ダプソンとニューモシスチス肺炎の予防治療

ダプソンとニューモシスチス肺炎

ダプソンとニューモシスチス肺炎の重要なポイント
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予防投与の有効性

ST合剤を忍容できない患者において、ダプソンはニューモシスチス肺炎の予防に同程度の効果を示します

作用機序と特徴

サルファ剤と同様に葉酸合成阻害により抗菌作用を発揮し、抗炎症作用も併せ持ちます

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副作用の監視

メトヘモグロビン血症や溶血性貧血などの血液系副作用の注意深い監視が必要です

ダプソンのニューモシスチス肺炎予防における有効性

ダプソンは、ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)を忍容できないHIV感染患者において、ニューモシスチス肺炎(PCP)の予防薬として重要な選択肢となっています 。多施設オープンラベル無作為臨床試験において、アトバコン(1,500mg懸濁液)毎日投与とダプソン(100mg)毎日投与の比較が行われ、追跡調査期間中央値27ヵ月の結果、両剤は同程度の予防効果を示しました 。

参考)トリメトプリム,スルホンアミドまたはいずれも忍容できない H…

ニューモシスチス肺炎の発症率は、アトバコン投与群で15.7例/100人年、ダプソン群では18.4例/100人年(相対危険度0.85、95%信頼区間0.67~1.09)と報告されており、統計学的に有意な差は認められませんでした 。この結果は、すでにダプソンを投与している患者ではダプソンによる予防継続を支持する重要な根拠となっています 。
免疫抑制患者におけるニューモシスチス肺炎の予防投与では、CD4値200/μL未満の患者やニューモシスチス肺炎の既往歴がある患者が対象となります 。ダプソンの予防効果は確立されているものの、本邦では適応外使用となるため、使用に際しては十分な説明と同意が必要です 。

ダプソンの作用機序と抗菌スペクトラム

ダプソンはジアフェニルスルホンとも呼ばれ、サルファ剤と同様の抗菌スペクトラムを持つスルホン系抗菌薬です 。その作用機序は、葉酸合成の過程でパラアミノ安息香酸(PABA)と競合し、静菌的に作用することから、サルファ剤とほぼ同じメカニズムによると考えられています 。

参考)ジアフェニルスルホン(レクチゾール)|こばとも皮膚科|栄駅(…

ダプソンは抗菌作用のみならず、抗炎症作用も併せ持つという特徴があります 。この二重の作用により、ニューモシスチス肺炎の治療においては病原体の増殖抑制と炎症反応の制御の両面でアプローチできるという利点があります 。元々はハンセン病の治療に使用されていましたが、近年では皮膚科領域や免疫系疾患への応用が拡大しており、微生物の増殖抑制だけでなく免疫反応の制御に寄与する面が注目されています 。
ニューモシスチス肺炎の治療においては、ダプソンはトリメトプリムとの併用(ダプソン+TMP療法)が必要で、単独での使用は推奨されていません 。軽症から中等症のニューモシスチス肺炎では、アトバコンの次善策としてダプソン+TMP併用が検討されます 。

ダプソン使用時の重要な副作用と監視項目

ダプソン使用に際して最も注意すべき副作用はメトヘモグロビン血症です 。これはダプソンの最も一般的な副作用であり、機能的貧血を引き起こし、組織への酸素供給に重大な影響を及ぼす可能性があります 。メトヘモグロビン血症の症状には、チアノーゼ、呼吸困難、頻脈などがあり、重篤な場合には意識レベルの低下を来すこともあります 。

参考)Object moved

溶血性貧血もダプソンの重要な副作用の一つです 。特にグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症の患者では重篤な溶血性貧血を引き起こす可能性があるため、投与前のG6PD活性の確認が重要です 。しかし、G6PD欠損症を伴わない場合でも溶血性貧血が発症することがあり、末梢血液塗抹標本でbite cellやHeinz小体を発見することが診断に重要とされています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11305499/

ダプソンによる溶血性貧血の特徴として、治療開始2ヶ月で最大のヘモグロビン低下(平均1.29g/dl)を示し、その後3ヶ月以降は回復に転じることが報告されています 。この所見は、多くの患者において薬剤中止の必要性がないことを示唆しており、適切な監視のもとで継続治療が可能であることを示しています 。
その他の副作用として、末梢神経障害無顆粒球症再生不良性貧血、過敏症症候群、精神症状などが報告されており、定期的な血液検査による監視が必要です 。

ダプソン治療における個別化アプローチ

ダプソンの使用においては、患者の特性に応じた個別化アプローチが重要です。特にG6PD欠損症のスクリーニングは必須であり、この酵素欠損がある患者では重篤な溶血性貧血のリスクが高まるため、代替薬の検討が必要です 。地域によってはG6PD欠損症の頻度が高い場合があるため、疫学的背景も考慮した慎重な判断が求められます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11963016/

腎機能障害のある患者では、ダプソンの代謝や排泄に影響があるため、用量調整や投与間隔の検討が必要な場合があります。また、肝機能障害患者においても同様の注意が必要です。高齢者では一般的に薬物代謝能力が低下しているため、より慎重な監視とともに、必要に応じて減量投与を検討する必要があります。

小児患者におけるダプソン使用では、体重に応じた適切な用量設定が重要であり、また成長期特有の薬物動態の変化も考慮する必要があります 。妊娠可能年齢の女性患者では、催奇形性のリスクについても十分な説明と避妊指導が必要です。
アトバコンと比較して、ダプソンは薬価が安いという利点がある一方で、副作用プロファイルにはより注意が必要です 。患者の嗜好や費用対効果を考慮し、十分なインフォームドコンセントのもとでダプソン治療を選択することが推奨されています 。

参考)http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-tokyobay-151013.pdf

ダプソンを用いた包括的治療戦略の実践

ニューモシスチス肺炎の治療におけるダプソンの使用は、包括的な治療戦略の一環として位置づけられます。軽症から中等症のニューモシスチス肺炎では、ST合剤が第一選択薬として推奨されますが、副作用により継続困難な場合にダプソン+トリメトプリム併用療法が有効な代替選択肢となります 。

参考)ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jirove…

治療効果の監視においては、臨床症状の改善とともに、画像所見や酸素化の改善を定期的に評価することが重要です。ダプソン治療中は、特に治療開始初期における血液検査の頻回実施により、メトヘモグロビン血症や溶血性貧血の早期発見に努める必要があります。パルスオキシメーターによる酸素飽和度監視では、メトヘモグロビン血症の存在下では見かけ上の酸素飽和度が実際の値と乖離することがあるため、動脈血ガス分析による正確な評価が推奨されます 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9616144/

免疫抑制患者においては、ニューモシスチス肺炎の予防投与期間の設定も重要な課題です。HIV感染患者では、CD4値200/μL以上を3ヶ月継続できた時点で一次予防の中止を検討しますが 、他の免疫抑制状態にある患者では、基礎疾患の状態や免疫抑制薬の使用状況に応じて個別に判断する必要があります。

薬物相互作用についても十分な注意が必要で、特に抗凝固薬や抗てんかん薬との併用では、血中濃度や効果に影響を及ぼす可能性があるため、定期的な監視と必要に応じた用量調整が求められます。また、メトヘモグロビン血症の治療に用いられるメチレンブルーとの相互作用にも注意が必要です。

ニューモシスチス肺炎予防におけるダプソンとアトバコンの比較試験結果について
MSDマニュアルのニューモシスチス肺炎治療ガイドライン
アトバコン内用懸濁液の添付文書における臨床試験データ