ゲンタマイシンの効果と作用機序
ゲンタマイシンの殺菌的作用機序と効果
ゲンタマイシン硫酸塩は、細菌のタンパク質合成を阻害することで強力な抗菌効果を発揮します 。具体的には、細菌のリボソーム(タンパク質を作る細胞内小器官)の30Sサブユニットに特異的に結合し、mRNA(メッセンジャーRNA)の読み取りエラーを引き起こします 。
この作用により、以下のような現象が発生します。
- 誤ったアミノ酸の取り込み
- タンパク質合成の途中終了
- 機能を果たせないタンパク質の産生
その結果、細菌の生存に必要な正常なタンパク質が作られなくなり、細菌の増殖を抑制し、最終的に殺菌効果を示します 。ゲンタマイシンの抗菌活性はアミノグリコシド系抗菌剤中最も優れているもののひとつで、その作用は殺菌的です 。
参考)ゲンタシン軟膏とゲンタマイシンの違いは?ジェネリック?成分や…
ゲンタマイシンの抗菌スペクトラムと効果的な菌種
ゲンタマイシンは幅広い種類の細菌に対して効果を発揮し、抗菌スペクトルはグラム陽性菌からグラム陰性菌にわたる広域に及びます 。現在使用されている抗生剤中最も感受性率が高く、好気性グラム陰性杆菌に広く抗菌力を有しています 。
参考)ゲンタマイシン耐性菌の細菌学的,疫学的研究 (臨床検査 20…
適応菌種(ゲンタマイシンに感性の菌種)。
- ブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌) 💊
- レンサ球菌属(肺炎球菌を除く)
- 大腸菌
- クレブシエラ属
- エンテロバクター属
- セラチア属
- プロテウス属
- モルガネラ・モルガニー
- プロビデンシア属
- 緑膿菌
化膿性皮膚疾患の原因菌は主として黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌ですが、これらの細菌に対しゲンタマイシン硫酸塩は試験管内において低濃度でその発育を阻止し、臨床的にも高い有効性が認められています 。
ゲンタマイシンの適応疾患と効果範囲
外用剤(軟膏・クリーム)の適応疾患。
- 表在性皮膚感染症(とびひ、毛のう炎など) 🔬
- 慢性膿皮症(おでき、炎症性ニキビなど)
- びらん・潰瘍の二次感染
注射剤の適応疾患。
ゲンタシン軟膏は細菌の増殖を抑える強力な抗菌作用を持ち、黄色ブドウ球菌や大腸菌などのグラム陽性菌・陰性菌に幅広く効果を発揮します 。外用した後は皮膚表面にとどまるため、皮膚表在性の細菌に対して殺菌効果を発揮し、薬の成分が体内に入ることで生じる副作用を考慮しなくてよいため、高濃度で使用することができます 。
参考)外用抗菌薬「ゲンタシン軟膏0.1%(ゲンタマイシン)」アミノ…
ゲンタマイシンの効果に影響する耐性菌問題
ゲンタマイシンの使用が年々増加するにつれ、緑膿菌、変形菌、Providencia、それと緑膿菌以外の非発酵性グラム陰性稈菌などでゲンタマイシン耐性菌が目立つようになってきています 。特に皮膚科領域では深刻な問題となっており、現在では皮膚科の菌はほぼゲンタマイシン耐性菌と言われています 。
参考)[相談事例]糖尿病のかたにゲンタシン軟膏は禁忌ですか?
耐性菌の現状: 🦠
- 健常者由来ブドウ球菌:85%以上がゲンタマイシンに感受性
- 患者由来ブドウ球菌:約50%がゲンタマイシンに耐性
- ゲンタマイシン耐性遺伝子aacA-aphDの保有率:皮膚患者で83%に達している
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/131/11/131_11_1653/_pdf
このため、ゲンタマイシンの適正使用が重要となっており、感受性検査に基づいた投与や、不必要な長期使用を避けることが推奨されています。
ゲンタマイシンの効果を左右する腎毒性と副作用
ゲンタマイシンの重要な副作用として腎毒性があり、これは効果的な治療を行う上で重要な制限因子となっています。ゲンタマイシンの腎毒性は、腎臓病患者及び長期間治療投与されている患者で報告されており、広く研究されています 。
参考)https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka.data/pc_hisiryou_gentamicin_300711.pdf
腎毒性の特徴。
- 近位尿細管障害に特徴的なアミノ酸尿 💊
- 腎性糖尿
- 大量リン排泄などのFanconi症候群
- 低K血症・低Mg血症の併発
参考)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2016/04/di201604.pdf
ゲンタマイシン腎症では、クレアチニンの上昇に先行してこれらの症状が現れるため、早期の発見と対応が重要です。また、サーカディアンリズムとの関連も報告されており、ゲンタマイシン投与時刻の違いによって腎毒性の形態学的な差が認められ、投与時刻によって薬物の副作用出現が変化することが示唆されています 。
このため、ゲンタマイシンの使用に際しては定期的な腎機能モニタリングが必要であり、特に高齢者や腎機能低下患者では慎重な投与が求められています。