原発性免疫不全症候群のガイドライン診断基準治療法
原発性免疫不全症候群の分類と診断基準概要
原発性免疫不全症候群は、国際免疫学会によって現在416疾患(430遺伝子)が10の疾病に分類されています 。この分類には複合免疫不全症、抗体産生不全症、免疫調節障害、食細胞の数・機能の異常、自然免疫異常、自己炎症性疾患、補体異常症、骨髄不全症候群などが含まれます 。
参考)https://pro.csl-info.com/medical-info/mi-15120/
診断基準は厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班および日本免疫不全症研究会の作製した基準を用い、国際免疫学会の分類に準じて策定されています 。重症度分類では中等症以上を対象とし、治療により補充療法、G-CSF療法、除鉄剤の使用などが必要な状態を基準としています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089892.pdf
診断においては「原発性免疫不全症候群を疑う10の徴候」が重要な指標となり、乳児期の呼吸器・消化器感染症の反復、年2回以上の肺炎、気管支拡張症の発症、深部感染症の反復などが挙げられています 。これらの所見のうち1つ以上が該当する場合は、専門医への相談が必要とされています 。
参考)https://pro.csl-info.com/medical-info/mi-15144/
原発性免疫不全症候群の診療ガイドライン策定指針
日本免疫不全・自己炎症学会が承認した診療指針は、Mindsに準拠してCQ(Clinical Question)方式で作成されています 。この指針では、エビデンスレベルをA(強)からD(とても弱い)の4段階で評価し、推奨の強さを「1:強く推奨する」「2:弱く推奨する」「なし:明確な推奨ができない」で表示しています 。
参考)https://www.jspid.jp/wp-content/uploads/2023/05/CQ_guideline_R2-R4.pdf
指針の目的は、治療方針の意思決定の参考となることであり、医療者と患者・患者家族間での情報共有を促進することです 。ルールブックではなく、個々の患者に適した治療選択を支援するためのツールとして位置づけられています 。
診療指針は52疾患について網羅的に作成されており、2022年8月までの最新エビデンスに基づいています 。3年を目安とした定期的な改訂が予定されており、新しい治療法の制度的認可など重要な変更があった場合は適宜更新される仕組みとなっています 。
原発性免疫不全症候群の治療法選択基準
治療法の選択は疾患と重症度によって決定され、主要な治療選択肢として予防的抗菌薬・抗真菌薬投与、免疫グロブリン補充療法、同種造血幹細胞移植、遺伝子治療などがあります 。予防的抗菌薬・抗真菌薬は慢性肉芽腫症など多くの原発性免疫不全症候群で用いられ、ST合剤による細菌感染およびニューモシスチス感染予防が重要です 。
参考)https://pro.csl-info.com/medical-info/mi-15110/
免疫グロブリン補充療法は、X連鎖無ガンマグロブリン血症、分類不能型免疫不全症など液性免疫不全、および重症複合免疫不全症などに対して実施されます 。補充療法により重症感染症の予防と臓器障害の進行抑制が期待できることから、低ガンマグロブリン血症を呈する場合や易感染性が強い場合に推奨されています 。
造血幹細胞移植は、重症複合免疫不全症、X連鎖高IgM症候群、慢性肉芽腫症など致死的な疾患に対する根治的治療として位置づけられています 。特にT細胞、好中球、マクロファージ、樹状細胞の重症の分化異常、機能異常の病型が対象となり、移植ドナーの選択と前処置方法の最適化が重要な課題です 。
参考)https://www.takedamed.com/medical-affairs/plasma-derived-therapies_primary-immunodeficiency/overview
原発性免疫不全症候群の新生児スクリーニング活用指針
新生児期のTRECs(T-cell Receptor Excision Circles)測定によるマススクリーニングは、重症複合免疫不全症の早期発見に極めて有用です 。生後早期に造血細胞移植を行うことで90%以上の患者が救命可能である一方、感染症合併例や生後3.5か月を超えた症例では予後が不十分となることから、可能な限り早期の診断が重要です 。
TRECsスクリーニングでは、重症複合免疫不全症以外のT細胞数減少、T細胞機能不全、リンパ球数減少等でも陽性となる場合があるため、二次スクリーニングの検査体制も併せて確立する必要があります 。本邦では公的マススクリーニングとして採用されておらず、実施状況に地域差があることも課題となっています 。
細網異形成症などの疾患では、TRECsスクリーニングと新生児聴力スクリーニングの組み合わせにより、早期診断の可能性が向上することが報告されており、実際に国内でもTRECsオプショナルスクリーニングによる早期診断例が確認されています 。ただし、早産児では免疫学的に正常でもTRECs低値となることがあるため、解釈には注意が必要です 。
原発性免疫不全症候群の専門医連携システム構築
原発性免疫不全症候群の診療には、専門医への適切な相談体制が不可欠であり、PIDJ(原発性免疫不全症データベース)を通じた専門医連携システムが確立されています 。このシステムにより、疑い症例の早期相談や確定診断後の治療方針決定において、専門医の支援を受けることが可能です 。
参考)https://www.shindan.co.jp/np/isbn/9784787826305/
重症複合免疫不全症は可及的速やかに診断・治療を開始する必要があり、未治療では2歳までにほぼ100%が死亡するものの、早期診断により造血細胞移植で90%以上の治癒が見込まれます 。X連鎖無ガンマグロブリン血症においても、早期診断と適切な免疫グロブリン定期補充により予後が劇的に改善することが明らかになっています 。
診療体制の最適化により、専門医への相談後にかかりつけ医が継続して診療・治療を行う体制も構築されており、診療指針の活用によって地域医療機関での適切な管理が可能となっています 。また、移行期医療についても重要な課題として位置づけられ、小児期から成人期への円滑な医療移行を支援する体制整備が進められています 。