ピペラシリン・タゾバクタムの商品名
ピペラシリン・タゾバクタムの主要商品名一覧
ピペラシリン・タゾバクタム配合製剤は、先発品と後発品を合わせて多数の商品名で販売されている現状があり、医療現場において正確な薬剤識別と適正使用が重要な課題となっています 。
参考)商品一覧 : タゾバクタム・ピペラシリン
先発品として最も知られているのはゾシン静注用(大鵬薬品工業株式会社)であり、2.25g製剤と4.5g製剤、さらに配合点滴静注用バッグ製剤が用意されています 。この製剤は大鵬薬品が創製したβ-ラクタマーゼ阻害剤であるタゾバクタムと、富山化学工業(現:富士フイルム富山化学)が創製したペニシリン系抗生物質ピペラシリンを組み合わせた画期的な製剤です 。
参考)β-ラクタマーゼ阻害剤配合抗生物質製剤「ゾシン®静注用」販売…
後発品ではタゾピペ配合静注用シリーズが多数のメーカーから製造販売されており、明治Seikaファルマ、ニプロ、第一三共エスファ、住友ファーマなど多くの製薬会社が参入しています 。
参考)医療用医薬品 : タゾピペ (タゾピペ配合静注用2.25「明…
商品名 | 製造販売元 | 規格 | 薬価(円/瓶) |
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ゾシン静注用 | 大鵬薬品 | 2.25g/4.5g | 923円/1,368円 |
タゾピペ配合静注用「明治」 | Meiji Seikaファルマ | 2.25g/4.5g | 660円/892円 |
タゾピペ配合静注用「ニプロ」 | ニプロ | 2.25g/4.5g | 445円/661円 |
ピペラシリン・タゾバクタムの配合比率と薬理学的特徴
ピペラシリン・タゾバクタム配合製剤の最大の特徴は、タゾバクタム:ピペラシリンの力価比1:8という一定の配合比率で設計されていることです 。この配合比率は、タゾバクタムのβ-ラクタマーゼ阻害作用とピペラシリンの抗菌作用の相乗効果を最大限に発揮するよう科学的に検討された結果であり、臨床効果の最適化を図っています 。
タゾバクタムはβ-ラクタマーゼ阻害剤として、細菌が産生するβ-ラクタマーゼと不可逆的な複合体を形成することにより、ピペラシリンの分解を防ぎます 。この阻害機構により、β-ラクタマーゼ産生菌に対してもピペラシリンが有効な抗菌活性を発揮することが可能になり、耐性菌に対する治療選択肢が大幅に拡大されています。
ピペラシリンは広域ペニシリン系抗生物質として、細菌細胞壁ペプチドグリカンの生合成を阻害することで殺菌的に作用し、ペニシリン結合蛋白3に対して高い親和性を示します 。
ピペラシリン・タゾバクタムの抗菌スペクトラムと適応症
ピペラシリン・タゾバクタムはカルバペネムに匹敵する広域抗菌スペクトラムを有する抗菌薬として位置づけられ、特に緑膿菌と嫌気性菌に対する活性が臨床上重要な特徴となっています 。この広域性により、複雑な感染症や重症感染症の初期治療において、カルバペネム系薬剤の代替選択肢として積極的に活用されています。
参考)ピペラシリン・タゾバクタム PIPC/TAZ(ゾシン、タソピ…
グラム陽性球菌では、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属に対して優れた活性を示し、グラム陰性桿菌では大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター属に有効です 。
参考)ゾシン静注用2.25の基本情報(副作用・効果効能・電子添文な…
嫌気性菌に対しては、ペプトストレプトコッカス属、クロストリジウム属(クロストリジウム・ディフィシルを除く)、バクテロイデス属、プレボテラ属に対して抗菌活性を有しており、腹腔内感染症や混合感染症の治療に特に有用です 。
🦠 適応症一覧
ピペラシリン・タゾバクタムの投与方法と用法・用量
ピペラシリン・タゾバクタムの投与方法は適応症と病態の重症度により細かく設定されており、適正な薬物動態/薬力学(PK/PD)パラメータを達成するため、投与量と投与間隔が厳密に規定されています 。
