フルオロキノロンとニューキノロンの違い

フルオロキノロンとニューキノロンの違い

フルオロキノロンとニューキノロンの基本理解
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化学構造による命名

フルオロキノロンは6位にフッ素原子を有する化学構造による呼称

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世代による分類

ニューキノロンは第一世代オールドキノロンとの区別のための呼称

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実質的な同一性

現代医療ではフルオロキノロンとニューキノロンは同じ薬剤群を指す

フルオロキノロン系抗菌薬の化学構造と命名由来

フルオロキノロンという呼称は、キノロンの基本構造である6位にフッ素原子を導入した化学構造に由来します。1984年に最初に開発されたノルフロキサシンから始まり、6位のフッ素原子の導入により抗菌活性が10倍以上向上したことが明らかになっています。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/11/67_554/_pdf

このフッ素原子の導入は、強力な電子吸引性により7位の窒素原子、4位カルボニル基、3位カルボキシ基の電子密度を低下させることで活性向上を実現しました。現在臨床で使用される14種類のフルオロキノロンは、すべて6位にフッ素原子を有する構造となっています。
化学構造の観点から見ると、フルオロキノロンは英語で「fluoroquinolone」と表記され、その名前通りフッ素(fluoro)を含有するキノロン系抗菌薬を指します。

ニューキノロンの世代別分類と歴史的背景

ニューキノロンという呼称は、1960年代に開発された第一世代キノロン系抗菌薬(オールドキノロン)と区別するために使用されるようになった歴史的経緯があります。第一世代のナリジクス酸などのオールドキノロンは、フッ素原子を持たない構造でした。

世代別分類では以下のように整理されます。

この分類システムは医療従事者が薬剤の特性を理解するための有用なツールとして確立されています。

参考)https://www.mdpi.com/1999-4923/13/8/1289/pdf

フルオロキノロン系薬剤のDNAジャイレース阻害機序

フルオロキノロン系抗菌薬は、細菌のDNA複製に関与するDNAジャイレース(トポイソメラーゼⅡ)およびトポイソメラーゼⅣの機能を阻害することにより濃度依存的な殺菌作用を示します。

参考)https://jvma-vet.jp/mag/07105/a4.pdf

DNAジャイレースはgyrA遺伝子産物であるサブユニットA(GyrA)2分子とgyrB遺伝子産物であるサブユニットB(GyrB)2分子からなるホロ酵素です。サブユニットAはDNA鎖の切断・再結合作用、サブユニットBはATPase活性を担っています。

参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05306/053060349.pdf

フルオロキノロン薬は2本鎖DNAがDNAジャイレースによって切断された切断面にはまり込み、DNA-DNAジャイレース-キノロンの3者によるCleavable Complexを安定化させてDNA鎖の再結合を阻害することで抗菌力を発揮します。この作用機序により、グラム陰性菌および陽性菌、マイコプラズマ、クラミジアなど幅広い抗菌スペクトルを示します。

フルオロキノロン系薬剤の臨床的特徴と適応

フルオロキノロン系抗菌薬は経口投与で高いバイオアベイラビリティを示し、良好な組織移行性を有することが特徴です。肺、尿道、呼吸器、胆道、前立腺など様々な臓器への移行が優れており、多くの細菌をカバーする広域スペクトルの抗菌薬として知られています。

現在臨床で主要に使用されるのは以下の3剤です。

  • シプロフロキサシン(CPFX):緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に強い活性
  • レボフロキサシン(LVFX):肺炎球菌、インフルエンザ菌、非定型肺炎原因菌をカバー
  • モキシフロキサシン(MFLX):嫌気性菌への活性も追加

ただし、シプロフロキサシンは緑膿菌感染症で第1選択となる唯一の経口抗菌薬である一方、モキシフロキサシンは緑膿菌活性が劣るため使用場面が限定されます。

フルオロキノロン使用における安全性管理と注意点

フルオロキノロン系抗菌薬は副作用として腱炎・腱断裂、精神症状、末梢神経障害などが報告されており、2016年にFDAが副作用の警告を強化しました。これらの副作用は使用開始から数日以内、または使用後数カ月以内に発現し、不可逆的な場合もあります。
日本でも2024年に厚生労働省がすべてのフルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬の添付文書改訂を指示し、「重大な副作用」として「アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害」「精神症状」について注意喚起を徹底しました。

参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=13158

また、フルオロキノロンは結核菌にも効果があるため、軽はずみな処方により結核の診断が遅れ、適切な治療開始が遅れるリスクがあります。さらに、過剰使用により耐性菌の増加が問題となっており、2020年までに使用量を50%減らすことが目標として設定されています。
適正使用のためには、第1選択となる臨床状況の限定(レジオネラ肺炎、βラクタムアレルギーなど)と、副作用・薬物相互作用・抗結核作用への十分な注意が必要です。