中毒性表皮壊死症とスティーブンス・ジョンソン症候群の違い
中毒性表皮壊死症の症状と病理組織学的特徴
中毒性表皮壊死症(TEN:Toxic Epidermal Necrolysis)は、38℃以上の高熱と全身倦怠感を伴い、口唇・口腔、眼、外陰部などを含む全身に紅斑、びらんが広範囲に出現する重篤な疾患である。体表面積の10%以上にわたって皮膚のびらんや表皮剥離が認められるのが最大の特徴である。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4036
病理組織学的には、表皮の全層性壊死を呈し、軽度の病変でも200倍視野で10個以上の表皮細胞死を確認する顕著な表皮の壊死性変化が認められる。TENでは初期に体躯の赤紫色で黒ずんだ平坦な斑が出現し、そこから拡大して大きな水疱を形成する。病変部の皮膚は壊死し始め、弛んで大きく剥離するのが特徴的な所見である。
一見正常にみえる皮膚に軽度の圧力をかけると表皮が剝離し、びらんを生じるニコルスキー現象も重要な診断所見の一つである。TENを発症するほぼ全ての人で、口腔、眼、外陰部にも症状が現れ、有痛性の痂皮とびらんが粘膜表面に形成される。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089941.pdf
スティーブンス・ジョンソン症候群の診断基準
スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS:Stevens-Johnson Syndrome)は、皮膚粘膜移行部の重篤で広範囲な粘膜病変(出血・痂疲を伴うびらん等)がみられる疾患である。皮膚の汎発性の紅斑に伴って表皮の壊死性障害に基づくびらん・水疱を認め、その面積は体表面積の10%未満である。
参考)https://www.shouman.jp/disease/instructions/14_10_015/
診断基準では、①皮膚粘膜移行部の重篤で広範囲な粘膜病変、②皮膚の汎発性紅斑と表皮の壊死性障害(体表面積の10%未満)、③発熱、④病理組織学的な表皮の壊死性変化、⑤重症型多形紅斑の除外、という5項目すべてを満たす場合にSJSと診断する。
SJSの初期症状は、発熱と左右対称的に関節背面を中心に紅斑が出現することが多い。スティーヴンス・ジョンソン症候群では狭い範囲で皮膚の剥離がみられ(体表面積の10%未満)、中毒性表皮壊死症では広い範囲で皮膚の剥離がみられる(体表面積の10%以上)という明確な違いがある。
中毒性表皮壊死症の重症度分類と予後
TENの死亡率は約30%と非常に高く、SJSの約4%と比較して予後不良である。死亡例の多くは敗血症を合併して死亡しており、感染症管理の重要性が浮き彫りとなっている。
参考)https://www.niigata-u.ac.jp/news/2021/90422/
重症度分類では、粘膜疹、皮膚の水疱・びらん、38℃以上の発熱、呼吸器障害、表皮の全層性壊死性変化、肝機能障害の有無を評価し、合計点が2点未満を「軽症」、2点以上6点未満を「中等症」、6点以上を「重症」と評価する。
参考)https://knowledge.nurse-senka.jp/500738
ただし、角膜・結膜の上皮欠損あるいは偽膜形成が高度なもの、SJSやTENに起因する呼吸障害がみられるもの、びまん性紅斑進展型と考えられるものは、スコアによらず重症に分類される。TENは死亡率約30%と予後不良で、20~40%の死亡率にも昇るとの報告もある。
中毒性表皮壊死症の発症メカニズムと薬剤関連要因
中毒性表皮壊死症とスティーブンス・ジョンソン症候群の発症メカニズムは、HLAなどの遺伝的背景を有するヒトにおいて、活性化されたリンパ球から産生される因子が表皮を傷害することにより生じると考えられている。表皮の傷害に関与する因子として、FasL、グラニュライシンなどの関与が考えられている。
薬剤が原因となることが最も多く、消炎鎮痛薬、抗菌薬、抗けいれん薬、高尿酸血症治療薬などの薬剤が発症に関与することが多い。原因薬剤が抗原提示細胞のHLA上に提示され、T細胞受容体に結合することでT細胞が活性化し免疫反応を引き起こす。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4037
細胞傷害性T細胞とナチュラルキラー細胞から放出されるグラニュライシンが角化細胞の細胞死に重要な役割を果たし、水疱内の液体のグラニュライシン濃度が重症度と相関することが示されている。また、Fasとそのリガンドとの相互作用により細胞死および水疱形成が起きるとする仮説もある。
中毒性表皮壊死症の治療法と後遺症予防
TENの治療では、原因薬剤の中止が最優先であり、その後ステロイドパルス療法(ソル・メドロール1000mg/日を3日間点滴)を行い、その後ステロイドの点滴または内服を継続し、数週間かけて漸減する。重篤な症例では免疫グロブリン大量療法や血漿交換療法が併用される。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/58/5/58_KJ00005648268/_pdf
眼所見が重篤な場合には、皮膚所見の重症度にかかわらず、眼後遺症回避のために迅速なステロイドパルス療法が推奨される。眼障害とは重症度分類における眼病変スコア2以上を指し、治療が遅れると視力の低下や失明などの後遺症が残る可能性がある。
参考)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20240130_GL058.pdf
急性期の治療を乗り越えた後も、ドライアイや視力障害などの慢性的な障害を残す可能性があり、皮膚の発疹やびらんが消え、からだが回復したあとに、視力障害とドライアイが主な後遺症となる。眼の合併症はTEN患者の20~79%に残り、急性期に眼の症状が無かった場合にも現れ得る。
参考)http://eye.sjs-ten.jp/aftereffect
難病情報センターの中毒性表皮壊死症の詳細な診断基準と症状説明
MSDマニュアルのSJS/TENの包括的な医学情報と症状詳細
日本小児科学会のSJS/TEN診療ガイドライン