薬剤耐性菌の種類と分類
薬剤耐性菌の主要グラム陽性菌種類
薬剤耐性菌のグラム陽性菌種類として最も重要なのは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)です 💧。MRSAは黄色ブドウ球菌が薬剤耐性化したもので、メチシリン耐性という名前がついていますが、実際には多種多様の抗菌薬に耐性を持っています 。院内感染の原因菌として1970年代から問題となっていましたが、現在は市中にも広がっています 。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)も重要な種類の一つです 。VREはバンコマイシン耐性遺伝子の型によりVanA、VanB、VanC型などに分類されます 。このうちVanAおよびVanB型はバンコマイシンに高度耐性を獲得しており、耐性遺伝子がプラスミド上にあることから水平伝播が起こりやすい特徴があります 。一方、VanC型は自然耐性で臨床上の重要性は低いとされています 。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)は肺炎や髄膜炎の原因となる肺炎球菌の耐性種類です 。PRSPは使用頻度の高いベータラクタム系抗菌薬に耐性を持つ肺炎球菌で、その発生は抗菌薬の使用と密接に関わっています 。近年では、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)も報告されており、2002年頃から確認されている新たな耐性菌種類です 。
参考)多剤耐性菌への対応
薬剤耐性菌の主要グラム陰性菌種類
基質拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)産生菌は、グラム陰性菌の重要な種類の一つです 。ESBLは細菌の名前ではなく抗菌薬を分解する酵素の名前で、この酵素を産生する菌をESBL産生菌と呼びます 。主に大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌科に属する菌に多く見られ、尿路感染症などの原因となります 。
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)は、カルバペネム系抗菌薬の最終兵器が効かない「悪夢の耐性菌」として恐れられている種類です 。CREの耐性機序は、カルバペネム系抗菌薬分解酵素である各種カルバペネマーゼの産生、AmpC・ESBLの過剰産生、膜透過性の低下などがあります 。CREの中でもカルバペネマーゼという酵素を持つ細菌は、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)と呼ばれます 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000189816.pdf
多剤耐性緑膿菌(MDRP)は、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の3剤全てに耐性を持つ緑膿菌の種類です 。緑膿菌は病原性の弱い菌で健康な人には滅多に感染しませんが、免疫力が弱くなった人々に感染し、肺炎や尿路感染症、菌血症などを引き起こします 。また、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)は、アミノグリコシド系、カルバペネム系、フルオロキノロン系の3系統の薬剤に対して耐性を示すものと定義されています 。
参考)https://products.kanto.co.jp/web/index.cgi?c=t_product_tableamp;pk=317
薬剤耐性菌の耐性メカニズム別種類
薬剤耐性菌は耐性メカニズムによっても種類分けできます。最も一般的なのは、菌による抗菌薬を不活性化する酵素の産生で、β-ラクタマーゼによるβ-ラクタム系薬の分解が代表的です 。β-ラクタマーゼには複数の種類があり、クラスA~Dの4種類に分類されています 。このうちクラスAに属する酵素はペニシリン系抗菌薬を、クラスCに属するものはセファロスポリン系抗菌薬を主に分解します 。
参考)https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno8_pdf09.pdf
抗菌薬が作用する部位の変化による耐性も重要な分類です 。肺炎球菌では、6種類のペニシリン結合タンパク質(PBP)のうち、PBP1A、PBP2X、PBP2Bの3種類が耐性に関わる主なPBPとして機能しています 。これらのPBPのアミノ酸置換により薬剤耐性が発現します 。
参考)耐性菌とは
抗菌薬の作用する部位への到達の阻害や、細菌内に入った抗菌薬の排出増加も耐性メカニズムとして知られています 。グラム陰性桿菌にみられる外膜の透過性の変化や、抗菌薬の排出に関わるタンパクの産生増加などがこれにあたります 。これらのメカニズムは単独で発現することもあれば、複数のメカニズムが組み合わさって高度な薬剤耐性を示すこともあります。
薬剤耐性菌の臨床的重要度による種類分類
世界保健機関(WHO)は薬剤耐性菌を臨床的重要度に基づいて優先順位付けしています 。最も重要な「critical priority(最重要)」にはカルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニー(CRAB)とカルバペネム耐性緑膿菌(CRPA)、拡張スペクトラムβ-ラクタマーゼまたはカルバペネム耐性クレブシエラ・ニューモニエ(CRKP)と腸内細菌属が分類されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11344267/
「high priority(高優先度)」にはバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)とメチシリン・バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(MRSAおよびVRSA)が含まれます 。日本では感染症法により、CRE感染症、VRE感染症、MDRA感染症、VRSA感染症については全ての医師による届出が義務付けられている5類感染症として分類されています 。
参考)薬剤耐性菌(Antimicrobial resistant …
医療機関では、薬剤耐性菌をリスクレベルによって分類し、感染対策を実施しています 。カテゴリーAの薬剤耐性菌には個室での接触予防策が適用され、MDRP、MDRA、CRE・CPE、VRE、VISA/VRSA、2DRP、2DRA、キノロン耐性アシネトバクター、カルバペネマーゼ産生菌などが含まれます 。カテゴリーBの薬剤耐性菌にはESBL産生菌やカルバペネム系薬1系統の耐性緑膿菌が分類され、多床室で接触予防策を実施します 。
参考)https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/yobousaku_hyoujun_keirobetsu/sesshokukansen.htm
薬剤耐性菌の新興・変遷による種類分類
薬剤耐性菌の出現時期による分類も重要な観点です 。1960年代にはMRSAとPRSPが、1980年代にはESBL産生菌、VRE、メタロβ-ラクタマーゼ(MBL)産生菌が出現しました 。1990年代には多剤耐性アシネトバクター(MDRA)が問題となり、2002年以降にはバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)が確認されています 。
近年では、新たな耐性メカニズムを持つ薬剤耐性菌の種類が次々と報告されています。ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ(NDM)産生緑膿菌や、クレブシエラ・ニューモニエ・カルバペネマーゼ(KPC)産生菌などが新興耐性菌として注目されています 。これらの薬剤耐性菌は遺伝子レベルでの解析により、その拡散経路や耐性メカニズムが詳細に研究されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9055366/
国際的には、薬剤耐性菌の監視体制が構築されており、各国での発生状況や薬剤感受性パターンが継続的に調査されています。特に海外滞在歴がある患者では、現地で蔓延している薬剤耐性菌の持ち込みが懸念されるため、主要な菌種としてCRE、MDRA、MDRP、VREなどが想定されています 。これらの情報は、適切な感染制御対策の実施と治療方針の決定に不可欠な要素となっています。