蓄尿によるコルチゾール測定の概要と意義
蓄尿によるコルチゾール検査の基本概念
蓄尿によるコルチゾール測定は、副腎皮質機能を評価する重要な内分泌学的検査法である 。コルチゾールは副腎皮質束状層から分泌される分子量362.5の代表的な糖質コルチコイドで、血中では90%以上がコルチコステロイド結合タンパク(CBG)と結合して存在している 。
参考)https://data.medience.co.jp/guide/guide-03050009.html
血中コルチゾールの大部分は肝臓と腎臓でグルクロン酸抱合体となって尿中に排泄されるが、一部は未代謝物として血中遊離型コルチゾール(非抱合型コルチゾール)がそのまま排泄される 。尿中コルチゾール測定は、この非抱合型コルチゾールを定量する検査である 。
参考)https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/067465.html
血中コルチゾールは下垂体前葉ホルモンである副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の支配を受け、ストレスなどの影響により変動しやすい特性を持つ 。尿中コルチゾールもACTHと同様、夜間に低く、早朝に高値になる日内リズムがあるが、24時間蓄尿を行うことにより安定した結果を得ることができる 。
蓄尿による24時間コルチゾール測定の実際的方法
24時間蓄尿検査は、ある時刻から翌日の同時刻までの24時間の間に排泄される尿を、排泄するごとに溜めていく採尿方法である 。蓄尿開始時の排尿は前日から蓄積された尿のため捨て、その後の尿をすべて蓄尿容器に保存する 。
参考)https://www.clinlab.med.keio.ac.jp/info/pdf/info1_1d_chikunyo.pdf
具体的な蓄尿方法として、朝6時に検査を開始する場合、まず排尿してこの尿は捨てる 。その後24時間以内に排泄した尿をすべて蓄尿容器に貯める。翌日朝6時の検査終了時には、尿意がなくても排尿し、蓄尿バッグに溜める 。検査依頼書には24時間尿量を明記する必要がある 。
参考)http://yoshida-naika.net/24urin.htm
尿は細菌が繁殖しやすく、尿中成分が変化を受けやすいため、24時間蓄尿や長時間保存する場合は、保存剤を入れて採尿し、冷暗所に保存することが重要である 。検体量は蓄尿1.0mLが必要で、保存条件は冷蔵、所要日数は3~6日である 。
参考)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/07.html
蓄尿によるコルチゾール検査の正常値と異常値
尿中コルチゾールの基準値は4.3~176.0 μg/dayである 。コルチゾールは1日約20~30mg分泌され、血中では90%がコルチコステロイド結合グロブリン(CBG)と結合して存在している 。検査方法はCLIA法が用いられ、非抱合型コルチゾールを測定している 。
参考)https://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/12105277
24時間蓄尿下での尿中コルチゾール測定は、日内変動を示す血中コルチゾールの積分値・平均値に対応する 。そのため、血中コルチゾールの欠点である日内変動を補う検査として位置づけられる 。尿中コルチゾール値は μg/24時間 = コルチゾール濃度(μg/dL)×10×24時間に排尿された尿の容積(L)により算出される 。
参考)https://kml.kyoto/wp-content/uploads/2020/06/2020-2021_inspection_47.pdf
異常値を示す主な疾患・状態として、Cushing病、異所性ACTH産生腫瘍、Addison病、先天性副腎皮質過形成が挙げられる 。これらの疾患では、コルチゾール分泌量の過不足により特徴的な症状が現れる。
蓄尿コルチゾール検査によるクッシング症候群診断
クッシング症候群の診断において、24時間尿中遊離コルチゾール測定は重要な検査項目である 。クッシング症候群では、ほぼ全例で尿中遊離コルチゾール値が120μg/24時間(331nmol/24時間)を上回る 。しかし、尿中遊離コルチゾールの上昇が100~150μg/24時間(276~414nmol/24時間)に収まる場合は、肥満、抑うつ、多嚢胞性卵巣はみられるが、クッシング症候群は認めない場合もある 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%89%AF%E8%85%8E%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%82%AF%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
クッシング症候群が疑われ、尿中遊離コルチゾールが著しく上昇している(正常上限の4倍を上回る)患者は、ほぼ確実にクッシング症候群に罹患している 。2~3回の採尿結果が正常範囲内であれば、本疾患は通常除外される 。測定値のわずかな上昇は、一般にさらなる調査を必要とし、正常値でも臨床上の疑いが強い場合にも同じことが言える 。
ACTHやコルチゾールは朝に最も高くなり、夜間は低くなるため、朝・夕方・寝る前に血液検査を行い、24時間尿中コルチゾール測定やホルモンの動きを確認する必要がある 。コルチゾールというホルモンは生きるために必要不可欠で、肝臓での糖の新生、脂肪の分解、筋肉でのタンパク質代謝などの促進、抗炎症や免疫抑制など、あらゆる生体機能をサポートする働きを担っている 。
参考)https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/185
蓄尿コルチゾール測定における副腎皮質機能低下症の評価
副腎皮質機能低下症の診断において、蓄尿によるコルチゾール測定は重要な評価指標となる 。尿中コルチゾール測定はクッシング症候群などのコルチゾール過剰分泌の診断の際には非常に有用であるが、その検出下限と正常範囲がオーバーラップないし近接していることもあり、副腎不全症患者と正常人との鑑別が困難な場合が少なくない 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrine/91/Suppl.September/91_33/_pdf
続発性副腎不全症患者(16名)での午前8時~12時ならびに午後16時~20時の4時間蓄尿における尿中遊離コルチゾール測定では、いずれも10µg/g クレアチニン未満と低値であり、正常人とのオーバーラップは認められなかった 。ヒドロコルチゾン(HC)補充下での尿中コルチゾールと血中コルチゾールの比較検討では、24時間を6分画した際の尿中コルチゾール(クレアチニン補正)と血中コルチゾール(AUC値)との間に正相関が認められた 。
副腎皮質機能低下症が疑われる場合は、コルチゾール値(低いことがある)とACTH値を測定する 。ACTH値は原発性副腎皮質機能低下症では高く、二次性副腎皮質機能低下症では低い 。副腎皮質機能を評価する際は早朝空腹時のコルチゾール値を測定し、コルチゾール値が4μg/dL未満であれば副腎皮質機能低下症が疑われる 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/12-%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E5%89%AF%E8%85%8E%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E5%89%AF%E8%85%8E%E7%9A%AE%E8%B3%AA%E6%A9%9F%E8%83%BD%E4%BD%8E%E4%B8%8B%E7%97%87