トロビシンの効果と時間
トロビシンの作用機序と効果発現時間
トロビシン(スペクチノマイシン塩酸塩)は、細菌細胞内のリボソーム30Sサブユニットに作用し、タンパク質合成を阻害することで抗菌効果を発揮します 。この作用機序により、特に淋菌に対して高い選択性を示すのが特徴です 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00056627.pdf
筋肉内注射後の効果発現時間について、トロビシン2g投与後30分で平均77.8μg/mLの血中濃度に到達し、約30分後には血液中に薬が行き渡り治療が始まります 。🩸 血中濃度のピークは投与後1時間で91.4μg/mLに達し、その後徐々に減少していきます 。
参考)https://www.urol.or.jp/cms/files/info/60/20191224.pdf
in vitro試験において、6.25μg/mLの濃度でも添加後4時間目より殺菌作用が現れ、24時間以内に生菌数は約2×10⁷cells/mLから10¹cells/mL以下となることが確認されています 。この結果は、トロビシンが時間依存性の殺菌作用を持つことを示しています。
トロビシンの血中濃度推移と持続時間
トロビシン2g筋肉内注射後の血中濃度推移は特徴的なパターンを示します 。投与後30分で77.8μg/mL、1時間でピークの91.4μg/mL、2時間で71.8μg/mL、4時間で45.9μg/mL、6時間でも20.1μg/mLの高い濃度を維持します 。
参考)https://labeling.pfizer.com/ShowLabeling.aspx?id=15864
🔬 薬物動態の特徴として、トロビシンは生体内で代謝されることなく、主に糸球体濾過により腎臓から排泄されます 。尿中濃度についても、投与後30分で1,455.6μg/mL、1時間でピークの7,086μg/mL、2時間で5,434μg/mL、4時間で2,748μg/mL、6時間でも1,222μg/mLと非常に高い濃度を示し、6時間までの尿中回収率は平均45.5%となります 。
参考)スペクチノマイシン – 13. 感染性疾患 – MSDマニュ…
薬物動態的には、半減期が比較的短く、α相でのT1/2は0.24時間、β相でのT1/2は0.75時間、γ相でのT1/2は19.5時間と報告されていますが、γ相の血漿中濃度は最小発育阻止濃度(MIC)より低値であり、抗菌効果には寄与しないと考えられています 。
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kya20120718003amp;fileId=201
トロビシンの淋菌感染症に対する治療効果
国内臨床試験では、10施設、調査症例200例について検討した結果、淋菌による淋疾に対する有効率は93.0%(186/200例)という高い治療効果が確認されています 。💊 治療の特徴として、トロビシンは通常1回2gの筋肉内注射で治療が完了し、効果不十分な場合は1回4gの追加投与が検討されます 。
参考)トロビシン筋注用2gの効果・効能・副作用
治療後の経過観察については、本剤は1回投与後3~5日間は経過を観察し、効果判定を行うことが重要です 。セフトリアキソン注射やアジスロマイシン内服と同様に、1回の投与で効果が期待できる治療薬として位置づけられています 。
参考)「淋病かもしれない」と思ったら|治療期間や症状、受診の流れを…
ただし、トロビシンは淋菌性咽頭炎には無効であることが知られており、適応症の選択には注意が必要です 。また、米国では2001年にトロビシンの供給が中止されており、現在では主にセフトリアキソンによる治療が不可能な患者のみに適応が限定されている地域もあります 。
参考)スペクチノマイシン – Wikipedia
トロビシンの特殊な薬理学的性質
トロビシンは、アミノグリコシド系抗生物質と化学的に近縁でありながら、独特の薬理学的特性を持っています 。🧬 分子構造的特徴として、スペクチノマイシンはイノシトール環を基本骨格とするアミノシクリトール系抗生物質で、真正細菌のStreptomyces spectabilisによって産生されます 。
他のアミノグリコシド系薬剤と異なり、トロビシンは腎毒性や聴覚毒性のリスクが低いことが特徴です 。アミノグリコシド系薬剤の典型的な有害作用である腎毒性(しばしば可逆的)、前庭および聴覚毒性(しばしば不可逆的)、神経筋遮断薬の作用の遷延といった副作用がトロビシンでは報告されていません 。
臨床試験における副作用は、注射部位の疼痛あるいは局所痛が19.0%(38/200例)に認められたのみで、その他には特に副作用と認められる報告や臨床検査値異常が認められた症例はありませんでした 。この安全性の高さは、ペニシリンアレルギー患者にも安全に使用できる理由の一つとなっています。
参考)トロビシン筋注用2gの効能・副作用|ケアネット医療用医薬品検…
トロビシンの耐性菌対策と臨床的位置づけ
淋菌の薬剤耐性は世界的な問題となっており、従来の治療薬に対する耐性菌の増加が報告されています 。🦠 耐性機序について、Pasteurella multocidaの16SリボソームRNAにより耐性を持つものが存在することが知られていますが、淋菌におけるスペクチノマイシン耐性は比較的まれとされています 。
参考)fr2505.html
現在の淋菌感染症治療において、第一選択薬はセフトリアキソンとなっていますが、セフトリアキソン耐性菌や多剤耐性菌に対する代替治療薬としてトロビシンの重要性が再認識されています 。特に、日本においては現在も供給が継続されており、耐性菌感染症に対する貴重な治療選択肢となっています 。
参考)淋菌感染症の症状、感染経路、潜伏期間、検査、治療、予防につい…
分子クローニングの分野では、スペクチノマイシン耐性遺伝子が細菌の選択マーカーとして利用されており、また形質転換された植物細胞の選択剤としても応用されています 。これらの研究ツールとしての応用も、トロビシンの薬理学的特性を活かした重要な用途の一つです。