非淋菌性尿道炎の原因菌
非淋菌性尿道炎の主要原因菌とその特徴
非淋菌性尿道炎は男性尿道炎の約70%を占める重要な性感染症である。原因菌として最も多いのはクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)で、非淋菌性尿道炎患者の30-50%から検出される 。
参考)https://www.hok-hiv.com/for-medic/download/manual_202103/06-8.pdf?20210312
クラミジア以外の原因菌による非クラミジア性非淋菌性尿道炎(NCNGU)では、マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)、ウレアプラズマ・ウレアリチカム(Ureaplasma urealyticum)、腟トリコモナス原虫、ヘルペスウイルス、アデノウイルスなどが主要な原因として挙げられている 。
参考)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/nonchlamydial_nongonococcal_urethritis/
特にマイコプラズマ・ジェニタリウムとウレアプラズマ・ウレアリチカムは、非淋菌性尿道炎と明確な関連性が示されており、尿道炎の約10-15%を占めると考えられている 。これらの細菌は細胞壁を持たない特殊な構造をしており、通常の抗生物質が効きにくい特徴がある。
参考)https://www.sasaki-urology.com/column/kyuusei_nyoudouen.html
非淋菌性尿道炎原因菌の感染経路と感染率
非淋菌性尿道炎の原因菌は主に性交渉やオーラルセックスによって感染する 。潜伏期間は淋菌性尿道炎よりも長く、1週間から5週間程度である 。
特に興味深い点として、オーラルセックスではアデノウイルスなどの感染が多くみられる。これは咽頭に常在するウイルスが尿道に感染することが原因である 。また、複数の病原体に同時感染する場合も少なくない。
参考)https://kateinoigaku.jp/disease/755
最近の研究では、尿道(膣)炎全体の40%が淋病、30%がクラミジア、残りの30%がマイコプラズマ・ウレアプラズマによるものとする報告もある 。この数値は従来の認識より非クラミジア性非淋菌性尿道炎の頻度が高いことを示唆している。
参考)https://www.urogyne-cl.com/mycoplasma/
非淋菌性尿道炎原因菌の診断法
非淋菌性尿道炎の診断は、まず尿道分泌物または初尿沈渣のグラム染色による鏡検から始まる。白血球は認めるが、グラム陰性双球菌(淋菌)を認めない場合に非淋菌性尿道炎と診断される 。
クラミジア・トラコマチスの検出には、初尿を検体とした抗原検出法(EIA法)や核酸増幅法(PCR法、TMA法、SDA法)が用いられる。核酸増幅法では1検体で淋菌とクラミジアの同時検査が可能である 。
2022年以降、マイコプラズマ・ジェニタリウムに対する新たな核酸増幅法検査が保険適用となり、診断精度が大幅に向上した 。しかし、ウレアプラズマ・ウレアリチカムの検出は現在も保険適用外となっている。
参考)https://jssti.jp/pdf/hirinkinseinyoudouen_230207.pdf
日本性感染症学会のガイドラインでは、クラミジア・トラコマチスとマイコプラズマ・ジェニタリウムの核酸増幅法検査を同時に実施することが推奨されている 。
非淋菌性尿道炎原因菌による症状の違いと特異性
非淋菌性尿道炎の症状は原因菌によって若干の差異がある。全体的に淋菌性尿道炎と比較して症状は軽度で、尿道分泌物も少量で漿液性であることが多い 。
マイコプラズマ・ウレアプラズマによる尿道炎では、男性の場合、陰部の軽いかゆみや不快感、少量の分泌物、排尿時の軽い痛みが特徴的である 。分泌物により下着が汚れることもある。女性では症状が軽微で、おりものの量がわずかに増える程度のことが多い。
参考)https://yoboukai.co.jp/std_20
クラミジア性尿道炎では、尿道分泌物の排出、排尿時痛、尿道のかゆみが主症状となる。症状の程度はマイコプラズマ・ウレアプラズマよりもやや強い傾向にある 。
興味深い点として、オーラルセックスによる感染では咽頭症状(咳、喉のイガイガ感、喉の違和感)が現れることがある 。これは従来あまり知られていない症状である。
非淋菌性尿道炎原因菌の薬剤耐性と治療戦略の課題
近年、非淋菌性尿道炎の原因菌における薬剤耐性が深刻な問題となっている。特にマイコプラズマ・ジェニタリウムでは、マクロライド系抗生物質(アジスロマイシン)およびフルオロキノロン系抗生物質に対する耐性が著しく進行している 。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2017/172111/201718001A_upload/201718001A0012.pdf
マクロライド耐性の機序は主に23S rRNAの変異によるもので、治療失敗例が急激に増加している。このため、従来第一選択薬とされていたアジスロマイシンの有効性が大幅に低下している 。
日本性感染症学会では、薬剤耐性化を抑制するため、非淋菌性尿道炎の第一選択薬をテトラサイクリン系(ドキシサイクリン200mg/日7日間またはミノサイクリン200mg/日7日間)に変更することを検討している 。
参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06602/066020173.pdf
マイコプラズマ・ジェニタリウムが検出された場合の治療では、シタフロキサシン(STFX)、ミノサイクリン(MINO)、ドキシサイクリン(DOXY)が推奨されている 。しかし、これらの薬剤に対する耐性も報告されており、将来的にはさらなる治療戦略の見直しが必要となる可能性がある。
薬剤感受性試験の実施も検討されているが、マイコプラズマの培養が困難なため、実用的な検査法の開発が急務となっている。このような状況下では、起炎菌の特定と薬剤耐性遺伝子の検出が今後の治療方針決定において重要な役割を果たすことになるであろう。