末梢血白血球の割合の重要性
末梢血白血球分画の基準値と正常範囲
末梢血液中の白血球は、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球の5種類に分類され、それぞれ異なる機能を有している。日本検査血液学会による基準範囲では、桿状核好中球0.5~6.5%、分葉核好中球38.0~74.0%、リンパ球16.5~49.5%、単球2.0~10.0%、好酸球0.0~8.5%、好塩基球0.0~2.5%とされている 。
参考)https://jaclap.org/wp-content/uploads/2024/04/labo_no497.pdf
一般的な医療機関では、好中球40~75%、好酸球0~8%、好塩基球0~2%、単球2~10%、リンパ球18~49%の範囲が用いられることが多い 。これらの基準値は健康人の95%が分布する検査値の範囲として設定されており、施設により若干の差異が認められる 。
参考)https://www.dock-tokyo.jp/results/blood-test/hemogram.html
白血球分画の評価では、比率(%)だけでなく、白血球数を乗じた絶対数での評価も重要である。例えば、白血球数が10,000/μLで好中球が80%の場合、好中球絶対数は8,000/μLとなり、これは基準値上限を大きく超える値となる 。
参考)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/113.html
末梢血白血球分画検査の診断における意義
末梢血液像検査は、血液疾患のみならず疾患特異性はないものの、他の疾患の診断、治療効果判定の総合判断の補助手段として広く活用されている 。白血球は種々の種類がありそれぞれの機能が異なるため、病態の変化に伴い出現してくる種類も異なることから、白血球分類は病態を把握するには重要な検査である 。
参考)https://www.kchnet.or.jp/for_medicalstaff/LI/item/LI_DETAIL_200001.html
感染症においては、細菌感染では好中球が増加し、ウイルス感染ではリンパ球が増加する傾向がある 。一般に、急性細菌感染症では好中球の増加と左方移動(幼若細胞の出現)が認められ、ウイルス性疾患では相対的リンパ球増加が特徴的である 。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/2197/
血液疾患の診断においては、末梢血液像検査は基本的なスクリーニング検査として位置づけられている。急性白血病では芽球(白血病細胞)の出現、慢性骨髄性白血病では好塩基球の増加と幼若顆粒球の出現が特徴的所見となる 。
参考)https://www.jalsg.jp/leukemia/pathology.html
末梢血検査での好中球とリンパ球の割合の意味
好中球は白血球の中で最も多く、健常成人では白血球のうち40~70%を占めている 。好中球は細菌や真菌などの有害物の貪食・除去の役割を果たすことから、細菌感染症や炎症性疾患、悪性腫瘍、心筋梗塞、痛風などで増加する 。また、喫煙や副腎皮質ホルモン剤の投与でも増加することが知られている 。
リンパ球は主としてウイルス感染に対する免疫応答や腫瘍免疫において重要な役割を担っている。ウイルス感染症、甲状腺機能亢進症、副腎の病気で増加し、悪性リンパ腫、がん、白血病等で減少を示すことが報告されている 。
参考)https://www.ja-iwatekouseiren.or.jp/plan_list/after/about_result/massyoketsu/
好中球とリンパ球の比率(N/L ratio: NLR)は、近年がんの予後予測因子として注目されている。NLRが高い場合、好中球が増加しリンパ球が減少していることを示し、炎症状態や免疫機能の低下が示唆される 。
参考)https://precisionclinic.jp/dictionary/nlr/
末梢血白血球分画の検査方法と技術的考慮点
末梢血液像検査は、自動血球計数器による機械法と、血液塗抹標本を用いた鏡検法の2つの方法で実施される。自動血球計数器では、白血球を5分類(好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球)以上の同定・比率計算を行う 。
参考)https://test-directory.srl.info/akiruno/test/detail/00A630100
正常であれば自動分析装置でも判定可能であるが、血球形態異常、異常細胞などの出現により機械で判断できない分類については血液塗抹標本を作製し、臨床検査技師により顕微鏡での目視判定を行う必要がある 。
血液標本の作製には新鮮血を用いることが重要であり、検体の保存や搬送条件が検査結果に影響を与えることが知られている 。凝固した検体では正確な結果が得られないため、必要に応じて再採血を依頼することもある 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/88e3c3568795a40efc18ec7ad256dc1d2db34ec7
末梢血白血球の割合異常と疾患との関連性
各白血球分画の異常値は、特定の疾患や病態を示唆する重要な手がかりとなる。好中球数増加は細菌感染症、外傷、悪性腫瘍、副腎皮質ホルモン投与、血液疾患で認められ、好中球数減少は感染症、全身性エリテマトーデス、血液疾患で認められる 。
好酸球増加はアレルギー性疾患、寄生虫・原虫疾患、血液疾患で認められ、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、薬物アレルギーなどで特徴的に増加する 。好塩基球増加は血液疾患、特に慢性骨髄性白血病で認められることが多い 。
単球数増加は感染症、膠原病、血液疾患で認められ、特に結核、梅毒、はしかなどの慢性感染症で増加する傾向がある 。リンパ球数増加は感染症、血液疾患で認められ、リンパ球数減少は副腎皮質ホルモン投与、悪性リンパ腫、免疫不全症で認められる 。
白血球分画の評価においては、発熱や体調不良時には正常時と異なるパターンを示すことが多いため、臨床症状と併せた総合的な判断が不可欠である 。また、幼若細胞(後骨髄球、骨髄球)の出現は、感染症による好中球の急増や白血病などの血液疾患を示唆する重要な所見となる 。
参考)https://east-hem.clinic/%E7%99%BD%E8%A1%80%E7%90%83%E5%88%86%E7%94%BB%E3%81%AE%E7%95%B0%E5%B8%B8