薬剤性過敏症症候群におけるステロイド治療の選択と管理
薬剤性過敏症症候群におけるステロイド治療の基本原則
薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS)の治療において、ステロイド薬は最も重要な治療選択肢の一つです 。治療の第一段階として原因薬剤の即時中止が必須であり、続いてステロイドによる免疫抑制療法が検討されます 。
参考)https://oogaki.or.jp/hifuka/erythema-drug-ras-erythroderma/drug-induced-hypersensitivity-syndrome/
プレドニゾロン換算で0.5-1.0mg/kg/日が初期投与量として推奨されており、症状の重症度に応じて調整が行われます 。治療期間は原則として1-2週間の維持後、2-3か月かけて徐々に減量していくのが一般的です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/5/109_951/_pdf
重要な点として、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500-1000mg/日、3日間)については原則として推奨されていません 。これは、CMV再活性化や症状の遷延化、致死率の増加との関連が報告されているためです 。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/DIHS2023.pdf
薬剤性過敏症症候群の重症度判定とステロイド適応基準
ステロイド治療の適応を決定するためには、薬剤性過敏症症候群重症度判定スコア(DIHS/DRESS severity score)が活用されます 。このスコアリングシステムでは、年齢、皮膚症状の程度、発症後の原因薬剤服用期間、発熱の期間、食欲の有無、検査値異常(クレアチニン、ALT、CRP)などを総合的に評価します 。
参考)https://knowledge.nurse-senka.jp/501162
軽症例では必ずしもステロイドの全身投与を要さない場合もありますが、中等症以上では中等量から高用量のステロイド全身投与が考慮されます 。初診から3日以内と2-4週後の2回評価を行い、重症度に応じた治療対応を決定します 。
参考)https://takeikouhan.jp/inspection-practice-guideline.html
症例の層別化は治療戦略を立てる上で重要であり、重症度に応じた適切な治療強度の選択が患者予後に直結します 。
薬剤性過敏症症候群におけるステロイド治療中のウイルス再活性化対策
薬剤性過敏症症候群の特徴的な病態として、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルスの再活性化があります 。ステロイド治療はこれらのウイルス再活性化に複雑な影響を与えることが知られています 。
研究によると、早期に高用量のステロイドで治療を開始するとHHV-6の再活性化が抑制される一方で、ステロイド投与時期に関わらずサイトメガロウイルスの再活性化は増加することが明らかになっています 。このため、ステロイド治療中は定期的なウイルスDNA検査による監視が重要です 。
ウイルス再活性化による症状再燃は、主に発症2-4週後に認められ、発熱と肝障害の再燃として現れることが多いです 。治療としては免疫グロブリンや抗ウイルス薬(ガンシクロビルなど)が使用されます 。
参考)https://jsv.umin.jp/journal/v59-1pdf/virus59-1_23-30.pdf
薬剤性過敏症症候群のステロイド治療における感染症合併症の予防
ステロイド治療に伴う最も重要な合併症の一つが感染症です 。DIHSのステロイド治療中にみられる感染症は、発症1か月前後のステロイド減量中に特に認められる傾向があります 。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202011067A-buntan10.pdf
感染症リスクを最小限に抑えるための対策として以下が重要です。
- ステロイド投与量の慎重な調整
- 定期的な血液検査による感染症マーカーの監視
- 患者の免疫状態の評価
- 早期の感染症診断と治療介入
🔸 治療開始3か月までに多彩なウイルス感染症が発症する可能性があります
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2012/123151/201231003A/201231003A0002.pdf
🔸 制御性T細胞の増加により抗ウイルス免疫が抑制されることが、感染症リスクを高める要因となります
薬剤性過敏症症候群における自己免疫疾患合併とステロイド治療の長期的影響
薬剤性過敏症症候群の回復期において、自己免疫疾患の発症が重要な合併症として知られています 。研究によると、DIHS後に自己免疫疾患を合併した症例のすべてでHHV-6の持続感染が確認されており、ウイルス持続感染と自己免疫疾患発症との関連性が示唆されています 。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K08306/
自己免疫疾患として報告されているものには以下があります。
HHV-6がCD4中心記憶T細胞に持続感染し、この細胞において特定のウイルス関連遺伝子が発現されることで、自己免疫疾患の発症に関与している可能性が研究で明らかになっています 。
💡 発症から数年後に自己免疫疾患が出現する可能性があるため、長期的な経過観察が不可欠です
参考)https://www.yokohama-cu.ac.jp/fukuhp/section/depts/skin/severe_drug_eruption.html
💡 急性期の単球系細胞機能低下がその後のウイルス持続感染に関与していることが示唆されています