ブロメラインとは何か
ブロメラインの基本的な性質と分類
ブロメライン(Bromelain)は、パイナップル(Ananas comosus)から抽出される蛋白分解酵素の複合体です 。この酵素は活性中心にシステインのチオール基(-SH)を持つシステインエンドプロテアーゼとして分類され、パイナップルの主要なプロテアーゼとして知られています 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00058273.pdf
ブロメラインは単一の酵素ではなく、少なくとも2つのタンパク質分解酵素を含む複合体として存在し、酸性ホスファターゼやペルオキシダーゼなどの非タンパク質分解酵素も含有しています 。また、アミラーゼ活性やセルラーゼ活性も有し、有機的に結合するカルシウムなどの様々な成分が存在することが特徴的です 。
参考)https://patents.google.com/patent/JPH09508922A/ja
医療用医薬品としては、創傷面の壊死組織の分解・除去を目的とした外用剤「ブロメライン軟膏5万単位/g」として承認されており、熱傷・褥瘡・各種潰瘍などの治療に使用されています 。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=58273
ブロメラインの作用機序と分子メカニズム
ブロメラインの主要な作用機序は、アルギニンとアラニン、アラニンとグルタミンのアミノ酸結合を加水分解することによる蛋白質の分解です 。この特異的な切断パターンにより、創傷面の壊死組織を効率的に分解・除去し、創傷の清浄化と治癒促進を図ります。
参考)医療用医薬品 : ブロメライン (ブロメライン軟膏5万単位/…
興味深いことに、ブロメラインは他のシステインプロテアーゼであるパパインと高いアミノ酸配列の相同性を有するものの、異なる切断特異性を示すことが知られています 。これは、ブロメラインがパパインとは異なる独自の触媒メカニズムを有することを示唆しています。
in vitro での実験では、ブロメラインが皮下筋膜の透過性を向上させ、この透過性亢進は可逆的であることが示されています 。また、ヒスタミンによる皮膚の透過性亢進を抑制する作用や、体温低下作用なども報告されており、多様な生理活性を有することが明らかになっています 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00005792.pdf
ブロメラインの臨床応用と効果
臨床的には、ブロメライン軟膏が熱傷・褥瘡・表在性各種潰瘍・挫傷・切開傷・切断傷・化膿創などの創傷面における壊死組織の分解、除去、清浄化に使用されています 。
ウサギを用いた実験では、第3度熱傷面にブロメライン軟膏を塗布することで良好な痂皮除去効果が認められ、局所に損傷を与えることなく壊死組織を除去できることが確認されています 。また、全身的な障害も認められず、安全性の高い治療法であることが示されています。
参考)ブロメライン軟膏5万単位/gの薬効薬理
眼科領域においても、ブロメライン(商品名:Ananase)の臨床使用経験が報告されており、その蛋白分解作用を活用した治療が行われています 。さらに、小動物に対する消炎酵素としての臨床成績も蓄積されており、幅広い医療分野での応用が期待されています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/67487e3ece7d08ab5544bebdf0ef5101fee89bb3
ブロメラインの副作用と注意点
ブロメライン軟膏の使用に際しては、蛋白分解という主作用に基づく副作用に注意が必要です 。承認時の調査では、総投与症例203例中72例(35.47%)に副作用が認められ、主なものは出血52件(25.62%)、疼痛33件(16.26%)、創縁のエロジオン4件(1.97%)となっています 。
参考)ブロメライン軟膏5万単位/gの特徴と使い方
重大な副作用として、アナフィラキシーショックが起こる可能性があり、観察を十分に行い、症状が現れた場合には投与を中止し、適切な処置を行う必要があります 。また、壊死組織が除去された後は使用を中止し、他の処置に変更することが重要です 。
使用方法においては、潰瘍面よりやや小さめのガーゼやリントに薄く延ばして使用し、潰瘍辺縁に触れないよう注意する必要があります 。正常な皮膚への接触を避けることで、健康な組織への不要な損傷を防ぐことができます 。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
ブロメラインの最新研究と将来展望
近年の研究では、ブロメラインの新たな臨床応用が検討されています。特に注目すべきは、がん治療における間質圧の高い腫瘍への抗がん剤デリバリーシステムでの応用です 。ブロメラインは、がん間質に存在するコラーゲンやラミニンなどの複数のタンパク質を分解することができ、これにより高分子物質の腫瘍組織への透過性を向上させることが期待されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/140/5/140_19-00218-2/_pdf
超分子複合体(SPRA)を用いたブロメライン製剤の開発では、従来のブロメラインと同等以上のFITC-デキストラン(2 MDa)の透過促進効果が確認されており、がん治療における新たな治療戦略として期待されています 。
また、胆汁酸の再吸収抑制による高コレステロール血症の治療応用や、胆汁うっ滞性肝疾患への応用可能性についても研究が進められており、ブロメラインの医療分野での応用範囲はさらに拡大することが予想されます 。
ブロメライン製剤の適切な管理と保存
ブロメライン軟膏の基剤は水溶性のマクロゴールが使用されており、洗浄が容易であることが特徴です 。この水溶性基剤により、使用後の除去が簡単で、患者の負担を軽減することができます。
使用時は約2~3mmの厚さに延ばして塗布し、プラスチックフィルムを使用して密封することが一般的ですが、滲出液が多い場合は直接ガーゼを貼付することもあります 。1日1回の交換を基本とし、創傷の状態を観察しながら適切な処置を継続することが重要です 。
パイナップル由来のブロメラインサプリメントについては、熱に弱い性質があるため、60℃以下での保存が推奨されています 。この温度管理により、ブロメラインの酵素活性を維持し、期待される効果を得ることができます。
参考)パイナップルに含まれる栄養について