ニトロフラントインの副作用
ニトロフラントインの呼吸器系副作用
ニトロフラントインの最も深刻な副作用として、呼吸器系の障害が挙げられます 。特に間質性肺炎は、急性と慢性の2つのパターンで発症し、患者の生命に関わる重篤な合併症となることがあります 。
参考)ニトロフラントイン – 13. 感染性疾患 – MSDマニュ…
急性過敏性肺炎は、初回投与から数時間から数日以内に発症し、発熱、呼吸困難、咳嗽を主症状とします 。血液検査では好酸球増多と血清IgE値の一過性上昇がみられ、即時型アレルギー反応の関与が示唆されています 。
参考)ニトロフラントイン肺炎
一方、慢性進行性間質性肺線維症は長期投与により発症し、より予後不良とされています 。この慢性病変は、ニトロフラントインの累積投与量と関連があり、6カ月以上の使用で発症リスクが高まります 。
特に注意すべきは、酸素投与により肺線維化が促進される可能性があることです 。そのため、呼吸器症状が出現した際の酸素療法は慎重に検討する必要があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/56/10/56_KJ00004737415/_pdf
ニトロフラントインの肝毒性
ニトロフラントインは、急性胆汁うっ滞性肝炎から慢性活動性肝炎まで、多様な肝障害を引き起こします 。肝毒性のパターンは投与期間により異なり、短期間の使用では急性肝障害が、長期使用では慢性的な肝細胞障害がみられます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9852026/
急性肝障害は、投与開始から数週間以内に発症することが多く、黄疸、肝酵素上昇、肝腫大を特徴とします 。症例報告では、毎日100mg を5年間投与された患者が斑丘状皮疹と黄疸を呈し、自己抗核抗体陽性を示した例があります 。
参考)https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/doyaku_4.pdf
慢性活動性肝炎は、長期投与により発症し、肝線維化から肝硬変に進行する可能性があります 。肝生検では炎症細胞の浸潤と門脈域のネクローシスが認められ、中止後も肝機能の改善が得られない場合があります 。
さらに、HLA-DRB1*11:04との関連が報告されており、遺伝的素因が肝障害の発症に関与することが示唆されています 。
ニトロフラントインの神経系副作用
ニトロフラントインによる末梢神経障害は、特に腎機能低下患者で高頻度に発症します 。初期症状として手足の錯感覚が現れ、投与を継続すると重度で上行性の運動性および感覚性多発神経障害に進行します 。
神経障害の発症機序は完全には解明されていませんが、ニトロフラントインの代謝産物が神経細胞に直接的な毒性を示すと考えられています 。特に軸索変性性の末梢神経障害を引き起こし、感覚神経の活動電位低下がみられます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/96/8/96_1591/_pdf
長期投与により生じた神経障害は、薬剤中止後も完全な回復が期待できない場合があります 。そのため、手足のしびれや感覚異常が出現した際は、直ちに投与を中止する必要があります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000631335.pdf
腎機能低下患者では薬物の蓄積により神経毒性が増強されるため、クレアチニンクリアランスが低下している患者への投与は禁忌とされています 。
参考)ニトロフラントイン – 16. 感染症 – MSDマニュアル…
ニトロフラントインの血液系副作用
溶血性貧血は、ニトロフラントインの重要な副作用の一つです 。特にグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症患者では、重篤な溶血を引き起こす可能性があります 。
G6PD欠損症は、赤血球代謝の遺伝性疾患で最も頻度が高く、酸化ストレスに対する赤血球の抵抗性が低下しています 。ニトロフラントインなどの酸化作用のある薬剤の使用により、急性溶血が誘発されます 。
参考)グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症 – 11…
溶血時の典型的な症状として、貧血、黄疸、網状赤血球増多がみられます 。末梢血塗抹標本では、水ぶくれ様の赤血球(blister cell)や周縁を噛み切られた様に見える赤血球(bite cell)が観察されます 。
また、白血球減少も報告されており、血液系の定期的なモニタリングが必要です 。生後1カ月未満の乳児でも溶血性貧血のリスクがあるため、授乳中の母親への投与には注意が必要です 。
参考)Table: 授乳中の母親に禁忌となる主な薬剤-MSDマニュ…
ニトロフラントインの予防と対策
ニトロフラントインの副作用を予防するためには、適切な患者選択と継続的なモニタリングが不可欠です 。特に長期投与が必要な場合は、定期的な肺機能検査、肝機能検査、血液検査を実施する必要があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9447296/
投与前のスクリーニングとして、G6PD欠損症の有無、腎機能、既往歴の確認が重要です 。クレアチニンクリアランスが低下している患者や、G6PD欠損症が疑われる患者には投与を避けるべきです 。
副作用の早期発見のため、患者には呼吸困難、咳嗽、発熱、手足のしびれ、黄疸などの症状について十分な説明を行う必要があります 。これらの症状が出現した場合は、直ちに投与を中止し、適切な対症療法を開始します。
重篤な肺障害や肝障害が発症した場合、ステロイド治療が考慮されますが、薬剤の中止が最も重要な治療法です 。また、酸化ストレスを増強する因子(感染症、脱水など)を避けることも重要な予防策となります 。