一般感染症における標準投与法では、敗血症、肺炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、胆管炎に対して、成人では通常1回4.5g(力価)を1日3回点滴静注します 。肺炎の場合は症状と病態に応じて1日4回への増量が可能であり、重症例に対する柔軟な対応が可能です。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000240518.pdf
発熱性好中球減少症では、より積極的な治療が必要となるため、成人では1回4.5g(力価)を1日4回点滴静注し、小児では1回90mg(力価)/kgを1日4回投与します 。この高用量・高頻度投与により、免疫不全状態における重篤な感染症に対して十分な血中濃度を維持することが可能となります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00065858.pdf
小児における一般感染症では、1回112.5mg(力価)/kgを1日3回点滴静注し、症状と病態に応じて投与量の調整が可能です 。ただし、1回投与量の上限は成人における4.5g(力価)を超えないよう安全性が考慮されています。
💉 投与方法の要点
- 点滴静注が基本(30分以上かけて)
- 必要に応じて緩徐な静脈内注射も可能
- 投与期間:腎盂腎炎・複雑性膀胱炎は5日間
- 深在性皮膚感染症等は症状改善まで
ピペラシリン・タゾバクタムの薬物相互作用と併用注意
ピペラシリン・タゾバクタムには重要な薬物相互作用があり、特にプロベネシドとの併用では、腎尿細管分泌の阻害によりタゾバクタムとピペラシリンの半減期が延長し、予期せぬ副作用のリスクが増大するため注意が必要です 。
参考)医療用医薬品 : タゾピペ (タゾピペ配合静注用2.25「D…
メトトレキサートとの併用では、ピペラシリンが有機アニオントランスポーター(OAT1、OAT3)を阻害することによりメトトレキサートの排泄が遅延し、メトトレキサートの毒性作用が増強される可能性があります 。このため血中濃度モニタリングの実施など、慎重な管理が求められます。
バンコマイシンとの併用時には腎障害が発現・悪化するおそれがあり、両薬剤併用時の腎障害報告があるものの、相互作用の機序は完全には解明されていません 。臨床現場では腎機能のモニタリングを定期的に実施し、異常所見の早期発見に努める必要があります。
抗凝血薬(ワルファリン等)との併用では、血液凝固抑制作用が助長され、プロトロンビン時間の延長や出血傾向等により相加的な作用増強が生じる可能性があるため、凝血能の変動を注意深く観察する必要があります 。
⚠️ 主要な薬物相互作用
- プロベネシド:排泄遅延による血中濃度上昇
- メトトレキサート:毒性作用増強
- バンコマイシン:腎障害リスク増大
- 抗凝血薬:出血リスク増加
ピペラシリン・タゾバクタムの治療薬物モニタリングと最適化投与
近年の感染症治療では、ピペラシリン・タゾバクタムの治療薬物モニタリング(TDM)を活用した投与量最適化が注目されており、特に敗血症患者における臨床アウトカム改善を目的とした研究が活発に行われています 。
参考)https://www.medicalonline.jp/review/detail?id=6276
TARGET試験では、敗血症・敗血症性ショック患者に対するピペラシリンのTDMにより投与量を調整する群と固定量投与群を比較した結果、TDM群では目標血中濃度達成率が37.3%と非TDM群の14.6%を大幅に上回り、28日死亡率や臨床的治癒率においても良好な傾向が認められました 。
ピペラシリンは時間依存性殺菌薬であるため、%Time above MIC(%TAM)が重要なPK/PDパラメータとなり、MICの4倍以上の血中濃度を維持する時間の割合が治療効果と密接に関連しています 。このため、従来の間歇投与よりも持続投与が理論的に有利とされ、実際の臨床現場でも持続投与の導入が進んでいます。
参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05904/059040359.pdf
腎機能低下患者においては、薬物動態の変化を考慮した用量調節が必要であり、PK-PD解析に基づく最適投与量の算出により、市中肺炎患者と同様の%TAMを達成することが治療成功の鍵となります 。
📊 TDMの臨床的意義
- 目標濃度達成率の向上(37.3% vs 14.6%)
- 28日死亡率の改善傾向
- 臨床的治癒率の向上
- 持続投与との組み合わせで効果最大化