ネオマイシンの効果と副作用について

ネオマイシンの効果

ネオマイシンの主要効果と特性
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広範囲抗菌作用

グラム陽性菌・グラム陰性菌の両方に強力な殺菌効果

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タンパク質合成阻害

30Sリボソームへの結合による細菌増殖抑制

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抗ウイルス効果

鼻腔内塗布によるウイルス感染予防の可能性

ネオマイシンの抗菌スペクトルと殺菌機構

ネオマイシンは1948年にセルマン・ワクスマンによって発見されたアミノグリコシド系抗生物質で、分子量614.65の化合物です 。このアミノグリコシド系薬剤は、細菌の30Sリボソームに結合することによって細菌のタンパク質合成を阻害し、濃度依存的な殺菌作用を示します 。

参考)ネオマイシン – Wikipedia

ネオマイシンの作用機序はカナマイシンと類似しており、30Sリボソームの16S rRNAに結合してポリペプチド鎖合成の開始反応を阻害することで、比較的広範な抗菌スペクトルを有しています 。この薬剤はグラム陰性菌グラム陽性菌ともに強く阻害する効果を持っており、殺菌的に作用します 。

参考)https://www.nite.go.jp/mifup/note/view/91

さらに、ネオマイシンはβラクタム系抗生物質との併用により相乗効果を発揮することが知られており、複合的な感染症治療において重要な役割を果たします 。

参考)https://yakugaku.matsuyama-u.ac.jp/laboratory/kansensyo/saito/jiang_yi_files/antibio2.pdf

ネオマイシンの新たな抗ウイルス効果

最近の研究により、ネオマイシンには従来の抗菌作用とは異なる、画期的な抗ウイルス効果があることが判明しました 。2024年に米イェール大学医学部の岩崎明子氏らが発表した研究によると、抗菌薬のネオマイシンを鼻腔内に塗布することで、呼吸器系に侵入したウイルスを撃退できる可能性があることが示されました 。

参考)外用抗菌薬の鼻腔内塗布でウイルス感染を防御?|医師向け医療ニ…

マウスを用いた実験では、ネオマイシンの鼻腔内投与により鼻粘膜上皮細胞でIFN誘導遺伝子(ISG)の発現が促進され、この効果は投与後1日目から確認されるほど迅速でした 。さらに、マウスを新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスに曝露させた実験では、感染に対して有意な保護効果を示すことが確認されています 。

参考)抗菌薬ネオマイシンを鼻の中に塗布すると呼吸器系に侵入したウイ…

ゴールデンハムスターを用いた実験では、ネオマイシンの鼻腔内投与が接触による新型コロナウイルスの伝播を強力に抑制することも示されており、この発見は安価で広く知られている抗菌薬を最適化することで、ウイルス性疾患の発生や蔓延を予防できる可能性を示唆しています 。

参考)抗菌薬の軟膏がコロナやインフルの予防・治療に有効か

ネオマイシンの臨床応用と適応症

ネオマイシンは、その強い急性毒性および腎毒性のため、主に経口剤または外用剤として使用されています 。国内では、ネオマイシン硫酸塩を主成分とした動物用医薬品が、牛、豚および鶏の細菌性下痢症、さらに牛の乳房炎を適応症として承認されています 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000481855.pdf

外用薬としては皮膚の化膿性疾患に使用され、フラジオマイシン(ネオマイシン)にシトラシン軟膏として、他の極抗菌性物質軟膏と比較して良好な成績を示しています 。また、海外ではネオマイシンは豚の治療にも単独使用または他の抗菌剤(リンコマイシン、ペニシリン、セファロスポリン、サルファ剤)と併用されています 。

参考)皮膚科領域に於けるフラジオマイシン(ネオマイシン)・バシトラ…

分子生物学の研究分野では、ネオマイシン耐性遺伝子が選択マーカーとして形質細胞の分離に利用されており、研究ツールとしても重要な役割を担っています 。

参考)1405-10-3・ネオマイシン硫酸塩・Neomycin S…

ネオマイシンの薬物動態と組織分布

ネオマイシンの吸収には動物の年齢が大きく影響することが研究により明らかになっています 。子牛を用いた実験では、3日齢の若い子牛における尿中排泄率(11.1%)が54~64日齢の非反芻子牛(1.5%)よりも高く、若い個体において吸収率が顕著に高いことが示されました 。

参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=cho20120030001amp;fileId=026

組織分布においては、腎臓に高濃度で蓄積する特徴があり、投与24時間後においても高濃度を維持し、組織からの消失半減期は約23時間となっています 。肝臓、筋肉、肺からの消失も緩やかであり、特に3日齢の子牛の腎臓で最高値を示すことから、年齢による薬物動態の差が臨床上重要な意味を持ちます 。

参考)https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka.data/pc_hisiryou_neomycin_300124.pdf

また、投与方法による吸収の違いも確認されており、哺乳瓶を用いた液体投与の場合、非反芻子牛(1.5%)と反芻子牛(2.13%)でほぼ同様の吸収率を示す一方、反芻子牛では、ゼラチンカプセルを用いた混餌投与(0.5%)の方が液体投与(2.13%)よりも吸収が少ないことが判明しています 。

ネオマイシンの重篤な副作用と安全性

ネオマイシンには重篤な副作用として、強い急性毒性および腎毒性が認められており、これがその使用を制限する主要な要因となっています 。動物実験の結果では、腎毒性の強さはネオマイシン>ゲンタマイシン>シソマイシン、アミカシン、カナマイシン>トブラマイシンアルベカシン、ジベカシンの順であることが報告されています 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0322-10k_06.pdf

アミノグリコシド系抗生物質による腎障害では、急性尿細管壊死が主要な病態であり、ネオマイシンもこの機序による腎毒性を示します 。一般的なアミノグリコシド系薬剤の腎症の危険因子として、他の腎毒性薬剤との併用、高用量使用(4g/日以上)、トラフ値高値(20ng/mL以上)、ICU患者、治療期間1週間以上などが挙げられています 。

参考)https://jsn.or.jp/journal/document/58_7/1069-1072.pdf

また、ネオマイシンには非可逆性の難聴があらわれることがあり、使用中は特に聴力の変動に注意し、長期連用を避けることが重要とされています 。眼科用剤として使用する場合には、眼内圧亢進、緑内障があらわれることがあるため、定期的な眼内圧検査の実施が必要です 。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00002269.pdf

さらに、使用中に感作されるおそれがあるため、観察を十分に行い、感作されたことを示す兆候があらわれた場合には使用を中止する必要があります 。