ナタマイシン使用基準とチーズ表面保存料の規制

ナタマイシン使用基準

ナタマイシン使用基準の要点
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対象食品

ハードチーズ・セミハードチーズの表面処理にのみ使用可能

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使用量制限

食品1kgにつき0.020g(20mg/kg)以下で表面深度5mm以下

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安全性評価

ADI(一日摂取許容量)0.3mg/kg体重/日で安全性が確立

ナタマイシンの基本的な使用基準と規制概要

ナタマイシン(別名:ピマリシン)は、2005年11月28日に食品添加物として指定された抗真菌性物質です 。日本における使用基準では、ハードチーズおよびセミハードチーズの表面処理のみに限定され、他の食品への使用は認められていません 。使用量は食品1kgにつき0.020g(20mg/kg)以下とされ、チーズの表面から深度5mmを超える部分に存在してはならないという厳格な規制が設けられています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/dl/s0324-20k.pdf
この使用基準は、国際的な規制と歩調を合わせたものです。米国では最終製品で20ppm以下、EU諸国では表面積100cm²当たり1mg以下で深度5mmを超えない範囲という基準が採用されています 。コーデックス委員会でも同様の基準で、表面2mg/100cm²、深度5mm以下に存在しないことが規定されています 。
参考)FDA CFR21 172-B-155(ナタマイシン (ピ…
日本の使用基準設定に際しては、食品安全委員会によってADI(一日摂取許容量)が0.3mg/kg体重/日と設定され、この値に基づいて安全性が評価されています 。平成13年度の日本人のチーズ摂取量(1人年間1.9kg)を基に計算すると、最大使用量でも1日体重当たりの摂取量は0.002mgとなり、ADIを大幅に下回ることが確認されています 。
参考)https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2005/11102/1-1-3.pdf

ナタマイシン抗真菌作用の特性と効果範囲

ナタマイシンは、ストレプトマイセス・ナタレンシス(Streptomyces natalensis)の培養により生成されるポリエンマクロライド系抗生物質です 。この物質の最大の特徴は、かびと酵母の生育を特異的に阻害する点にあり、一般細菌やウイルスには作用しないという選択性の高さがあります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/09/dl/s0908-6d4.pdf
抗真菌効果のメカニズムは、真菌細胞膜に存在するエルゴステロールに結合することで細胞膜の機能を阻害し、真菌の増殖を抑制することです 。従来の化学保存料であるソルビン酸と比較した研究では、ナタマイシンの方が低濃度で抗菌活性を示すことが確認されています 。また、ナタマイシンは浸透性が低く表面に残存する特性があるため、表面にカビが生えやすいチーズの保存に特に有効です 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8595390/
食品産業での使用においては、懸濁液の噴霧、水懸濁液への浸漬、セルロースと混合した粉末状での使用など、様々な方法が採用されています 。熱に安定しており、製品の風味を損なわず、化学保存料で見られるような有効性のpH依存性が小さいという利点があります 。
参考)ナタマイシン – Wikipedia

ナタマイシン食品添加物としての安全性評価

ナタマイシンの安全性については、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が1976年の第20回会合でヒトにおける消化管への影響に基づいてADIを0~0.3mg/kg体重/日と設定し、2001年の再評価でもこの値が維持されています 。日本の食品安全委員会でも同様に0.3mg/kg体重/日のADIが設定され、安全係数10を適用した評価が行われています 。
人体への影響について特筆すべきは、ナタマイシンが経口摂取されても消化管からの吸収率が極めて低いことです 。この特性により、全身への影響は最小限に抑えられ、食品添加物としての使用における安全性が確保されています。米国FDAや欧州食品安全機関(EFSA)も食品添加物として承認しており、国際的に安全性が認められています 。
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20050517te1amp;fileId=108
毒性試験では、動物実験における無毒性量から人体への安全性が評価されており、適切な使用基準の範囲内であれば健康への悪影響は認められていません 。また、医薬品としても使用されている実績があり、日本薬局方にも収載されていることから、その安全性の高さが裏付けられています 。

ナタマイシン耐性菌問題と医療への影響

抗生物質の食品添加物使用において最も懸念される問題の一つが、耐性菌の出現とその医療への影響です。しかし、ナタマイシンについては、その特異的な作用機序により耐性菌問題のリスクは極めて低いとされています 。食品安全委員会の評価では、ナタマイシンは真菌にのみ作用し、一般細菌やウイルスに作用点を持たないため、これらの微生物で耐性菌が出現する可能性はほとんどないと結論づけられています 。
真菌における耐性の発現についても、選択される頻度は稀であり、仮に耐性が選択されたとしても、細胞膜の脆弱化が生じるため、耐性真菌が通常の環境で生育することは容易ではないという特性があります 。また、ナタマイシンは他の医薬用抗真菌薬であるアムホテリシンBやナイスタチンとの交差耐性を示さないことも確認されています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/09/dl/s0908-6d6.pdf
チーズ製造現場での実証研究においても、ナタマイシンの使用による耐性菌問題は存在しないとの報告があり 、過去に医療上の問題となった事例も発生していません 。食品衛生分科会では、特定食品の表面処理にのみ限定し、適切に使用される場合には、耐性菌出現による医療上の問題を生じる可能性は極めて少ないと判断しています 。
参考)チーズに使われるナタマイシンの危険性とは?|抗生物質が添加物…

ナタマイシン無毒物質としての生体影響と代謝

ナタマイシンの生体への影響を理解する上で重要なのは、その代謝特性と無毒性です。経口摂取されたナタマイシンは、消化管での吸収率が極めて低く、大部分は代謝されることなく排泄されます 。この特性により、全身循環への移行が最小限に抑えられ、内臓器官への蓄積や毒性の発現リスクが著しく低減されています。
参考)301 Moved Permanently
分解物に関する研究では、ナタマイシンが体内で代謝される場合でも、生成される分解物は毒性を示さないことが確認されています 。人間の1日当たりの摂取量が暫定ADIである0.25mg/体重を超えない条件下では、分解物を含めても健康への悪影響は認められていません 。
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20040109te1amp;fileId=110
また、ナタマイシンの安全性評価において特徴的なのは、一般の食品添加物と同様のリスク評価手法が適用されていることです 。抗生物質という性質を持ちながら、その特異的な作用機序と低い全身移行性により、通常の化学物質と同等の安全性評価が可能となっています。これは、ナタマイシンが食品添加物として使用される際の安全性の高さを示す重要な根拠となっています。