フラジオ運指とテナーサックス演奏法の基礎
テナーサックスフラジオの基本概念と理論
フラジオ奏法は、基音よりも高く鳴っている倍音を強調して演奏する技術です 。テナーサックスでは、通常音域のソ(実音F)から始まるフラジオ音域において、特殊な運指と奏法技術が必要となります 。
参考)https://burgess-sax.com/flageolet3/
この技法の核心は、息の量を制限し、口の中の容積を狭くすることで、細い息を適切な角度でマウスピースに送ることです 。さらに重要なのは、「KU(ク)」という発音に近い舌の位置を保持することで、フラジオが当たる特定のツボに息を集中させることです 。
参考)https://kanngakki.jp/saxophone_flageolet/
フラジオ運指は楽器の個体差や演奏者のセッティングによって微妙に変化するため、複数の運指パターンを習得することが推奨されます 。プロ奏者でも、奏者ごとに使用する運指が微妙に異なるのが一般的です 。
テナーサックスフラジオ運指の実践的パターン
テナーサックスのフラジオ運指では、まず基本的な音から習得することが重要です。ソ(実音F)の音は比較的当てにくいため、他の音で感覚を掴んでから挑戦することが推奨されます 。
ソ(G・実音F)の運指
- オクターブ・1・Ta・C5(最も当てやすく、使用頻度が高い)
- オクターブ・フロントF・Ta(フロントキーを使わない場合のみ使用)
ソ♯(G♯・実音F♯)の運指
- オクターブ・2・3・4・Ta(最も当てやすく、多用される)
- オクターブ・2・3・6(サイドキーがないため使いやすい)
- オクターブ・1・3・4・Tc・Ta(接続に優れる)
ラ(A・実音G)の運指
- オクターブ・2・3・Tc(最も使用頻度が高い)
- オクターブ・2・3・4・5(基本的な運指パターン)
- オクターブ・3・4・Ta(G♯-1との接続が良い)
これらの運指は、丸印(〇 or ●)で1~6番キーの状態を示し、〇が塞がない、●が塞いだ状態を表します 。
フラジオ運指の音楽的連結と実践応用
実際の演奏では、単独の音ではなく音の連結を考慮した運指選択が重要です 。フラジオ運指は独特の指使いが多く、適切な運指を使わないと音楽が不自然に途切れる可能性があります 。
半音階の運指パターン
フロントキーを使用するパターンは指回しが簡単ですが、音が裏返りやすい特徴があります。一方、フロントキーを使わない運指は音が当てやすいものの、指回しが複雑になります 。
調性別の運指戦略
- ハ長調(C-dur・実音E♭-dur):ファの運指を替え指で取る場合は、通常より多めに息を入れることが重要です
- ト長調(G-dur・実音B♭-dur):ソ→ラの移行が技術的に困難で、キーを押すタイミングと離すタイミングの同期が必要です
- イ長調(A-dur・実音C-dur):基本的にフロントキーパターンが最適で、指回しと音の当てやすさのバランスが良好です
これらの連結技術は、楽曲の調性や前後の音符関係を考慮して、最適な運指パターンを選択することで習得できます 。
テナーサックスフラジオの効果的練習方法
フラジオの習得には、オーバートーン練習が最も効果的とされています 。最低音のシ♭の運指のままで倍音を出す練習から始め、真ん中のシ♭→真ん中のファ→高音シ♭→パームキーのレ→パームキーのファの順序で倍音をコントロールする能力を養います 。
基本練習ステップ
- 通常音域のミ・ファ・ファ♯でフラジオ奏法の感覚を習得
- 音域がイメージしやすいため、フラジオ奏法の基礎固めに最適
- ソ♯→ラの音程進行で指使いの連結を練習
- 半音階や各調の音階で実践的な運指変換を習得
演奏技術のポイント
- 息の量を少なくし、細い息を維持する
- 息の方向を上向きに調整し、第2オクターブキーからリガチャーのネジ付近のツボに当てる
- 口の中を狭くし、舌を上顎に近づける「KU(ク)」の発音状態を保持
これらの技術的要素を段階的に習得することで、安定したフラジオ演奏が可能になります 。
フラジオ運指習得における楽器選択と個別対応
フラジオ運指は使用楽器の個体差や演奏者のセッティングによって微妙に変化するため、個人に適した運指の探求が不可欠です 。借り物の楽器では楽器が変わったときに習得したフラジオが出なくなる可能性があるため、専用楽器での継続的な研究が推奨されます 。
楽器による運指の違い
セルマー Serie Ⅱなどの定評ある楽器でも、個体差により最適な運指が異なります 。使用マウスピース(Selmer S90 180等)、リガチャー(BG Tradition等)、リード(Legere Signature 3等)の組み合わせも運指の効果に影響を与えます 。
学習教材の活用
フラジオ学習には専門的な教本の使用が効果的で、ソプラノからバリトンまでの運指が1つの音に対して多数掲載され、簡単な内容から徐々に学べる構成の教材が推奨されます 。オーバートーンも併せて練習できる教本を選択することで、総合的な技術向上が期待できます 。
技術向上のバランス
フラジオなどの特殊奏法は、柔軟な基本奏法があると習得が速くなります 。アンブシュアや息づかいなどの基本奏法をしっかり身に付けることが、結果的にフラジオ習得の近道となります 。基礎練習をしっかり行った上で、少しずつフラジオなどの特殊奏法にトライするバランスが重要です 。