ドンペリドンの効果と作用機序
ドンペリドンの基本的な薬理作用
ドンペリドンはドパミンD2受容体拮抗薬として作用する消化管運動改善薬です 。この薬剤の主要な効果は2つの異なる部位でのD2受容体遮断によって発揮されます 。
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中枢神経系では、延髄に存在する化学受容器引金帯(CTZ)でのD2受容体を抑制することにより強力な制吐作用を示します 。また、消化管では胃壁内神経叢のD2受容体を遮断することで、胃・十二指腸の運動を亢進させ、消化管運動の協調性を改善します 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00062792.pdf
特に注目すべき点は、ドンペリドンが血液脳関門を通過しにくいため、末梢作用が主体となることです 。この特性により、中枢性の副作用である錐体外路症状の発現頻度が他のドパミンD2受容体拮抗薬と比較して低いとされています 。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2017/02_08.pdf
ドンペリドンの臨床的効果と適応症
ドンペリドンは成人では慢性胃炎、胃下垂症、胃切除後症候群における悪心、嘔吐、食欲不振、腹部膨満、上腹部不快感、腹痛、胸やけ、あい気などの消化器症状に適応があります 。小児においては周期性嘔吐症、上気道感染症、抗悪性腫瘍剤投与時の消化器症状に使用されます 。
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食事の30分から60分前に服用することで、食後に起こる吐き気や嘔吐を効果的に予防できます 。これは薬剤が消化管内で適切な濃度に到達し、最大の効果を発揮するためには食前投与が重要だからです 。
参考)ドンペリドン(ナウゼリン)の効果・副作用|ぎょうとく内科・内…
また、下部食道括約筋圧(LESP)の上昇作用により、逆流性食道炎の症状改善にも有効性が報告されています 。この作用は他の胃腸薬と比較して長時間持続するという特徴があります 。
参考)医療用医薬品 : ドンペリドン (ドンペリドン錠5mg「JG…
ドンペリドンの用法・用量と投与上の注意
成人の標準的な用量は、ドンペリドンとして1回10mgを1日3回食前に経口投与します 。ただし、レボドパ製剤との併用時には1回5~10mgに減量します 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00062367.pdf
小児では体重に基づいて用量を調節し、通常1日1.0~2.0mg/kgを1日3回食前に分けて投与しますが、1日投与量は30mgを超えてはいけません 。また、6歳以上の場合は1日最高用量を1.0mg/kgに制限する必要があります 。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/syouka/JY-00283.pdf
薬剤を飲み忘れた際は、忘れた分は服用せず次回から指示通り服用し、一度に2回分を服用してはいけません 。これは過量投与による副作用リスクを避けるための重要な注意点です。
ドンペリドンと消化管運動機能改善メカニズム
ドンペリドンの消化管運動改善効果は、胃運動の生理的調節機構におけるドパミンD2受容体の役割に基づいています 。正常な胃壁内神経叢では、D2受容体が抑制性の調節を担っているため、これを遮断することで胃運動が促進されます 。
具体的には、近位胃の適応性弛緩を阻害し、胃・十二指腸運動の協調運動を正常化することにより胃排出を促進します 。さらに胃壁の緊張を適切に調整し、消化管内容物のスムーズな移送を可能にします 。
この作用機序により、単純な制吐効果だけでなく、機能性消化不良や胃もたれ、腹部膨満感などの多様な消化器症状の改善が期待できます 。特に食事に関連した症状の改善において、その効果が顕著に現れます。
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ドンペリドンの重大な副作用と安全性
ドンペリドンの最も注意すべき副作用はQT延長と心室性不整脈です 。特にトルサード・ド・ポワント(Torsades de pointes)と呼ばれる重篤な不整脈が発生する可能性があり、これは場合によって突然死に至る危険性があります 。
錐体外路症状も重要な副作用で、手足の振戦、体のこわばり、歩行困難などの症状が0.1%未満の頻度で報告されています 。特に小児や若い成人でアカシジア(じっとしていられない落ち着きのなさ)やジストニア(筋肉の持続的収縮による異常姿勢)が起こりやすいとされています 。
参考)ドンペリドン(ナウゼリンⓇ)では、どのような副作用がみられま…
内分泌系への影響として、プロラクチン値の上昇により女性化乳房、乳汁分泌、月経異常などが生じることがあります 。これは授乳促進作用として利用されることもありますが、意図しない場合は副作用となります 。
ドンペリドンの薬物相互作用とCYP3A4阻害
ドンペリドンは主にCYP3A4によって代謝されるため、この酵素を阻害する薬剤との併用により血中濃度が上昇し、副作用リスクが増大します 。
参考)医療用医薬品 : ドンペリドン (ドンペリドン錠5mg「日新…
強力なCYP3A4阻害剤であるケトコナゾール、イトラコナゾール、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、リトナビルなどとの併用では、ドンペリドンの代謝が87%以上阻害されることが報告されています 。特にエリスロマイシンとの併用でQT延長が報告されているため注意が必要です 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1884565/
中程度のCYP3A4阻害剤との併用でも代謝阻害による血中濃度上昇が予想されるため、併用注意とされています 。一方、CYP3A4誘導剤(リファンピシン、カルバマゼピンなど)との併用では、ドンペリドンの効果が減弱する可能性があります 。