リパーゼと血液検査の役割や異常値の診断意義

リパーゼと血液検査の診断的意義

リパーゼ血液検査の基本情報
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基準値と測定方法

リパーゼ血液検査の正常値は11-57U/Lで、比色法により測定される

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膵臓特異性の高い酵素

膵臓由来の消化酵素として血中ではほぼ膵臓由来のみが検出される

診断的優位性

アミラーゼよりも膵疾患特異性が高く持続期間も長い

リパーゼ血液検査の基本特性と測定原理

リパーゼは膵腺房細胞で合成される分子量約45,000の糖タンパクで、血中ではそのほとんどが膵臓由来です 。この酵素は脂肪分解に重要な役割を果たし、トリグリセライドのα位脂肪酸エステルを加水分解する消化酵素として機能します 。

参考)https://data.medience.co.jp/guide/guide-01070027.html

血液検査では比色法により測定され、基準値は13-55U/L(検査機関により11-53U/Lや17-57U/Lの場合もあります) 。検体量は血清0.6mL、冷蔵保存で1-3日の検査期間を要します 。リパーゼは腎糸球体で濾過された後、尿細管で再吸収・代謝されるため、尿中にはほとんど排出されません 。

参考)https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060026.html

膵特異性の高さがリパーゼ測定の最大の利点です。アミラーゼとは異なり、唾液腺由来の成分がほぼ存在しないため、血中リパーゼの上昇は膵疾患により特異的な指標となります 。

参考)https://www.hirahata-clinic.or.jp/pancreas/mibyo/3_examinations

リパーゼ血液検査における正常値と異常値の解釈

リパーゼ値の解釈には、高値と低値それぞれに明確な臨床的意義があります。高値を示す疾患には急性膵炎慢性膵炎、膵管閉塞、膵臓癌(初期)、肝硬変腎不全糖尿病性ケトーシスなどがあります 。

参考)https://www.mrso.jp/inspection/283.html

急性膵炎では、リパーゼは膵炎発症後4-8時間以内に上昇し、24時間で頂値に達し、1週間前後で正常に復します 。特筆すべきは、血中アミラーゼよりも異常高値の持続日数が長く、急性膵炎発症24時間以降はリパーゼの方がアミラーゼより感度が高いことです 。

参考)https://diagnostic-wako.fujifilm.com/product/seikagaku/lipa.html

アルコール性膵炎の診断において、アミラーゼ/リパーゼ比が3以上の場合にはアルコール性膵炎の可能性が高いという特徴的な所見があります 。しかし、広範な壊死性膵炎では血中リパーゼが病変の進行とともに低下することもあります 。
低値を示す場合には、進行した慢性膵炎でのリパーゼ枯渇、膵癌による膵実質の広範な破壊、膵嚢胞線維症、糖尿病、急性肝壊死などが考えられますが、低値側の測定意義は高値に比べて少ないとされています 。

リパーゼ血液検査の急性膵炎診断における役割

急性膵炎の診断において、リパーゼ血液検査は極めて重要な位置を占めています。急性膵炎の典型例では、血中膵リパーゼは膵炎発症後4-8時間以内に上昇し、24時間で頂値に達し、1週間前後で正常に復します 。
リパーゼはアミラーゼよりも膵疾患特異性が高く、異常高値の持続期間も長いことから、急性膵炎の診断には最も有用な検査とされています 。膵機能の酵素検査としては、アミラーゼ、トリプシン、エラスターゼ1や膵フォスフォリパーゼA2などもありますが、リパーゼは簡便性、膵疾患特性からみて優れた検査です 。
急性膵炎診断では血清アミラーゼとともに膵特異性の高い血清リパーゼを測定します 。ただし、高脂血症の場合には血清アミラーゼ、血清リパーゼが正常から低値を示すことがあるため注意が必要です 。血中リパーゼ上昇の程度と膵炎の重症度は必ずしも並行しないことも重要な臨床的特徴です 。

参考)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/94.html

リパーゼ血液検査と膵癌早期発見への臨床的応用

膵癌の早期発見において、リパーゼ血液検査は重要なスクリーニング検査の役割を担っています。膵癌が主膵管を閉塞し、膵臓から十二指腸に分泌されるはずであったリパーゼが血中に逸脱することで、膵酵素の上昇が膵癌診断のきっかけになることがあります 。

参考)https://yamauchi-cl.net/%E8%86%B5%E7%99%8C%E3%82%92%E6%97%A9%E6%9C%9F%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB%E3%81%AF%EF%BC%9F

尾道市医師会膵がん早期発見プロジェクトの成果では、2007年から2017年までの間に555例の膵癌が発見され、リパーゼの上昇が約50%にみられました 。しかし、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)の上昇は低率であり、早期診断には限界があることが示されています 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/112/2/112_250/_pdf

膵癌における血中膵酵素の異常率は20-50%とされ、膵癌による膵管狭窄から随伴性膵炎が引き起こされるためと考えられています 。膵癌検出のための血液検査には、膵酵素(アミラーゼやリパーゼなど)と腫瘍マーカーの組み合わせが用いられ、最も感度の高いCA19-9の単独測定よりも組み合わせ検定の方が検出率が高いと報告されています 。

参考)https://www.suizou.org/PCMG2009/cq1/cq1-3.html

膵癌早期診断プロジェクトでは、膵型アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼIなどの膵酵素異常が重要なリスクファクターチェック項目として位置づけられています 。

参考)https://www.aichi-med-u.ac.jp/hospital/files/link/risk%20factor%20check%20list.docx

リパーゼ血液検査における腎不全と代謝異常の独自診断視点

リパーゼ血液検査において、従来あまり注目されていない腎不全との関係性について独自の診断視点を提供します。腎不全では、腎における代謝・不活性化機構が障害され、高リパーゼ血症となることが知られています 。これは膵疾患以外でリパーゼが高値を示す重要な病態です。
腎不全によるリパーゼ上昇のメカニズムは、正常では腎糸球体で濾過されたリパーゼが尿細管で再吸収・代謝されるプロセスが障害されることにあります 。この現象により、膵疾患がない患者でもリパーゼ値が上昇する可能性があるため、リパーゼ高値の解釈には腎機能の評価が不可欠です。

参考)https://test-directory.srl.info/akiruno/test/detail/004280200

さらに、マクロリパーゼ血症という稀な病態では、リパーゼが免疫グロブリンと結合した状態(リパーゼ-IgG-λ)で存在し、持続的な高リパーゼ血症を呈します 。この場合、膵疾患がないにも関わらずリパーゼが高値を示すため、鑑別診断において重要な考慮事項となります。
糖尿病性ケトーシス時にもリパーゼ上昇が認められることがあり、これは代謝異常に伴う膵への影響と考えられています 。このような多角的な視点からリパーゼ血液検査を解釈することで、より正確な診断に繋がります。