サリドマイド 副作用医療従事者専門知識最新情報

サリドマイド副作用基礎知識

サリドマイド副作用の重要ポイント
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催奇形性リスク

妊娠初期の一錠でも重篤な胎芽病を引き起こす

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血栓症リスク

深部静脈血栓症が治療開始初期に多発

神経毒性

不可逆性の末梢神経障害が蓄積毒性として出現

サリドマイド催奇形性メカニズム最新研究

サリドマイドの最も重大な副作用である催奇形性について、2021年の研究でセレブロン(CRBN)タンパク質がサリドマイド催奇形性を引き起こす主要因子として特定されました 。サリドマイドがセレブロンに結合することで、手足の奇形が引き起こされるメカニズムが解明されており、医療従事者はこの分子レベルでの作用機序を理解する必要があります 。
参考)https://www.amed.go.jp/news/release_20210120-02.html
妊娠35~50日の最終月経期間にサリドマイドを服用した場合、確実に胎児の奇形を起こすきわめて催奇形性の強い薬物です 。上肢では橈側列の欠損や海豹肢症、無肢症が生じ、聴覚器官では無耳症、小耳症、難聴が発生します 。日本では309人のサリドマイド胎芽病認定患者のうち、上腕レベル欠損が39%、前腕レベル欠損が42%、上肢正常だが聴覚障害群が23%を占めています 。
参考)https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20180821_35749.html
現在これらの被害者は50歳代後半となり、先天的障害に加えて生活習慣病や精神科的問題など多様な健康課題が見られるようになっています 。医療従事者は、単なる薬害史としてでなく、現在も継続する医学的問題として認識し、専門的な診療体制を整える必要があります。
参考)https://thalidomide-embryopathy.com/common/data/pdf/medical_guide_2020.pdf

サリドマイド末梢神経障害症状進行パターン

末梢神経障害はサリドマイドの蓄積毒性として最も懸念される副作用で、対称性の感覚神経障害が主体となり、重症例では運動神経障害も伴います 。4年間の観察で、サリドマイド使用群263名中16%にgrade3以上の末梢神経障害を認めた一方、非使用群では280名中5%にとどまったという重要なデータがあります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/12/dl/h1210-2a2.pdf
日本人骨髄腫患者38例の調査では、末梢神経障害が63%と高頻度で発生し、手指のチクチクするような軽い痛みや足の裏のジンジンするしびれが特徴的症状です 。発症は投与期間および投与量依存性で、比較的早期に発生する場合もあるため、治療開始時から注意深い観察が必要です。
grade3以上の障害を来した症例では完全な神経症状の改善が困難で、不可逆性を懸念する声もあります 。神経障害が進行する場合は投与量の減量ないし一時的投与中止により症状軽減を認めることが多いため、早期発見と適切な対応が重要です。骨髄腫では様々な原因から末梢神経障害を来すため、サリドマイドによるものの評価が困難な場合が多い点も医療従事者は認識すべきです 。

サリドマイド深部静脈血栓症発症機序リスク因子

深部静脈血栓症は米国を中心にサリドマイド投与患者で重篤な報告が相次いでいる副作用で、治療開始当初で腫瘍量が多い時期に多発する特徴があります 。単剤投与時の発症頻度は5%未満ですが、抗癌剤との併用時には著明に高くなり、特にドキソルビシンとの併用時には投与患者の25%程度にまで高まります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000035lub-att/2r98520000035m2m_1.pdf
独立したリスクファクターとして、ドキソルビシン以外にも未治療例への投与、11番染色体異常、活性化プロテインC耐性症が挙げられています 。活性化プロテインC抵抗性の合併症例にサリドマイドを含む治療を行うと、静脈血栓塞栓症の発症頻度は12%から66%に上昇するという報告もあります 。
参考)http://www.3nai.jp/weblog/entry/23324.html
日本人を対象とした経験では臨床的に顕著な静脈血栓症の報告は少ないですが、これは投与量が最大400mgまでと少なく、ドキソルビシンとの併用を行っていないこと、日本人には活性化プロテインC耐性症がないとされているためと考えられます 。予防的抗凝固療法として、治療量のワルファリンまたは低分子量ヘパリンの投与により、サリドマイド非使用時と同レベルまで静脈血栓症頻度を減少できるとされています 。

サリドマイド血液毒性好中球減少症対応

欧米では血液学的毒性が低いとされているサリドマイドですが、日本での報告では単独投与時に重篤な好中球減少の発症が相次いでいます 。この副作用はサリドマイドの投与量が少ない症例にも発症し、投与前より血球減少症を認めたり骨髄中の形質細胞比率が50%を超える症例に多発する傾向があります 。
好中球減少は治療開始1-2週目に発症することが多く、このような症例への投与開始初期には頻回の採血による血球数検査が必要です 。日本骨髄腫研究会の調査では、73名中白血球減少9.6%、血小板減少6.8%が報告されており 、慶應義塾大学の38例調査では好中球減少症21%(うち4例は血小板減少を伴う)という高い頻度でした 。
grade3の好中球減少(1000-2000/μL)が生じた場合は慎重投与とし、G-CSF投与やそれでも改善しない場合は減量や一時的投与中断を考慮する必要があります 。grade4の場合(500/μL以下)は直ちにサリドマイドを中止し、G-CSFを投与します。投与開始前より著明な好中球減少が存在する場合は、好中球数が回復するまでサリドマイド投与を控えるべきです 。

サリドマイド消化器副作用対症療法アプローチ

便秘はサリドマイドの最も頻度の高い副作用で、投与量に依存して頻度が高まる特徴があります 。日本骨髄腫研究会の調査では35.6%、慶應義塾大学の調査では58%と高頻度で発生し 、米国の調査でも200mg投与で35%、800mg投与で59%と用量依存性を示しています 。
通常は便軟化剤や緩下剤を用いた対症療法で対応可能ですが、骨痛のためモルヒネ製剤服用患者においては便秘症状が強く出現するため注意深い観察が必要です 。便秘を防ぐには液体や食物繊維の摂取量を増やすことが有効で、便秘症状が重く下剤が効かない場合はサリドマイドの服用量減量や一時的服用中断も考慮します 。
口内乾燥も47%と高頻度で発生し、吐気、嘔吐、口腔粘膜障害などの消化器症状も投与量依存性に出現します 。これらは通常NCI-CTC基準grade1ないし2と軽症ですが、患者のQOLに大きく影響するため、予防的対応と早期の対症療法が重要です。重篤な消化器副作用として、海外では胃腸出血の報告もあり 、定期的な観察と適切な対応が求められます。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00062982