乳酸菌製剤の種類と特性
乳酸菌製剤は腸内細菌叢を正常化し、腸の働きを整える医薬品として幅広く使用されています 。現在、日本の医療現場では複数の種類の乳酸菌製剤が使い分けられており、それぞれ含有する菌種や作用メカニズムが異なります 。
参考)https://kanri.nkdesk.com/drags/nyu.php
医療用の乳酸菌製剤は大きく 生菌製剤と耐性乳酸菌製剤 に分類されます 。生菌製剤は通常の腸内菌叢異常による症状改善に使用される一方、耐性乳酸菌製剤は抗生物質投与時の腸内環境保護を目的として開発されています 。
参考)https://www.tamapla-ichounaika.com/colonoscopy/intestinal-flora/regulator/
乳酸菌製剤の効果は含有する菌種によって大きく左右されます。ビフィズス菌は主に大腸で増殖し、食物繊維を栄養源として 乳酸と酢酸を産生 します 。酢酸には病原菌の殺菌作用や腸管バリア機能向上効果があり、便秘予防にも寄与します 。
参考)https://brand.taisho.co.jp/contents/chokatsu/072/
乳酸菌製剤主要商品の特徴比較
現在使用される主要な乳酸菌製剤には明確な使い分けがあります。ビオフェルミン錠 はビフィズス菌単独製剤で、配合散は乳酸菌と糖化菌の組み合わせです 。糖化菌は乳酸菌との共生により、単独投与時と比較して 約10倍の増殖速度 を実現します 。
参考)https://kirishima-mc.jp/data/wp-content/uploads/2023/04/d455328588af94a6c87419260b3d213a.pdf
ラックビー錠・微粒N はビフィズス菌を主成分とし、腸内菌叢の異常による諸症状改善に適応があります 。特にラックビー微粒Nは粉の分包が大きく、処方頻度の高い医療機関では管理上の配慮が必要です 。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/ajimi/5361
ミヤBM錠・細粒 は酪酸菌(宮入菌)を含有し、他の製剤との大きな違いは 芽胞形成による耐性 です 。胃酸、胆汁酸、消化酵素の影響を受けにくく、抗生物質と併用可能な特徴があります 。
参考)https://kmah.jp/wp-content/uploads/2024/02/20231218-1.pdf
製剤名 | 主要成分 | 作用部位 | 特徴 |
---|---|---|---|
ビオフェルミン錠 | ビフィズス菌 | 大腸中心 | 乳酸・酢酸産生 |
ラックビー錠 | ビフィズス菌 | 大腸中心 | 腸内菌叢正常化 |
ミヤBM | 酪酸菌(宮入菌) | 小腸〜大腸 | 芽胞形成・耐酸性 |
ビオスリー | 乳酸菌・酪酸菌・糖化菌 | 小腸〜大腸 | 3菌相乗効果
参考)https://goto-oc.com/%E8%85%B8%E5%86%85%E7%92%B0%E5%A2%83%E3%81%A8%E6%95%B4%E8%85%B8%E5%89%A4/ |
乳酸菌製剤における耐性菌の重要性
抗生物質投与時には 耐性乳酸菌製剤 の使用が推奨されます 。ビオフェルミンR錠・R散は耐性フェカリス菌を含有し、ペニシリン系、セファロスポリン系、アミノグリコシド系、マクロライド系、テトラサイクリン系抗生物質に対する耐性を持ちます 。
参考)https://chuo.kcho.jp/app/wp-content/uploads/2022/03/NStimes63.pdf
ラックビーR散 は耐性ビフィズス菌製剤として、抗生物質による腸内菌叢の破綻予防に使用されます 。レベニン散は複数の耐性菌(ビフィズス菌・アシドフィルス菌・フェカリス菌)を配合した製剤です 。
参考)https://www.data-index.co.jp/kusulist/detail.php?trk_toroku_code=2316004F1020
耐性乳酸菌製剤使用時の注意点として、ラックビーRとエンテロノンRは 牛乳アレルギー患者に禁忌 です 。これは製造工程で脱脂粉乳を使用しており、アナフィラキシー様症状のリスクがあるためです 。
抗生物質関連下痢の予防効果については、メタアナリシスにより乳酸菌製剤が 発生率を約50%低下 させることが報告されています 。このため抗生物質処方時の併用は医学的根拠に基づいた治療戦略となります。
