血中濃度採血タイミングの適正化:薬物治療の効果を最大化する採血方法

血中濃度採血タイミングの基本原則

血中濃度測定の基本概念
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定常状態での測定

薬物が体内で一定の濃度に達してから採血を実施

トラフ値の重要性

次回投与直前の最低血中濃度での採血が基本

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個別化投与計画

血中濃度データを基に用量と投与間隔を調整

血中濃度測定における定常状態の重要性

薬物血中濃度測定において最も重要な概念が定常状態です 。定常状態とは、薬物が体内に入る速度と代謝・排泄される速度が等しくなった状態で、一般的に消失半減期の約5倍で定常状態に達するとされています 。この状態になってから採血を行うことで、薬物の実際の治療効果を正確に評価することが可能になります 。

参考)薬物血中濃度モニタリングのタイミング

急を要しない場合は定常状態(半減期の3~4倍以上の時間)で採血を行うことが推奨されており 、これにより個人差の大きい薬物動態パラメータを適切に把握できます。定常状態での測定により、患者個々の薬物代謝能力や排泄能力を反映した正確な血中濃度が得られるため、より精密な投与設計が可能となります 。

参考)HOME

血中濃度測定のトラフ値とピーク値の意義

血中濃度測定では、トラフ値(最低血中濃度)とピーク値(最高血中濃度)の測定が重要な役割を果たします 。トラフ値は次回投与直前の血中濃度を表し、治療効果を維持するために必要な最低濃度を確認する目的で測定されます 。一般的に、血中濃度測定では定常状態でのトラフ値を基本として採血を実施します 。

参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/2666/

一方、ピーク値の測定は副作用の確認に重要で、特にテオフィリンなどピーク値に依存して副作用が起こる薬物では必須の測定項目です 。アミノグリコシド系抗生物質では、治療効果と副作用の両面を評価するため、トラフ値とピーク値の2点採血が実施されます 。

参考)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/92.html

血中濃度測定における薬剤別採血タイミング

各薬剤によって最適な採血タイミングが異なることは、TDM(治療薬物モニタリング)の重要な特徴です 。ジゴキシンでは経口投与の場合、投与8時間後~次回投与直前に採血を行い、有効血中濃度域0.5~2.0ng/mlを目標とします 。テオフィリンでは、トラフ値に加えて副作用防止のため、徐放性製剤では投与4時間後、裸錠では投与2時間後にピーク値の採血が必要です 。

参考)TDMとは?TDMの重要性と薬剤師の役割を解説

抗てんかん薬では、フェニトインやカルバマゼピンなど多くの薬剤でトラフ値での採血が基本となりますが、フェノバルビタールのように半減期が長い薬物では、一日の血中濃度の振れ幅が小さいため、どのタイミングでも採血可能です 。アミノグリコシド系抗生物質では、初回は有効性評価のためピーク値として投与開始2~4日目の点滴開始1時間後に採血し、その後はトラフ値での継続的なモニタリングが実施されます 。

参考)https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/koukinyaku/TDM%20others.htm

血中濃度測定の特殊な採血パターン

一部の薬剤では、通常のトラフ値・ピーク値測定とは異なる特殊な採血パターンが必要です 。メトトレキサートでは、24時間、48時間、72時間での経時採血が実施され、薬物の蓄積と排泄を詳細にモニタリングします 。これは、メトトレキサートの毒性が時間依存性であり、適切な解毒剤投与のタイミングを決定するために重要です。

参考)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2019/03/di201903.pdf

シクロスポリンでは、赤血球への薬物分布が多いため全血での測定が必要で、採血タイミングも通常の血清・血漿測定とは異なる配慮が必要です 。テイコプラニンやバンコマイシンなどのグリコペプチド系抗生物質では、腎機能への影響を考慮し、トラフ値でのモニタリングが特に重要となります 。

参考)https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/koukinyaku/TDM%20others.pdf

血中濃度測定における採血手技の注意点

血中濃度測定の精度を確保するためには、適切な採血手技が不可欠です 。点滴静注を行っている場合には、薬物が投与されているルート側と異なる側から採血を行い、点滴ルート内の薬物残留による測定値への影響を避ける必要があります 。やむを得ずルートからの採血を行う場合は、点滴ルート内に薬物の残留がないよう十分注意します。
採血管には血漿分離剤を使用しているものがありますが、分離剤に吸着される薬物もあるため、分離は速やかに行うことが重要です 。測定まで時間がかかる場合は冷所保管し、当日測定できない場合は凍結保存が推奨されます 。また、駆血帯による影響を最小限にするため、緊縛後は2~3分以内に採血を完了することが必要です 。

参考)検体検査の基礎知識