出血性大腸炎の潜伏期間と早期診断法

出血性大腸炎の潜伏期間

出血性大腸炎の基本情報
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感染から発症まで

腸管出血性大腸菌による感染では3-8日の潜伏期間があり、この期間は無症状で経過することが多い

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主な症状

激しい腹痛、血便、水様性下痢が特徴的な症状として現れる

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診断方法

便検査と大腸内視鏡検査により確定診断を行う

出血性大腸炎の潜伏期間における特徴

出血性大腸炎の潜伏期間は、通常の細菌性食中毒よりも長期間であることが大きな特徴です 。一般的な細菌性食中毒の潜伏期間が数時間から3日程度であるのに対し、腸管出血性大腸菌感染症では4~8日と長く、平均的には3~5日程度とされています 。
この潜伏期間の長さは、病原性大腸菌O157などの腸管出血性大腸菌の特殊な病原性メカニズムと関連しています。これらの細菌は、感染後に腸管粘膜に付着し、ベロ毒素(志賀毒素)を産生するまでに時間を要するため、症状の発現が遅れます 。
また、潜伏期間中は無症状であることが多いため、この期間中に他者への二次感染のリスクが高まることも重要な特徴です 。特に家族内や集団生活の場では、1人の感染者から複数の人への拡散が起こりやすく、感染力の強さが問題となります。

参考)https://www.odagi-clinic.com/o-157/

出血性大腸炎の初期症状と進行

潜伏期間を過ぎると、出血性大腸炎は段階的に症状が進行します。初期段階では、まず激しい腹痛を伴う頻回の水様便が現れ、1~3日続いた後に血便が出現するのが典型的なパターンです 。

参考)https://www.shioya-clinic.com/disease/hemorrhagic_colitis/

初期症状として最も特徴的なのは突然発症する激しい腹痛で、これは「刺すような」あるいは「絞られるような」感覚と表現され、歩けなくなるほど激しいものです 。腹痛と同時期に、多くの場合鮮血色の血液が便に混じって排出されるようになります。

参考)https://maruoka.or.jp/infection/infection-disease/hemorrhagic-colitis/

発熱については、他の細菌性感染症と異なり、出血性大腸炎では軽度または無発熱であることが多く、発熱しても37℃台の軽症にとどまることが特徴的です 。この点は診断上の重要な鑑別点となります。
血便の特徴は時間とともに変化し、初期には血液の混入は少量ですが、次第に増加し、最終的には血液そのものという状態になることもあります 。血便が続くことで貧血を引き起こすリスクもあるため、早急な医療介入が必要となります。

出血性大腸炎の診断方法と検査

出血性大腸炎の診断は、臨床症状と検査所見を総合的に評価して行われます。最も重要な検査は便検査(検便検査)で、腸管出血性大腸菌の存在を確認することができます 。

参考)https://www.biseibutu.co.jp/Gut_flora_test.html

便検査では、病原性大腸菌O157をはじめとする腸管出血性大腸菌の同定を行い、同時にベロ毒素の産生能も調べられます。この検査は感染症の確定診断において決定的な役割を果たします 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html

大腸内視鏡検査も重要な診断ツールで、血便の原因となる大腸の病変を直接観察することができます 。内視鏡検査により、大腸粘膜の炎症状態、潰瘍の深さ、出血部位の特定が可能となり、他の大腸疾患との鑑別診断に有用です。

参考)https://kanousakura-clinic.com/symptoms/symptoms06/

便潜血検査は、肉眼では確認できないほどのわずかな出血を発見するために実施されます 。この検査により、目で見てもわからない程度の少量の血液を検出し、大腸の炎症部分からの微量出血を把握することができます 。

参考)https://www.onaka-kenko.com/symptom/sy_05.html

出血性大腸炎の合併症リスクと予後

出血性大腸炎で最も懸念される合併症は、溶血性尿毒症症候群(HUS)です。患者の6~7%が、発症数日後から2週間以内(多くは5~7日後)に、溶血性尿毒症症候群や脳症などの重症な合併症を発症するリスクがあります 。

参考)http://www.kinoshita-children.jp/%E9%99%A2%E9%95%B7%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0/%E8%85%B8%E7%AE%A1%E5%87%BA%E8%A1%80%E6%80%A7%E5%A4%A7%E8%85%B8%E8%8F%8C%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/

HUSは溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全を特徴とする重篤な合併症で、特に乳幼児・子ども・高齢者では死に至ることもある深刻な病態です 。HUSを発症した患者の致死率は1~5%とされており、早期診断と適切な治療が極めて重要です。
腸管合併症としては、大量出血による出血性ショックや貧血が挙げられます 。血便が続くことで血液量が減少し、血圧低下や意識障害を引き起こす可能性があります。このような状態では、内科的治療が困難な場合、内視鏡的あるいは外科的治療が必要となることもあります。

参考)https://www.remicare.jp/uc/about/lesion/complication.html

抗生物質起因性の出血性大腸炎の場合は、原因薬物を中止することで速やかに症状が改善し、ほぼ一週間以内に痕跡を残さずに治癒する予後良好な疾患とされています 。しかし、感染性の出血性大腸炎では、適切な治療と経過観察が不可欠です。

参考)https://ohashinaika.jp/blog/%E6%8A%97%E7%94%9F%E7%89%A9%E8%B3%AA%E8%B5%B7%E5%9B%A0%E6%80%A7%E5%87%BA%E8%A1%80%E6%80%A7%E5%A4%A7%E8%85%B8%E7%82%8E

出血性大腸炎の治療アプローチと看護管理

出血性大腸炎の治療は、原因、症状の重症度、患者の全身状態を総合的に判断して決定されます。基本的には腸管を安静に保ち、水分や電解質を補給する対症療法が中心となります 。

参考)https://naishikyo.or.jp/intestines/hemorrhagic-enteritis-emergency/

軽症例では、自宅での安静と経口での水分補給が基本的な治療法です。スポーツドリンクや経口補水液など、電解質をバランス良く含んだ飲料の摂取が推奨されます。食事については、消化の良いものから少量ずつ開始し、刺激物や脂肪の多い食事は避ける必要があります 。
重症例や嘔吐が続く場合、出血が多い場合には、一時的に絶食を行い腸管を休ませることが必要です。絶食中は点滴によって水分や栄養を補給し、腸の炎症を鎮めて回復を促します 。
抗菌薬の使用については見解が分かれており、日本では抗菌薬を早期(発症3日以内)に使用すると溶血性尿毒症症候群の発症率が高まるという報告があるため、慎重な判断が必要とされています 。経口または点滴による電解質と水分の補給が主な治療となることが多いのが現状です。

参考)https://www.tokushukai.or.jp/treatment/internal/infection/chokansyukketsu-daichoen.php