参考)https://onaka-oshiri.clinic/column/lactic-acid-bacteria-preparation/
乳酸菌製剤の複合菌製剤と相乗効果
ビオスリー配合錠・散 は3種類の活性菌(乳酸菌・酪酸菌・糖化菌)を含有する複合製剤です 。これらの菌は酸素感受性が異なり、糖化菌(好気性)、乳酸菌(通性嫌気性)、酪酸菌(偏性嫌気性)として小腸から大腸まで広範囲に作用します 。
参考)https://minacolor.com/articles/4945
複合菌製剤の最大の特徴は 菌同士の相互作用による増殖促進 です。ビオスリーでは各菌がお互いの増殖を促進し合い、単独投与と比較して 最大10倍の増殖 が期待できます 。糖化菌は乳酸菌を、乳酸菌は酪酸菌の増殖をそれぞれ促進する相乗効果メカニズムがあります 。
レベニンS散 は乳酸菌とビフィズス菌の組み合わせで、乳酸菌が小腸、ビフィズス菌が小腸下部から大腸へかけて優勢に棲息する生理的特性を活用しています 。この空間的棲み分けにより効率的な腸管全体へのアプローチが可能です。
ビオスミン配合散はラクトミンとビフィズス菌の配合により、小腸から大腸にかけての包括的な腸内環境改善を図ります 。各製剤の菌構成は医学的根拠に基づいて設計されており、症状や併用薬に応じた選択が重要です。
乳酸菌製剤と市販サプリメントの相違点
医療用乳酸菌製剤と市販サプリメントには 品質管理や効果検証において大きな差 があります 。医療用製剤は医薬品として厳格な品質管理下で製造され、含有菌数や安全性が保証されています 。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2021.693973/pdf
市販の乳酸菌サプリメントは dietary supplement として分類され、FDA承認前の市場投入が可能 です 。そのため製品によって菌数や品質にばらつきがあり、表示と実際の含有量が異なる場合があります 。
参考)https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c02/09.html
サプリメントの中には 1日当たり500億個 の乳酸菌を含有する製品もありますが 、腸内常在菌は1000兆個に対し摂取菌数はわずか5000分の1程度に過ぎません 。医療機関で使用される高濃度乳酸菌サプリメントでは 1日当たり1兆200億個 の摂取が可能な製品もあります 。
参考)https://www.yaegaki.co.jp/bio/column/4268/
耐酸性カプセル を採用したサプリメントは、胃酸の影響を受けずに腸まで乳酸菌を届ける仕組みを持ちます 。しかし医療用製剤に配合される乳酸菌も胃酸耐性を持つため、必ずしもカプセル化が必須ではありません 。
参考)https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/biothree-biofermin
乳酸菌製剤選択時は症状や併用薬、個人の体質を考慮し、医療従事者との相談に基づいた適切な製剤選択が重要です。単純な菌数比較ではなく、科学的根拠に基づいた治療効果を重視した選択が推奨されます。
乳酸菌製剤の臨床応用と将来展望
近年の研究により、乳酸菌製剤は従来の整腸作用を超えた 多面的な健康効果 が注目されています 。プロバイオティクス効果として、免疫調整、アレルギー軽減、認知機能改善などの報告があり、医療応用の可能性が拡大しています 。
参考)https://www.mdpi.com/2077-0383/13/5/1436/pdf?version=1709280625
糞便細菌叢移植(FMT) の発展により、腸内細菌叢の治療的意義がさらに注目されています 。従来の乳酸菌製剤投与による菌叢改善から、より包括的な腸内環境再構築への治療戦略が検討されています。
参考)http://probiotics-org.jp/probiotics/
医療現場では 個別化医療 の観点から、患者の腸内細菌叢解析に基づいた乳酸菌製剤選択の研究が進行しています。将来的には遺伝子解析やメタボローム解析を活用した、より精密な製剤選択が可能になると予想されます。
乳酸菌製剤の抗生物質耐性については、適切な耐性菌株の選択 が重要です 。過度な耐性付与は腸内細菌叢への悪影響が懸念されるため、必要最小限の耐性レベルを持つ製剤開発が求められています。
参考)https://www.mdpi.com/2079-6382/11/11/1557/pdf?version=1667630335