2019年薬機法改正の医療現場への影響
2019年薬機法改正の背景と目的
2019年12月4日に公布された薬機法改正は、2014年の薬事法から薬機法への変更後、5年目の見直しとして実施されました。改正の主な目的は「国民のニーズに応える優れた医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するとともに、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができる環境を整備する」ことです。
この改正は3つの大きなテーマで構成されています。
- 高い品質・安全性を確保し、医療上の必要性の高い医薬品・医療機器等を迅速に患者に届ける制度
- 薬剤師・薬局のあり方の見直し
- 医薬品・医療機器等の製造・流通・販売に関わる者に係るガバナンスの強化
医療従事者にとって最も重要な変更点は、薬剤師・薬局の役割が従来の「薬を渡す場所」から「適正使用に必要な情報提供を行う場所」へと明確に転換された点です。
2019年薬機法改正による服薬指導と薬局業務の変化
改正薬機法では、薬局の定義が大幅に見直されました。従来は「薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務を行う場所」とされていましたが、改正後は「薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務並びに薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供を行う場所」と変更されています。
この変更により、薬剤師には以下の新たな責務が課されました。
服用期間を通じた継続的な薬学的管理 📊
患者の服用期間中の状況把握と継続的な薬学的管理が義務化されました。単に薬を渡すだけでなく、患者の服薬状況や副作用の有無を継続的に監視し、必要に応じて適切な指導を行う必要があります。
医師や看護師などへの情報提供の強化 🔄
把握した情報を医師や看護師をはじめとする医療機関と共有し、一元的・継続的な薬物療法を提供することが求められます。これにより、医薬分業の本来の目的である医療の質向上が期待されています。
専門性の高い薬学的管理への対応 🎯
在宅医療の需要増加やがん治療の外来処方増加など、専門性の高い薬学的管理が求められるケースが増えており、実践経験のある薬剤師が中心的な役割を果たす必要があります。
興味深いことに、この改正には薬剤師・薬局に対する厳しい評価も背景にありました。改正に向けた議論では、薬剤師・薬局の機能について批判的な意見も多く出されており、業界全体として国民の期待に応える意識の向上が求められています。
2019年薬機法改正による連携薬局制度と認定基準
2019年薬機法改正の目玉の一つが、連携薬局認定制度の導入です。患者が自分に適した薬局を選択できるよう、機能別に2種類の連携薬局が新設されました。
地域連携薬局 🏠
入退院時や在宅医療において他の医療提供施設と連携して対応できる薬局として認定されます。地域包括ケアシステムの中核として、かかりつけ薬剤師・薬局機能を発揮することが期待されています。
認定要件には以下が含まれます。
- 24時間調剤応需体制の確保
- 在宅医療への対応体制
- 他の医療機関との情報連携体制
- 薬剤師の継続的な研修実施
専門医療機関連携薬局 🎗️
がん等の専門的な薬学管理において他の医療提供施設と連携して対応できる薬局として認定されます。特に外来がん化学療法の増加に伴い、高度な専門知識を持つ薬剤師による服薬管理が重要になっています。
認定要件には以下が含まれます。
- 専門分野に関する高度な知識を持つ薬剤師の配置
- 専門医療機関との緊密な連携体制
- 専門分野の医薬品の備蓄・管理体制
- 患者の病態に応じた薬学的管理の実施
これらの認定薬局は、名称を局内に掲示することができ、患者に対して「より充実したサービスを提供できる薬局」としてアピールできるメリットがあります。
2019年薬機法改正による添付文書電子化とオンライン服薬指導
デジタル化の推進も2019年薬機法改正の重要な柱です。特に添付文書の取り扱いに関しては大きな変更がありました。
添付文書の電子化 💻
医薬品等の添付文書について、最新の情報を速やかに医療現場に届けるため、電子的な方法による提供が基本となりました。これにより、製薬企業は添付文書の内容を更新した際、即座に医療現場に情報を伝達できるようになります。
ただし、一般用医薬品等の消費者が直接購入する医薬品については、使用時に添付文書の情報を直ちに確認できる状態を確保する必要があるため、従来通り紙媒体の同梱が続けられます。
オンライン服薬指導の一部解禁 📱
テレビ電話等による服薬指導が一部で解禁されました。これにより、離島や僻地の患者、外出困難な患者に対しても適切な服薬指導を提供できる環境が整いました。
オンライン服薬指導の実施要件。
- 初回は対面での服薬指導が必要
- 適切な通信環境の確保
- 薬剤の確実な配送体制
- 緊急時の対応体制の整備
意外な事実として、この電子化の背景には医療安全の観点も大きく影響しています。紙の添付文書では情報更新のタイムラグが生じ、古い情報に基づく医療事故のリスクがありました。電子化により、リアルタイムでの情報更新が可能となり、医療安全の向上が期待されています。
2019年薬機法改正が医療従事者の業務に与える実務上の課題
2019年薬機法改正は医療従事者に多くの新しい責務をもたらしましたが、同時に実務上の課題も生まれています。
人材確保と教育体制の整備 👥
連携薬局制度の導入により、専門性の高い薬剤師の確保が急務となっています。特に専門医療機関連携薬局では、がんなどの専門分野に関する高度な知識を持つ薬剤師が必要ですが、こうした人材は限られており、教育体制の整備が課題となっています。
システム投資とコスト負担 💰
添付文書の電子化やオンライン服薬指導の導入には、相応のシステム投資が必要です。中小の薬局では、これらの設備投資が経営を圧迫する要因となる可能性があります。
医療機関との連携体制構築 🤝
継続的な薬学的管理や情報提供の強化には、医療機関との密接な連携が不可欠です。しかし、現実的には情報システムの互換性や業務フローの調整など、多くの課題が残されています。
患者の理解と協力 👨⚕️
新しい制度の効果を発揮するためには、患者自身の理解と協力が欠かせません。連携薬局制度やオンライン服薬指導の意義を患者に説明し、理解を得る取り組みが重要になります。
興味深い点として、改正薬機法では法令遵守体制の強化も重要なテーマとなっています。近年の後発医薬品製造業者の不適切製造事案を受けて、薬事に関する業務に責任を有する役員の法律上の位置付けや、開設者による法令遵守体制の整備が義務化されました。
さらに、虚偽・誇大広告に対する課徴金制度も新設され、違反した場合は対象商品の売上額の4.5%の課徴金が課されることになりました。ただし、課徴金が225万円未満の場合は納付命令を行わないなど、一定の配慮も設けられています。
これらの変化は、医療従事者にとって新たな責任と機会の両面を持っています。適切な対応により、より質の高い医療サービスの提供が可能となりますが、準備不足では業務に支障をきたすリスクもあります。各医療機関や薬局では、改正内容を正確に理解し、段階的な導入準備を進めることが重要です。
厚生労働省による2019年薬機法改正の詳細な情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179749_00001.html