レフルノミドの作用機序を薬学的に解説

レフルノミドの作用機序

レフルノミドの作用機序概要
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プロドラッグとしての特徴

体内で活性代謝物A771726(テリフルノミド)に変換され効果を発揮

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DHODH阻害による免疫抑制

ピリミジン核酸代謝経路の律速酵素を特異的に阻害

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選択的な細胞増殖抑制

活性化リンパ球の増殖を選択的に抑制し免疫反応を制御

レフルノミドの薬理学的特徴と代謝機構

レフルノミド(商品名:アラバ)は、イソキサゾール系の抗リウマチ薬であり、プロドラッグとして投与される医薬品です 。経口投与後、腸管壁および肝臓における初回通過効果により、速やかに活性代謝物であるA771726(テリフルノミド)に変換されます 。この代謝変換は薬物の薬理効果発現において極めて重要な過程であり、レフルノミド自体には直接的な薬理活性はありません 。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00006926.pdf

A771726は分子量270.21の化合物で、99%以上という極めて高いタンパク結合率を示します 。この高いタンパク結合性により、薬物の消失半減期は約2週間と長期にわたり、胆汁排泄後の腸肝循環も薬物の体内滞留に寄与しています 。この薬物動態学的特徴は、レフルノミドの治療効果の持続性や副作用リスクの評価において重要な要素です 。

参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%95%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%9F%E3%83%89

レフルノミドによるDHODH阻害の分子機構

レフルノミドの活性代謝物A771726は、ジヒドロオロテートデヒドロゲナーゼ(DHODH)を分子標的とする特異的阻害薬です 。DHODHは、de novoピリミジン生合成経路の第4段階を触媒するミトコンドリア内膜酵素であり、ジヒドロオロト酸からオロト酸への酸化反応を司る律速酵素です 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/10/100_2929/_pdf

この酵素は、DNA・RNA合成に必要なピリミジンヌクレオチド(チミジン、シチジン、ウリジンなど)の供給において中心的役割を果たしています 。A771726がDHODHを阻害することで、細胞内ピリミジンヌクレオチドプールが枯渇し、特にde novo経路に依存する活性化リンパ球の増殖が選択的に抑制されます 。興味深いことに、静止状態の細胞はサルベージ経路(既存の核酸塩基の再利用)により生存可能であるため、選択的な免疫抑制効果が期待できます 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7869628/

レフルノミドの免疫抑制機序と細胞選択性

レフルノミドによる免疫抑制効果は、活性化T細胞とB細胞の増殖抑制を通じて発揮されます 。関節リウマチにおける自己反応性リンパ球は、抗原刺激により活性化され、rapid cell divisionを行うためde novoピリミジン合成経路への依存度が高くなります 。

参考)https://rheuminfo.com/ja/%E8%96%AC/arava/

正常な静止細胞では、既存のヌクレオチドを再利用するサルベージ経路が主体となるため、DHODHの阻害による影響は限定的です 。この生化学的特徴により、レフルノミドは病的な免疫応答を選択的に抑制しながら、生理的な免疫機能への影響を最小限に抑えることが可能となります 。
さらに、レフルノミドは炎症性サイトカインの産生抑制や抗体産生の阻害も示し、関節リウマチの病態形成に関与する複数の免疫学的経路に作用することが報告されています 。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00049738.pdf

レフルノミドの関節破壊抑制効果のメカニズム

レフルノミドは、関節リウマチにおける骨・軟骨破壊の進行抑制において独特な作用機序を示します 。滑膜組織における破骨細胞様細胞の形成抑制と骨吸収窩の形成阻害により、関節破壊の進行を分子レベルで制御します 。
メトトレキサートとの比較において、レフルノミドはピリミジン合成経路のみを標的とする特異性を持ちます 。メトトレキサートがプリン・ピリミジン両合成経路に影響するのに対し、レフルノミドはオロト酸合成酵素の特異的阻害によりピリミジン合成のみを抑制します 。この選択性は、副作用プロファイルの違いや治療効果の特徴に関連していると考えられています 。

参考)http://www.hakatara.net/images/no4/4-12.pdf

臨床試験では、X線画像による関節破壊進行の評価において、プラセボ群と比較して有意な抑制効果が確認されており、構造的寛解の達成に寄与する重要な特徴として位置づけられています 。

レフルノミドの薬学的意義と臨床応用への示唆

レフルノミドは、DHODH阻害という新規の作用機序により、既存の抗リウマチ薬とは異なる治療選択肢を提供する薬剤です 。その作用機序の特異性は、メトトレキサート不応例や不耐例における代替治療薬としての価値を高めています 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/10/100_2929/_article/-char/ja/

薬物動態学的特徴として、長い消失半減期と高いタンパク結合率は、服薬コンプライアンスの向上に寄与する一方で、副作用発現時の薬物除去において課題となる場合があります 。このため、コレスチラミンを用いた薬物除去法が確立されており、臨床使用における安全性確保のための重要な手法となっています 。
分子薬理学的観点から、DHODHを標的とする治療戦略は、自己免疫疾患のみならず、癌治療やウイルス感染症治療への応用も期待されており、レフルノミドの作用機序は現代薬学において重要な位置を占めています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8180448/

日本内科学会雑誌におけるレフルノミドの詳細な薬理解説
医薬品医療機器総合機構によるレフルノミドの承認審査報告書