肺サーファクタントいつできるかと発達過程
肺サーファクタント分泌開始と妊娠週数
肺サーファクタント(肺界面活性物質)の分泌は、胎児の肺機能成熟において最も重要なプロセスの一つです 。この物質の産生は妊娠22~24週頃から開始され、段階的に増加していきます 。
参考)https://medical-term.nurse-senka.jp/terms/1748
妊娠28週頃からII型肺胞上皮細胞における本格的な肺サーファクタントの生合成が始まります 。このII型肺胞上皮細胞では、グルコースや脂肪酸を原料として肺サーファクタントが合成され、肺胞内へと分泌されるのです 。
興味深いことに、分泌された肺サーファクタントの一部は羊水中にも放出されるため、羊水中のL/S比(レシチン・スフィンゴミエリン比)やマイクロバブルテストを通じて胎児の肺成熟度を非侵襲的に評価できます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtwmu/93/2/93_57/_pdf/-char/ja
肺サーファクタント産生量の急増時期
肺サーファクタントの産生量は妊娠30週頃から本格的に増加し始めますが、妊娠34週頃から急激に増加します 。この時期の産生量増加は、胎児が子宮外環境で自立的な呼吸を行うための重要な準備段階です 。
参考)https://jp.moony.com/ja/tips/pregnancy/pregnancy/hyakka/pt0024.html
妊娠34週を境に、肺サーファクタントの分泌量は成熟児レベルに達し、肺胞の表面張力を効果的に低下させることが可能となります 。この段階で、たとえ早産となっても人工呼吸器に頼ることなく自力での呼吸が可能になるのです 。
参考)https://www.kango-roo.com/kokushi/kako/detail/4526/1
最新の研究では、肺サーファクタント産生を制御するステロイド受容体補活性化因子(SRC-1とSRC-2)が重要な役割を果たすことが明らかになっています 。これらの因子は肺サーファクタントAの転写を調節し、分娩開始シグナルにも関与しています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC387359/
肺サーファクタント作用機序と表面張力制御
肺サーファクタントの主要な機能は、肺胞気-液界面の表面張力を低下させることです 。肺胞表面を覆う薄い水の膜(肺胞被覆層)には、肺胞を収縮させる方向に働く表面張力が発生します 。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.24479/peri.0000001323
ラプラスの関係式(P=2T/r)に基づくと、表面張力Tが一定の場合、半径rの小さな肺胞ほど内圧が高くなり虚脱しやすくなります 。しかし肺サーファクタントが存在すると、小さな肺胞ほど界面活性物質の密度が高くなり、表面張力が効果的に低下します 。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/2272/
II型肺胞上皮細胞からラメラ体として分泌された肺サーファクタントは、気液界面に吸着して表面活性を発揮し、肺胞腔を相対的陽圧にする作用を示します 。この作用により、大小さまざまな肺胞が均等に膨張・維持され、効率的なガス交換が実現されるのです 。
参考)https://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/09-2/09-2-001.pdf
肺サーファクタント不足による呼吸窮迫症候群
肺サーファクタントが不足している状態で出生した新生児は、呼吸窮迫症候群(RDS)を発症する危険性が高くなります 。この疾患は、特に妊娠34週未満の早産児において高い発症率を示します 。
参考)https://www.hama-med.ac.jp/education/fac-med/dept/reg-neonatal-perinatal-med/disease/rds.html
RDSの病態は、肺サーファクタント不足により肺胞内面の表面張力が低下せず、肺胞が虚脱してしまうことに起因します 。症状は出生直後から始まり、24~48時間後に最も重症となりますが、特に重大な合併症がなければ生後3~4日目になると内因性の肺サーファクタント産生が開始され症状は改善されます 。
治療法として、1980年代に開発された人工肺サーファクタント補充療法が極めて有効です 。この治療により、肺胞の十分な拡張が可能となり、呼吸状態の最適化が図られます 。また、早産が予測される場合には、母体へのコルチコステロイド投与により胎児の肺サーファクタント産生を促進し、RDSの発症予防や重症度軽減を図ることができます 。
胎児肺発達の分子メカニズムと独自研究展開
近年の研究により、胎児肺発達におけるマイクロRNA 29ファミリーの重要性が明らかになってきました 。このマイクロRNAは妊娠後期の上皮細胞で著明に上昇し、II型肺胞上皮細胞の分化を促進します 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4968214/
特に注目すべきは、肺サーファクタントAが単なる表面活性物質の役割を超えて、分娩開始のホルモン様シグナルとして機能することです 。マウスの研究では、成熟した胎児肺から分泌される肺サーファクタントAが羊水中のマクロファージを活性化し、母体子宮でのNF-κB活性化を通じて陣痛開始の引き金となることが示されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5346347/
さらに、cyclic AMP(cAMP)による肺サーファクタント遺伝子発現の誘導は、TGF-βや低酸素によって抑制されることが知られており、これらの相互作用が肺成熟の精密な時期調節に関与しています 。この発見は、早産予防や肺成熟促進の新たな治療戦略開発に重要な示唆を与えています 。