ロミプロスチムとエルトロンボパグの違い

ロミプロスチムとエルトロンボパグの違い

ロミプロスチムとエルトロンボパグの主な違い
💊

投与方法の違い

ロミプロスチムは皮下注射製剤、エルトロンボパグは経口薬

🔬

構造的特徴

分子量と化学構造が大きく異なり、結合部位も異なる

⚕️

適応と使用法

両者とも慢性ITPと再生不良性貧血に適応があるが使用法が異なる

ロミプロスチムの特徴と作用機序

ロミプロスチムは分子量59,085の遺伝子組換え融合タンパク質で、ヒトIgG1のFc領域に2本のTPO様ペプチド鎖が結合した構造を持ちます 。皮下注射製剤として週1回の投与が必要で、初回投与量は慢性特発性血小板減少性紫斑病の場合1μg/kg、再生不良性貧血の場合10μg/kgです 。

参考)ロミプロスチム – Wikipedia

作用機序は巨核球系前駆細胞に直接作用し、血小板造血作用を発揮します 。ロミプロスチムはTPO受容体に結合し、添加量依存的に標識TPOのTPO受容体への結合を競合的に阻害することが確認されています 。この構造的特徴により、第1世代のTPO受容体作動薬でみられた内因性TPOの中和活性を有する抗体の産生を生じることなく、血小板減少症の治療に貢献します 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/138/1/138_1_34/_pdf

エルトロンボパグの構造と薬理作用

エルトロンボパグは分子量546ダルトンの小分子の非ペプチド化合物で、経口投与可能なトロンボポエチン受容体作動薬です 。慢性特発性血小板減少性紫斑病の場合、初回投与量12.5mgを1日1回、食事の前後2時間を避けて空腹時に経口投与します 。

参考)https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/yakuzaiMenu/doYakuzaiInfoKobetsuamp;3999028F1025;jsessionid=C094383802E2B8691BFC32CC3F039C8F

エルトロンボパグの作用機序は、TPO受容体との特異的な相互作用を介してトロンボポエチンのシグナル伝達経路の一部を活性化し、巨核球及び骨髄前駆細胞の増殖及び分化を促進させると考えられています 。骨髄中の巨核球および前駆細胞の表面にあるトロンボポエチン受容体を刺激して、血小板の産生を増加させる作用があります 。

参考)エルトロンボパグ(ルシエロ):利点、副作用、使用法に関する総…

受容体結合部位と作用メカニズムの差異

両薬剤の最も重要な違いは、トロンボポエチン受容体での結合部位が異なることです。エルトロンボパグは膜貫通領域がその結合部位であり、作用を発現させるのに極めて重要な部位とされています 。一方、ロミプロスチムは受容体の細胞外ドメインに結合し、TPOと同様にSTAT応答性プロモーターIRF-1を活性化させます 。

参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2010/P201000062/34027800_22200AMX00960_F100_1.pdf

この結合部位の違いにより、両薬剤は異なる下流シグナル伝達経路を活性化する可能性があります。エルトロンボパグはTPOと同様にヒト血小板およびN2C-TPO細胞でSTAT1、3および5ならびにp44/42MAPKをリン酸化させ、rhTPO存在下でその作用が増強されます 。
日本内科学会雑誌に掲載されたTPO受容体作動薬の構造と作用機序の詳細な解説

投与方法と患者の利便性における比較

投与方法の違いは患者の生活の質(QOL)に大きく影響します。ロミプロスチムは皮下注射製剤であり、自己注射は認められておらず、週1回の来院が必要です 。これに対し、エルトロンボパグは1日1回の経口投与ですが、食事の前後2時間を避けて空腹時に投与する必要があり、カルシウム、アルミニウム、鉄、マグネシウム、亜鉛を含む製品との併用に注意が必要です 。

参考)ロミプロスチム(ロミプレートⓇ)とエルトロンボパグ(レボレー…

小児慢性ITPにおいては、エルトロンボパグの開始量は1日1回12.5mg、ロミプロスチムの開始量は週1回1μg/kgが推奨されており、有効性および安全性には差がないため、投与方法、合併症の出現の有無、患者の希望などを考慮して判断されます 。

参考)https://www.jspho.org/pdf/journal/20221214_guideline/20221214_guideline_a.pdf?20240620

臨床効果と安全性プロファイルの違い

両薬剤の有効性については、エルトロンボパグとロミプロスチムを直接比較した大規模なランダム化比較試験は成人・小児ともに存在しませんが、それぞれの薬剤をプラセボ群と比較したメタ解析の結果からは、有効性、安全性において両剤に有意差は認められていません 。
安全性面では、ロミプロスチムの重大な副作用として血栓症・血栓塞栓症(肺塞栓症0.8%、深部静脈血栓症0.8%、心筋梗塞0.6%)、骨髄レチクリン増生(1.7%)があります 。エルトロンボパグも血栓塞栓症関連の有害事象の発現リスクが知られており、TPO受容体作動薬全体の課題となっています 。

参考)https://www.pmda.go.jp/RMP/www/371336/c52b374c-ff3b-4b84-81bc-f10f73705cc8/371336_3399012F1021_01_002RMPm.pdf

血液・腫瘍科学会誌に掲載された新規TPO受容体作動薬の比較研究

再生不良性貧血における使用と独自の治療戦略

再生不良性貧血の治療において、両薬剤はユニークな治療選択肢となっています。エルトロンボパグは抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)を含む免疫抑制療法またはシクロスポリンで効果不十分で、ATGが適用とならない成人再生不良性貧血患者に対して75mgを1日1回投与します 。
ロミプロスチムも再生不良性貧血に適応があり、初回投与量10μg/kgを皮下投与し、最高投与量は週1回20μg/kgとなっています 。国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験では、投与27週時点の血液学的反応率は83.9%という良好な結果が報告されています 。

参考)https://www.pmda.go.jp/RMP/www/230124/af019f7e-aeae-45d6-821a-b95a9534acb0/230124_3999430D1024_005RMP.pdf

TPO信号伝達は造血干細胞池維持および造血干細胞増殖・分化過程で中心的役割を果たしており、JAK/STAT、RAS/MAPK、PI3K/AKT途径を活性化することで多系統の造血を回復する効果を示します 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7348351/