シメプレビルと副作用の基本事項
シメプレビルの基本的な特徴と作用機序
シメプレビル(商品名:ソブリアード)は、C型肝炎ウイルス(HCV)のNS3/4Aプロテアーゼを阻害する直接作用型抗ウイルス薬(DAA)として開発された第2世代のプロテアーゼ阻害剤です。本剤は、従来のペグインターフェロンαとリバビリンの2剤併用療法に加える3剤併用療法として使用され、セログループ1(ジェノタイプⅠ(1a)又はⅡ(1b))のC型慢性肝炎患者に対して高い治療効果を示しています。
参考)http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se62/se6250037.html
シメプレビルは通常、成人には100mgを1日1回経口投与し、投与期間は12週間とされています。国内では2013年12月6日に販売が開始され、多くのC型肝炎患者の治療に使用されてきました。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000065379.pdf
シメプレビルによる高ビリルビン血症の特徴と重要性
シメプレビル治療において最も注意を要する副作用が高ビリルビン血症です。ビリルビンは、寿命を終えた赤血球中のヘモグロビンが脾臓等で分解されて生成する黄色色素成分で、通常は肝臓で代謝され胆汁として排泄されます。
高ビリルビン血症の発現メカニズムは、シメプレビルがビリルビンの血管から肝臓への取り込みや肝臓から胆汁中への排泄に関わる輸送タンパク質を阻害することによるものと考えられています。この輸送タンパク質の阻害により血中ビリルビン値が著しく上昇し、黄疸などの症状が発現します。
2014年10月までの約10ヶ月間で、推定使用患者約18,900人中、高ビリルビン血症に関連した国内死亡例が3例報告されており、その緊急性から厚生労働省より安全性速報(ブルーレター)が発出されました。
シメプレビル治療で観察される主要な副作用の臨床データ
国内臨床試験(CONCERTO試験)によると、シメプレビル併用療法群(123例)で観察された主な副作用は以下の通りです:
参考)http://www.kubix.co.jp/kanshikkankanazawa/public/doc/medicine_smv.pdf
- 血液系副作用: 白血球数減少(63.4%)、貧血(56.9%)、血小板数減少(48.8%)
- 全身症状: 発熱(61.0%)、倦怠感(42.3%)、頭痛(43.9%)
- 皮膚症状: 発疹(46.3%)、脱毛(35.8%)
これらの副作用発現率は、従来のペグインターフェロンとリバビリンによる2剤治療とほぼ同等であることが示されています。
シメプレビル投与中の肝機能検査値の変動パターンと注意点
シメプレビル治療中の肝機能検査値の変動は複雑なパターンを示します。臨床研究では、約8例が投与8-12週に急激なALT上昇を認めており、そのうち1例はALT値が663 U/Lまで上昇したため投与中止となりました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/56/11/56_567/_pdf/-char/en
重要な点は、多くの症例でシメプレビル投与終了後にALT値が速やかに低下することです。これは薬剤性肝障害の可逆性を示唆している一方で、治療継続の判断には慎重な検討が必要であることを意味します。
参考)シメプレビル/ペグインターフェロン/リバビリン併用療法の肝障…
また、国内では推定使用患者数約18,900人中、重篤な肝機能障害関連症例が15例(うち因果関係が否定できない症例12例)報告されており、これらの症例の中には血中ビリルビン値の上昇を伴わない症例も含まれていました。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000145206.pdf
シメプレビル副作用による死亡例の詳細な臨床経過分析
厚生労働省の安全性速報に記載された死亡例の詳細な分析から、シメプレビルによる重篤な副作用の臨床経過が明らかになっています。
症例1では、40代男性が投与67日目に総ビリルビン25.7mg/dLの高値を示し、投与中止後も症状が進行しました。最終的に肝不全、細菌性敗血症、腹膜炎により死亡しており、剖検所見では肝硬変、肝細胞壊死、腹膜炎、急性膵炎が認められました。
症例2では、60代男性が投与91日目(投与終了日)後、胆汁うっ滞型薬剤性肝障害と急性腎不全を併発しました。血漿交換、血液濾過透析、ステロイドパルスなどの集中治療を施行するも反応せず、多臓器不全により死亡しました。
これらの症例では、DLST(薬剤リンパ球刺激試験)でシメプレビル陽性を示しており、薬剤性肝障害との因果関係が強く示唆されています。重要な点は、投与中止後も病状が進行することがあるため、治療終了後の経過観察も極めて重要であることです。