レニンアンジオテンシンシステムと循環器疾患治療の基本メカニズム

レニンアンジオテンシン系とは

レニンアンジオテンシン系の基本概念
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血圧調節システム

血圧と体液量の恒常性維持を担う内分泌系調節機構

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カスケード反応

アンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅡへの段階的変換

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治療標的

高血圧症と心血管疾患の重要な治療ターゲット

レニンアンジオテンシン系の生理学的役割

レニンアンジオテンシン系(RAS)は、血圧や体液量、血清電解質の調節に関わる内分泌系の調節機構の1つである 。腎臓の灌流圧の低下、交感神経の興奮、血液中Na+濃度の低下により腎臓の傍糸球体装置からレニンが分泌される 。

参考)循環器用語ハンドブック(WEB版) レニン-アンジオテンシン…

このシステムは血液循環量の増加、血圧上昇によりレニンの分泌は抑制され、この系の働きが低下する 。このようにレニンアンジオテンシン系は血液量の保持と、血圧上昇作用により血液の循環調節機構を形成している 。

参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00895.html

システムの特徴として以下の点が重要である。

  • 血圧低下に対する生理的な防御機構として機能
  • 血管収縮と体液貯留により循環血液量を維持
  • ホルモンカスケードによる多段階での調節

アンジオテンシノーゲンから始まる分解経路

アンジオテンシノーゲンは各組織で合成され、腎臓の傍糸球体細胞から分泌されるレニンによってアンジオテンシンI、さらに肺の血管内皮などに存在するアンジオテンシン変換酵素によりアンジオテンシンⅡに分解される 。アンジオテンシノーゲンは血漿グロブリンに含まれる糖蛋白質で、肝臓で産生され肥大化脂肪細胞からも分泌される 。

参考)https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%B3/id/80310

プロテアーゼであるレニンは血中のアンジオテンシノーゲンに作用し、アンジオテンシンI(AI)を遊離する 。AIは血管内皮細胞膜にあるアンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンⅡ(AⅡ)に変換される 。

分解過程の詳細な機構。

  • レニンによるアンジオテンシノーゲンの限定分解
  • ACEによる10残基ペプチドから8残基ペプチドへの変換
  • アンジオテンシンⅡの強力な生物活性発現

アンジオテンシンII受容体の機能分化

アンジオテンシンⅡの作用はAT1受容体とAT2受容体を介して発現される。AT1受容体は血管収縮・動脈硬化作用、AT2受容体はその反対の血管拡張・抗動脈硬化作用が主体である 。アンジオテンシンⅡタイプ1受容体は血管平滑筋細胞に存在しており、細胞内のカルシウム濃度を調節することで血管の収縮度を変えている 。

参考)薬のアレコレ その2 アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗…

AT2受容体は胎児期や細胞異常増殖時に限定的に発現し、Giを介してセリン-トレオニンフォスファターゼを活性化し、脱リン酸化により遅延性K+チャネルを活性化する 。AT2受容体の刺激により血圧降下や、血管内皮細胞および線維芽細胞の増殖が抑制されるなどAT1受容体と相反する作用が示されている 。

参考)https://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/09jugyou/5.angiotensin.pdf

受容体サブタイプの機能的特徴。

  • AT1受容体:昇圧、心血管リモデリング促進
  • AT2受容体:降圧、組織保護作用
  • 受容体間の拮抗的作用による生理学的バランス

レニン分泌調節の分子メカニズム

レニン分泌は腎臓の傍糸球体装置からの緻密な調節を受けている。収縮期血圧が100mmHg以下に低下すると、腎臓からレニンという酵素が血液中に分泌される 。レニンの分泌調節には3つの主要な機構が関与している。

参考)Table: 血圧の制御:レニン-アンジオテンシン-アルドス…

第一に、腎灌流圧の低下が傍糸球体細胞の圧受容機構を刺激する 。第二に、交感神経系の活性化がβ1アドレナリン受容体を介してレニン分泌を促進する 。第三に、遠位尿細管のマクラデンサ細胞がNaCl濃度の低下を感知してレニン分泌を促進する 。

レニン分泌の調節因子。

  • 血圧センサー機能による直接的調節
  • 交感神経系を介した神経性調節
  • 電解質濃度による化学的フィードバック

レニンアンジオテンシン系による循環器疾患の病態形成

レニンアンジオテンシン系の過剰活性化は多くの循環器疾患の病態形成に関与している。アンジオテンシンⅡは強力な血管収縮作用と、アルドステロン分泌作用をもつ 。このシステムの異常な活性化は高血圧症の発症機序の一つとして重要である 。

参考)http://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/04/4810_3.pdf

アンジオテンシンⅡには昇圧作用のほかに心血管再構築促進作用がある 。血管系においては血管平滑筋細胞の増殖、血管壁の肥厚、動脈硬化の進展を促進する 。心臓においては血圧とは独立して心肥大、線維化を引き起こす 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/Suppl/97_94b/_pdf

病態への関与メカニズム。

  • 血管リモデリングによる動脈硬化進展
  • 心筋線維化と心機能低下
  • 腎機能障害の進行促進