ピューロマイシンセレクション培地交換の基本
ピューロマイシンセレクション培地の基本原理
ピューロマイシンはStreptomyces albonigerが産生するアミノヌクレオシド系抗生物質で、リボソームでのタンパク質合成を阻害することで細胞選択に用いられます 。この抗生物質は、アミノアシルtRNAの3’末端に構造的に類似しており、成長中のペプチド鎖に組み込まれることでタンパク質合成を停止させます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7229235/
ピューロマイシン耐性はpac遺伝子によって付与され、この遺伝子がコードするピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(PAC)酵素がピューロマイシンをアセチル化して不活性化します 。形質転換された細胞のみが生存し、目的の遺伝子を安定的に発現する細胞株の樹立が可能になります 。
参考)超実践的知識 – ピューロマイシンによる安定したトランスフェ…
培地交換は選択過程において極めて重要な要素であり、死滅した細胞の除去と薬剤濃度の維持を同時に行う必要があります 。適切な培地交換により、選択圧を一定に保ちながら耐性細胞の成長を促進できます。
参考)RNAi実験の基礎 shRNA導入細胞を選択する抗生物質濃度…
ピューロマイシン濃度の最適化手順
ピューロマイシンの最適濃度は細胞種によって大きく異なり、事前の濃度設定実験が必須です 。哺乳類細胞では一般的に1-10 μg/mLの範囲で使用されますが、具体的な濃度は各細胞株に対する細胞毒性試験によって決定します 。
参考)https://tools.mirusbio.com/assets/quick-reference-protocols/puromycin-antibiotic-protocol.pdf
濃度最適化の手順として、まず未処理細胞を6ウェルプレートに播種し、24時間後に0、1.0、2.5、5.0、7.5、10.0 μg/mLの段階希釈したピューロマイシンを含む培地に交換します 。その後、2日毎に選択培地を交換し、7-10日間観察を続けます。
例えば、HEK293細胞では0.5-10 μg/mL、HeLa細胞では1-10 μg/mL、A549細胞では1.5 μg/mL程度が推奨されています 。重要なのは、100%の細胞が死滅する最低濃度を「最適濃度」として設定することです 。
参考)ピューロマイシン
ピューロマイシン選択時の培地交換プロトコル
培地交換のタイミングと手順は選択効率に直接影響します。トランスフェクション後48-72時間経過してから選択を開始し、初期は低濃度から段階的に濃度を上昇させます 。これにより、細胞への負担を軽減しながら確実な選択が可能になります。
参考)多コピー遺伝子導入(IR/MAR)法による高発現細胞株の作製…
培地交換は2-3日間隔で実施し、死滅した浮遊細胞を除去しながら新鮮な選択培地を供給します 。特にピューロマイシンは細胞死が急速に進行するため、毎日の顕微鏡観察と必要に応じた培地交換が推奨されます 。
参考)http://www.kenkyuu2.net/cgi-biotech2/biotechforum.cgi?mode=view%3BCode%3D2169
培地交換時は、既存培地を完全に除去した後、予め37℃に温めた新鮮な選択培地を添加します 。この際、細胞への物理的ストレスを最小限に抑えるため、ピペッティングは慎重に行い、付着細胞が剥がれないよう注意が必要です。
ピューロマイシン選択プレッシャーの管理方法
選択プレッシャーの適切な管理は、偽陽性クローンの除去と真の耐性細胞の単離において重要な役割を果たします。初期選択では比較的低濃度(1 μg/mL程度)から開始し、48時間後に本格的な選択濃度(10-100 μg/mL)に移行する段階的アプローチが効果的です 。
参考)https://www.pssj.jp/archives/files/articles/077.pdf
選択期間中は一定の薬剤濃度を維持することが重要であり、培地中のピューロマイシンは時間とともに分解されるため、定期的な培地交換が必須です 。一般的に、選択開始から10-14日間の継続的な薬剤圧が必要とされます 。
参考)RNAi実験の基礎 shRNA レンチウイルスによるノックダ…
また、培地のpH変化や培養環境の変動も選択効率に影響するため、培地交換時には培養条件の確認も同時に行います 。特に大腸菌での選択においては、正確なpH調整が選択成功の重要な要因となります 。
ピューロマイシン耐性細胞の培養管理における注意点
ピューロマイシンによる選択過程では、細胞の生理学的状態と培養環境の管理が成功を左右します。選択開始前の細胞は80%コンフルエント以上の良好な状態である必要があり、細胞密度が低すぎると選択効率が著しく低下します 。
培地交換時の細胞観察では、死滅細胞の浮遊状態と生存細胞のコロニー形成を日々確認します。ピューロマイシンは急速な細胞死を引き起こす特性があるため、培地が濁った場合は即座に交換が必要です 。
参考)ピューロマイシン
耐性細胞株の樹立後も、継代培養において低濃度のピューロマイシン(0.5-1 μg/mL)を維持することで、遺伝子発現の安定性を保つことができます。ただし、長期培養では薬剤ストレスによる細胞特性の変化に注意が必要で、定期的な薬剤フリー培養での細胞状態確認も推奨されます 。