コニールの効果と機序
コニールの降圧効果と有効率
コニール(ベニジピン塩酸塩)は、カルシウム拮抗薬として優れた降圧効果を示します。臨床試験において、高血圧症患者に対する有効率は94.4%(34/36例)、腎実質性高血圧症患者では82.4%(28/34例)という高い治療成績が報告されています 。
参考)コニール
この高い有効率の背景には、コニールが膜電位依存性カルシウムチャネルのDHP結合部位に強力に結合し、細胞内へのカルシウム流入を抑制することで、冠血管や末梢血管を拡張させる機序があります 。血管抵抗が減少することで、確実かつ持続的な降圧効果が期待できます。
特筆すべきは、コニールの作用持続時間の長さです。薬物血中濃度とほとんど相関せずに作用が持続するという特性があり、1日1回投与で24時間にわたって安定した降圧効果を維持できます 。この特性により、患者の服薬コンプライアンス向上にも貢献しています。
参考)https://med.sawai.co.jp/file/pr1_1096.pdf
コニールの狭心症治療効果
コニールは高血圧治療だけでなく、狭心症に対しても顕著な治療効果を示します。狭心症患者216例を対象とした臨床試験では、60.8%(110/181例)の改善率が確認されています。内訳として、労作狭心症では59.2%(71/120例)、労作・安静狭心症では63.9%(39/61例)の改善率を示しました 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00005939.pdf
コニールは実験的狭心症モデル(ラット)および犬冠動脈結紮再灌流による心機能の低下や虚血性心電図変化を有意に改善することが確認されています 。労作性狭心症患者に経口投与した際には、運動負荷による虚血性変化(心電図ST下降)に対して改善効果を示しました。
冠攣縮性狭心症という、心臓の血管が痙攣するタイプの狭心症に対しても、コニールは第一選択薬として使用されています 。狭心症治療では通常1日2回投与が推奨されており、1回投与と2回投与を比較した結果、2回投与の方が自覚症状改善度や全般改善度において優れていることが示されています 。
コニールの腎保護作用機序
コニールの特徴的な効果の一つが腎保護作用です。これは、コニールがL型だけでなくT型カルシウムチャネルにも作用することに起因します。T型カルシウムチャネルは腎臓や心臓などに存在し、臓器保護作用を持つとされています 。
腎不全モデル(5/6腎摘)高血圧自然発症ラットに連続経口投与した実験では、コニールは降圧作用を示すとともに腎機能を改善しました 。本態性高血圧症患者に投与した際には、腎血流量の有意な増加が認められ、さらに高血圧を伴った慢性腎不全患者に投与した場合、クレアチニンクリアランス及び尿素窒素クリアランスの改善も確認されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00056841.pdf
T型カルシウムチャネルの阻害により、糸球体輸出細動脈収縮やアルドステロン分泌にも影響を与え、これらの複合的な作用により腎保護効果を発揮します 。このため、慢性腎臓病を背景疾患に持つ高血圧症患者では、第一選択として選ばれることもあります 。
参考)循環器医から見た高血圧薬の選び方|平塚市の一般内科・循環器内…
コニールの長時間作用とカルシウムチャネル選択性
コニールの薬理学的特性として、血管平滑筋の細胞膜に対する親和性の高さが挙げられます。主として細胞膜内を通ってDHP結合部位に結合し、結合性が強く解離速度も非常に遅いことが確認されています 。この結果、薬物血中濃度と相関することなく作用の持続性を示すという独特な特徴を持ちます。
参考)https://www.ps.toyaku.ac.jp/~kosugi/zemi2015/iform/Benidipine_Hydrochloride_Tablets.pdf
コニールはL型、T型、N型すべてのカルシウムチャネルをブロックする多重チャネル阻害薬です 。L型カルシウムチャネルは主に血管平滑筋に存在し、降圧作用を発揮します。T型は腎臓や心臓に存在し、脈拍数低下や臓器保護作用に関与します。N型は交感神経に作用し、交感神経末端からのノルアドレナリンの分泌を抑制することで、間接的に循環動態に影響を与えます。
参考)カルシウム拮抗薬とは
この多重チャネル阻害により、単純な血管拡張作用を超えた包括的な心血管保護効果が期待できます。脳血管性疾患への効果も報告されており、神経内科や脳外科領域でも使用されてきた実績があります 。
コニールの副作用と注意点
コニールの副作用として、重大なものでは肝機能障害(0.1%未満)、黄疸(頻度不明)があります 。その他の副作用として、0.1~5%未満の頻度で以下が報告されています:循環器系では動悸、顔面紅潮、ほてり、血圧低下、精神神経系では頭痛、頭重、めまい、ふらつき、立ちくらみなどです 。
消化器系の副作用としては便秘が最も頻度が高く、腎臓への影響としてBUN上昇、クレアチニン上昇が報告されています。血液系では白血球減少、好酸球増加が見られることがあります 。過敏症として発疹やそう痒感、光線過敏症が現れる場合もあります。
注目すべきは、正常血圧の狭心症患者に投与した場合の安全性です。正常血圧の狭心症患者20例での検討では、コニールの投与にもかかわらず血圧の過度な低下は認められず、むしろ4mmHg程度の軽度な血圧上昇が観察されました 。これは狭心症症状の改善による身体活動能力の向上が関与したと推測されています。
浮腫(顔浮腫・下腿浮腫・手浮腫)、CK上昇、耳鳴、手指発赤・手指熱感、肩こり、咳嗽、頻尿、倦怠感などの副作用も報告されており、これらの症状が現れた場合には投与中止などの適切な処置が必要です 。