デパケンの効果と作用機序
デパケンの抗てんかん効果とメカニズム
デパケン(バルプロ酸ナトリウム)は、脳内の抑制性神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA)濃度を上昇させることで、強力な抗てんかん作用を発揮します 。主な作用機序として、GABAを分解する酵素(GABAトランスアミナーゼ)の働きを抑制し、脳内のGABA濃度を維持・増加させて発作を抑制します 。
参考)デパケンの「片頭痛発作の発症抑制」に関する「効能・効果」「用…
デパケンは、小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作といった各種てんかんに対して幅広い効果を示し、現在でも全般発作に対する第1選択薬として位置づけられています 。さらに、てんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の改善にも効果を発揮します 。
興味深い点として、デパケンは単一の作用機序ではなく、GABA系以外にもドパミン濃度の上昇やセロトニン代謝の促進など、複数のメカニズムを通じて脳内の抑制系を活性化させます 。これにより、従来の抗てんかん薬では効果が不十分だった症例に対しても治療選択肢を提供しています。
デパケンの躁状態治療効果
デパケンは2002年から躁病および躁うつ病の躁状態の治療薬として承認されており、気分安定薬として重要な役割を果たしています 。バルプロ酸は、特にイライラを伴う躁状態に対して比較的速やかかつ明確な効果を期待できるのが特徴です 。
参考)バルプロ酸(デパケン):{こころ診療所吉祥寺駅前}京王井の頭…
気分安定薬としてのデパケンの効果は、GABA神経伝達促進作用が抗躁作用へ寄与していると考えられています 。他の気分安定薬と比較すると、抗躁効果は中~やや高め、抗うつ効果は弱め、再発予防効果は中~やや高めという特性を持ちます 。
参考)精神科 くすりのはなし㉗ デパケン(バルプロ酸ナトリウム)と…
躁うつ病の治療においては、急性期の躁症状だけでなく、イライラの改善にも特に効果を発揮し、再発予防の作用もあるため継続使用が必要とされています 。また、躁病の動物モデルに対する実験でも、デキサンフェタミンによる異常行動を抑制する効果が確認されており、科学的根拠に基づいた治療効果が実証されています。
デパケンの片頭痛発症抑制効果
2011年に「片頭痛発作の発症抑制」の効能・効果が追加承認されたデパケンは、片頭痛治療における新たな選択肢として注目されています 。通常、1日量バルプロ酸ナトリウムとして400〜800mgを1日1〜2回に分けて経口投与し、年齢・症状に応じて適宜増減しますが、1日量として1,000mgを超えないよう設定されています 。
片頭痛に対するデパケンの効果は、脳内でグルタミン酸脱炭酸酵の活性化とGABAアミノ基転移酵素阻害を通じて発揮されると考えられています 。GABA神経伝達促進作用が片頭痛発作の発症抑制作用へ寄与しており、脳内の抑制系を活性化させることで片頭痛の発症頻度を減少させます 。
参考)㈼-3-8 抗てんかん薬(バルプロ酸)は片頭痛の予防に有効か
重要な点として、デパケンは発現した頭痛発作を緩解する薬剤ではないため、投与中に頭痛発作が発現した場合には必要に応じて頭痛発作治療薬を頓用させる必要があります 。片頭痛発作の急性期治療のみでは日常生活に支障をきたしている患者にのみ投与すべきであり、予防的治療としての位置づけが明確に定められています。
デパケンの血中濃度モニタリングと用法用量
デパケンの治療上有効な血中濃度(参考域)は40~120μg/mLと設定されており、適切な治療効果を得るためには定期的な血中濃度測定が重要です 。各種てんかんおよびてんかんに伴う性格行動障害の治療では、定常状態に到達する初回投与後または投与量変更後の3~5日目以降のトラフ値(最低濃度)を測定します 。
血中濃度測定の頻度については決まりはありませんが、治療効果が不十分な場合、副作用発現時、服薬状況の確認、投与量調節時、多剤併用時、妊娠中、肝障害、腎障害等の場合に実施することが推奨されています 。一方、躁病および躁うつ病の躁状態、片頭痛発作に対しては、原則的に血中濃度測定の実施は必須ではありませんが、用量増減時に臨床状態の変化があった場合等には測定が望ましいとされています。
バルプロ酸は血中濃度の増加に伴い蛋白結合率が低下するため、投与量の増加に伴い濃度変化は緩やかとなる特徴があります 。遊離VPA濃度5~15μg/mLは総濃度50~100μg/mLに相当し、中毒発現濃度は総濃度100~120μg/mL以上といわれています 。
参考)https://www.kchnet.or.jp/for_medicalstaff/LI/item/LI_DETAIL_825500.html
徐放製剤のデパケンRとセレニカRでは、薬物動態に差異があります。毎日内服した場合、デパケンRでは約9.4時間で最高血中濃度に達し、セレニカRでは約15.8時間で最高血中濃度に達するため、投与間隔の調整が必要です 。
参考)バルプロ酸(デパケン、デパケンR、バレリン、セレニカR)の特…
デパケンの副作用と安全性プロファイル
デパケンRの副作用調査では、承認時まで及び承認後の副作用調査症例3,919例中254例(6.5%)に副作用発現が認められ、特に注意すべき副作用として高アンモニア血症(0.9%)、傾眠・眠気(0.9%)、悪心・嘔吐(0.7%)が報告されています 。
重篤な副作用として、劇症肝炎等の重篤な肝障害、黄疸、脂肪肝等があげられ、肝障害とともに急激な意識障害があらわれることがあるため、定期的な肝機能検査が必要です 。また、高アンモニア血症を伴う意識障害も重要な副作用であり、意識がぼんやりする、反応が鈍くなるなどの症状に注意が必要です 。
血液障害として、溶血性貧血、赤芽球癆、汎血球減少、重篤な血小板減少、顆粒球減少等が報告されており、あざができやすい、鼻血が出やすい、熱が続く、のどが痛いなどの症状を認めた場合は速やかに医療機関を受診する必要があります 。血小板減少はバルプロ酸の血中濃度の高さとともにリスクが増加することが報告されているため、血中濃度モニタリングが重要です 。
参考)バルプロ酸の効果や副作用を医師が解説【片頭痛の予防薬】 – …
長期服用に伴う慢性的な副作用として、食欲増進、体重増加が挙げられ、薬を開始してから数年たつと症状が薬と結びつかなくなるため見逃されがちになりやすく、定期的な観察が必要です 。眠気やふらつきが生じる場合は、自動車の運転や危険な機械の操作、高所での作業などは避けるよう指導することが重要です 。