ドナネマブの費用と負担軽減制度
ドナネマブの薬価決定と年間費用
厚生労働省の中央社会保険医療協議会は2024年11月13日、アルツハイマー病治療薬「ドナネマブ(商品名:ケサンラ)」の薬価を350mg20mL1瓶当たり6万6,948円と承認しました 。体重50キログラムの成人患者の場合、年間治療費は約308万円となる見込みです 。
参考)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA057ZT0V01C24A1000000/
この薬価は、同じアミロイドβ除去薬であるレカネマブ(年間298万円)とほぼ同等の価格設定となっています 。ドナネマブの投与方法は、初回から3回目まで1回700mgを4週間隔で行い、その後は1回1,400mgを4週間隔で最長18カ月間継続します 。
参考)https://honobono-clinic.com/blog/2722.html
米国での価格が年間約26,500ドル(約490万円)であることを考慮すると、日本での薬価は相対的に抑制された設定となっています 。ピーク時の投与患者数は2万6,000人で、年間販売額は796億円に達すると予測されています 。
参考)https://medical.nihon-generic.co.jp/topics/news/121/
ドナネマブの保険適用と自己負担割合
ドナネマブは2024年11月20日から公的医療保険の適用対象となり、患者の自己負担割合は年齢や所得に応じて1~3割となります 。具体的な負担割合は、70歳未満の現役世代が3割負担、70~74歳が2割負担(現役並み所得者は3割)、75歳以上の後期高齢者が1割負担(一定以上所得者は2割、現役並み所得者は3割)となっています 。
参考)https://www.yomiuri.co.jp/medical/20241113-OYT1T50168/
月1回の治療における自己負担額の概算は、1割負担の場合は初回~3回目が約1万3,400円、4回目以降が約2万7,000円となります 。2割負担では初回~3回目が約2万7,000円、4回目以降が約5万4,000円、3割負担では初回~3回目が約4万円、4回目以降が約8万円の負担となる見込みです 。
参考)https://www.ncgg.go.jp/hospital/monowasure/news/20250318.html
保険適用により、患者の経済的負担は大幅に軽減されることになりますが、それでも月数万円程度の自己負担が発生します 。
高額療養費制度による費用負担の軽減効果
ドナネマブの治療には高額療養費制度が適用され、月々の医療費自己負担額に上限が設けられます 。70歳以上で年収370万円未満の一般所得層の場合、外来での負担上限は月額1万8,000円となり、年間でも14万4,000円程度に抑えられます 。
参考)https://chiken-japan.co.jp/blog/dementia-system/
70歳未満の現役世代では、年収約370万円~770万円の標準報酬月額28万円以上50万円未満の場合、月額上限は8万100円+(医療費-26万7,000円)×1%となります 。さらに、同一世帯で12カ月以内に自己負担上限額に3回以上達した場合は「多数回該当」が適用され、4回目以降の上限額がさらに軽減されます 。
参考)https://www.ebinou.com/donanemabu_kesanra/
ドナネマブは最大18カ月間の治療となるため、多数回該当の適用により実質的な負担がさらに軽くなる可能性があります 。例えば70歳未満の一般所得者の場合、多数回該当後は月額4万4,400円まで上限が下がります 。
ドナネマブ治療における経済的支援制度の活用
ドナネマブの治療費負担軽減には、高額療養費制度以外にも複数の支援制度が利用できます。精神科通院に対する「自立支援医療制度」では、自己負担が1割に抑えられ、市区町村の障害福祉課で申請が可能です 。この制度は75歳以上の後期高齢者医療保険と同じ1割負担となり、長期的な治療において経済的メリットがあります 。
参考)https://www.sagasix.jp/column/dementia/jiritsushien/
医療費控除制度も活用でき、年間の医療費が10万円を超える場合や総所得金額の5%を超える場合に所得税の控除対象となります 。また、認知症の症状が重度の場合は精神障害者保健福祉手帳の取得により、所得税控除や公共交通機関の割引が適用される可能性があります 。
住民税非課税世帯の場合は、高額療養費制度の上限額がさらに低く設定されており、外来での月額上限は8,000円となります 。これにより低所得世帯でも治療へのアクセスが確保されています。各種制度の併用により、患者と家族の経済的負担を大幅に軽減することができます。
ドナネマブの費用対効果と社会経済への影響分析
ドナネマブの高額な薬価は医療費に大きな影響を与える一方で、認知症の社会的コストの削減効果も期待されています。認知症の社会的コストは2030年には21兆円に達すると予測されており、このうち9.7兆円が介護費、9兆円弱がインフォーマルケア(家族の無償介護)のコストとされています 。
参考)https://research.nira.or.jp/navi/research/2021/10/hl2110.html
ドナネマブの治療効果により病気の進行が遅延することで、要介護期間の短縮や介護度の軽減が期待され、長期的には介護保険制度への負担軽減につながる可能性があります 。投与期間が原則18カ月で終了する特徴があり、12カ月時点でアミロイドPET検査によりAβプラークの除去が確認されれば治療を完了できるため、レカネマブと比較して総治療費の抑制効果も期待されます 。
ピーク時の年間販売額796億円という予測に対し、介護費用や社会保障費の削減効果を考慮した費用対効果の検証が重要となります 。限られた医療資源の効率的活用の観点から、適応対象の明確化や治療継続基準の厳格化により、医療経済への影響を最適化することが求められています。