エンドトキシンとグラム陰性菌の医学的意義

エンドトキシンとグラム陰性菌の関連性

エンドトキシンの基本情報
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構造と成分

リポ多糖(LPS)として知られ、O抗原、コア多糖、リピドAから構成

生物活性

微量でも発熱や炎症反応を引き起こす強力な病原因子

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耐熱性

250℃30分以上の乾熱滅菌が必要な高い安定性

エンドトキシンの化学構造と分子特性

エンドトキシンは、グラム陰性菌の外膜を構成するリポ多糖(LPS:Lipopolysaccharide)として知られています 。この分子は3つの主要な構造要素から構成されており、外界に向けて突出したO抗原多糖、それに続くコア多糖、そして生物活性の中心となるリピドAという脂質部分で形成されています 。

参考)https://www.lalbiz.com/endo/about/index.html

リピドA部分の分子量は約2,000ですが、エンドトキシン全体では通常5,000~8,000程度となります 。興味深いことに、エンドトキシンは親水性部分(糖鎖)と疎水性部分(リピドA)を持つ両親媒性分子であるため、水溶液中では会合してミセル構造を形成し、見かけの分子量が数十万~数百万に達することがあります 。

参考)https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/lal/lal_knowledge/about_lal.html

O抗原部分は細菌種によって構造が最も大きく変化する領域で、これにより各菌種が特異的な免疫反応を引き起こします 。一方、リピドA部分は菌株が異なっても共通している部分が多く、エンドトキシンの炎症誘発活性の本体として機能します 。

参考)https://medical-use-plastic-molding.com/part_knowledge/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F/

グラム陰性菌における病原性因子の役割

グラム陰性菌は、その独特な細胞壁構造により、多様な病原性因子を保有しています 。細胞壁は細胞質膜の外側にある分厚く堅い層で、比較的薄いペプチドグリカン層の外側に、タンパク質、リン脂質、リポ多糖体から成る複雑な外膜が重なっています 。

参考)http://www.yamazakidc.net/076/guide.html

この外膜の存在により、グラム陰性菌はリゾチームやペニシリンに対する抵抗性を有します 。さらに、グラム陰性菌は付着因子、毒素、カプセル、線毛、排出ポンプなど、様々な病原性因子を持っています 。付着因子は細菌が宿主組織に付着することを可能にし、毒素は宿主細胞の機能を妨害します 。

参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E9%99%B0%E6%80%A7%E8%8F%8C

グラム陰性菌は水生環境に多く存在し、環境中に広く分布しています 。これらの細菌が死滅や破壊によりエンドトキシンを放出すると、体内に侵入して強力な炎症反応を引き起こします 。

参考)https://www.gmp-platform.com/article_detail.html?id=20112

エンドトキシンによる敗血症と臓器障害

エンドトキシンが体内に侵入すると、マクロファージや樹状細胞のTLR4(Toll-like receptor 4)に結合し、NF-κB経路を活性化して各種サイトカインの産生を引き起こします 。この過程で産生されるサイトカインによって、様々な生物活性が発現します 。
適切にコントロールされた場合、エンドトキシンは適度な発熱、免疫系全体の活性化、殺菌作用など有益な作用をもたらします 。しかし、メディエーターが過剰に産出されると、敗血症性ショック、多臓器不全、血球貪食症候群などの重篤な病態を引き起こします 。

参考)https://diagnostic-wako.fujifilm.com/product/kansensyo/et.html

エンドトキシンはDIC(播種性血管内凝固症候群)、SIRS(全身性炎症反応症候群)、敗血症性ショックの主要な原因物質の一つと考えられています 。血中エンドトキシン高値は敗血症において臓器不全や死亡率と強い相関を示すため、早期検出が極めて重要です 。

参考)https://www.blood-purification.toray/medical-personnel/sepsis/endotoxin.html

エンドトキシン検査法とLAL試験の原理

エンドトキシンの検出には、カブトガニ血球抽出物(LAL:Limulus Amebocyte Lysate)を用いた試験法が広く使用されています 。LAL試験には主に3つの方法があります:ゲル化法、比濁法、比色法です 。

参考)https://www.lonzabio.jp/products/endotoxin/outline/turbidimetric.html

カイネティック比濁法では、LAL試薬とサンプルを96ウェルプレート内で混合し、340nmで吸光度を測定します 。エンドトキシン存在下ではライセートがゲル化し始めるため、溶液が濁るようになり、変化に必要な時間はエンドトキシン量に反比例します 。
比色法LAL試験は最も短時間で実施できる検査で、405~410nmで測光します 。エンドトキシン存在下ではライセートが発色基質を切断し始めるため、溶液が黄色になります 。この方法は、比濁法試験やゲル化試験の凝固メカニズムに干渉する恐れのある阻害性製品による影響が少ないという利点があります 。

参考)https://www.lonzabio.jp/products/endotoxin/outline/colorimetric.html

近年では、高輝度ルシフェラーゼを利用したより迅速で高感度な測定技術も開発されており、透析液清浄度評価などの分野で活用されています 。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e19371dcf603be7048d2a85bbf75157bf2b41107

エンドトキシン除去技術と清浄化戦略

エンドトキシンの除去は極めて困難で、通常のオートクレーブ処理では完全に失活できません 。完全な失活には250℃以上で30分以上の乾熱滅菌が必要です 。

参考)https://medical-use-plastic-molding.com/qa/4973/

臨床現場では、主に以下の除去方法が用いられています。

蒸留法 🌡️

古くから注射用水の製造法として使用され、蒸留後の微生物汚染管理ができれば、工業スケールでの実用的な脱エンドトキシン方法です 。

参考)https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/siyaku-blog/010980.html

膜ろ過法 🔬

エンドトキシンは水中で通常見かけの分子量1~100万程度のミセルを形成するため、分画分子量1~2万以下の限外ろ過や逆浸透(RO)膜によるろ過で除去可能です 。

参考)https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/lal/lal_knowledge/letter_of_Endotoxin/No4.pdf

選択吸着法 ⚗️

LPS分子は負電荷を帯び、リピドA部分は疎水性であるため、これらの性質を利用した除去方法が開発されています 。正荷電ナイロン膜を用いたシリンジフィルターや、活性炭、ポリミキシンB、ヒスチジンなどの吸着物質が利用されます 。

参考)https://patents.google.com/patent/JP2015062348A/ja

血液浄化療法において、ポリミキシンB血液灌流(PMX-HP)がエンドトキシン除去を目的として用いられることがあります 。EUPHAS試験では平均血圧の上昇が報告されましたが、死亡に対する有意差は示されていません 。

参考)https://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_37.html

敗血症におけるエンドトキシンの役割と血液浄化療法の詳細
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