転移酵素一覧と分類
転移酵素の基本概念と定義
転移酵素(トランスフェラーゼ)は、EC第2群に分類される酵素で、一方の基質から他方の基質へと原子団(転移基)を移動させる反応を触媒します。これらの酵素は、生体内でアミノ酸の合成、糖鎖の構築、エネルギー代謝の調節など、多様な生理機能に関与しています。
転移酵素の反応は一般的に「AX + B → A + BX」の形で表され、化合物AXから化合物Bへと官能基Xが転移します。この反応により、生体内での物質変換が効率的に行われ、代謝経路が円滑に進行します。
参考)https://www10.showa-u.ac.jp/~biolchem/H21enzyme-print.pdf
医療現場では、転移酵素の血中濃度が疾患の診断や病態評価の重要な指標として活用されており、特に肝機能や心機能の評価において欠かせない検査項目となっています。
参考)「AST、ALT」の検査について[ラボ NO.416(201…
転移酵素のアミノ基転移機能
アミノ基転移酵素(トランスアミナーゼ)は、アミノ酸とα-ケト酸間でアミノ基を転移させる酵素群です。代表的なものとして、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)があり、これらはピリドキサールリン酸(PALP)を補酵素として利用します。
参考)https://www.tokyo-med.ac.jp/clinlab/pdf/chemi1.pdf
ASTは肝細胞のほか心筋、骨格筋、赤血球にも存在するため、肝疾患以外にも心筋梗塞や筋炎の診断にも活用されます。一方、ALTは主に肝臓に豊富に存在し、肝細胞障害のより特異的な指標とされています。
これらの酵素は、肝臓が障害を受けると細胞から血液中に漏出し、血中濃度が上昇するため、肝機能評価の重要なバイオマーカーとして広く臨床応用されています。
参考)AST(GOT)/ALT(GPT)|健康診断ガイド|大正健康…
転移酵素の糖転移機能と生合成
糖転移酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)は、糖鎖の生合成を担う酵素群で、動物では約200種類が知られています。これらの酵素は主に小胞体とゴルジ体に局在し、糖ヌクレオチドを供与体として特定の受容体分子に糖残基を転移させます。
参考)Glycoword
糖転移酵素は、N型糖鎖、O型糖鎖、グリコサミノグリカン、糖脂質、GPIアンカーなど5つの主要な糖鎖クラスの合成に関与し、各クラス固有の酵素と共通の構造を作る酵素が存在します。これらの酵素の発現パターンや活性制御により、細胞や組織特異的な糖鎖パターンが形成されます。
参考)Journal of Japanese Biochemica…
興味深いことに、糖転移酵素は単独では活性が低くても、他の酵素と複合体を形成することで活性が大幅に向上する例が多数報告されており、糖鎖合成の効率性と特異性を高める重要な制御機構となっています。
転移酵素のアシル基転移とコエンザイム
アシル基転移酵素(アシルトランスフェラーゼ)は、アシル基(R-CO-)を他の分子に転移させる酵素群で、脂質代謝や蛋白質修飾において重要な役割を果たします。これらの酵素の多くは補酵素A(コエンザイムA)をアシル基のキャリアとして利用します。
参考)転移酵素(テンイコウソ)とは? 意味や使い方 – コトバンク
補酵素Aは、パントテン酸とアデノシン二リン酸、システアミンから構成される重要な補酵素で、末端のチオール基にアシル基がチオエステル結合することで高エネルギー状態となります。この結合は通常のエステル結合よりも加水分解されやすく、アシル基の転移反応が効率的に進行します。
代表的な例として、コレステロールアシルトランスフェラーゼやコリンアセチルトランスフェラーゼなどがあり、これらは脂質代謝や神経伝達物質の合成において中心的な役割を担っています。
転移酵素の臨床診断への応用と意外性
転移酵素は疾患診断において極めて重要な役割を果たしており、特に血液検査で測定される酵素活性は病態の早期発見や重症度評価に活用されています。ASTとALTの比率(AST/ALT比)は、肝疾患の鑑別診断に有用で、比率が1以上の場合は肝硬変やアルコール性肝障害、1未満の場合は脂肪肝が疑われます。
参考)https://www10.showa-u.ac.jp/~biolchem/H20-P2protein-5.pdf
興味深い事実として、転移酵素の中には組織特異性が高いものがあり、血液型を決定するABO血液型関連糖転移酵素のように、個体差や遺伝的多型が診断に影響を与える場合があります。また、ヒストンメチル基転移酵素のように、エピジェネティック制御に関わる転移酵素も注目されており、がんや神経変性疾患の新たな治療標的として研究が進められています。
さらに、転移酵素の測定には初速度測定が重要で、補酵素NADHの紫外吸収変化を利用した測定法が広く採用されており、これにより正確で迅速な診断が可能となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/12/66_584/_pdf