、定期的な薬剤リストの見直し、薬剤相互作用チェック、不適切処方の同定により、副作用リスクを大幅に軽減できます。また、患者教育と情報提供により、症状変化の早期発見と適切な対応が可能となります。

参考)ポリファーマシーの予防と対策について

最新の取り組みとして、電子薬歴システムとAI技術を活用した処方カスケード検出システムの開発が進んでいます。これにより、複数医療機関での処方情報を統合し、副作用と新規処方のパターンを自動検出することで、処方カスケードの早期発見と予防が期待されています。さらに、薬理遺伝学的検査の活用により、個々の患者の薬物代謝能に基づいた個別化医療により、副作用リスクを最小化する精密医療アプローチも注目されています。