スタチン 効果と副作用
スタチン系薬剤は脂質異常症(高脂血症)治療の第一選択薬として広く使用されています。特に悪玉コレステロール(LDL-C)が高い高LDL血症に対して高い効果を示します。スタチンは体内のコレステロール合成を抑制することで血中コレステロール値を下げ、動脈硬化の進行を防ぎます。これにより、脳卒中や心筋梗塞などの重大な循環器疾患のリスクを低減する効果が期待できます。
スタチンの作用機序とコレステロール低下効果
スタチン系薬剤の作用機序は、肝臓内でのコレステロール合成過程に関わる重要な酵素「HMG-CoA還元酵素」の働きを阻害することにあります。肝臓では1日に約1-1.5gものコレステロールが合成されており、これは食事から摂取するコレステロール量の約5倍にも相当します。
コレステロール合成の過程では、アセチルCoAを原料としてHMG-CoAが作られ、このHMG-CoAがHMG-CoA還元酵素の作用によってメバロン酸に変換されます。スタチンはこの過程を阻害することで、肝臓でのコレステロール合成を抑制し、血中コレステロール値を低下させるのです。
スタチン系薬剤の効果は主に以下の点に現れます。
- 悪玉コレステロール(LDL-C)の低下
- 総コレステロール値の低下
- 一部の薬剤では中性脂肪(トリグリセリド)の軽度低下
- 善玉コレステロール(HDL-C)の軽度上昇
これらの効果により、動脈硬化の進行を抑制し、心血管イベントの発生リスクを低減します。特に冠動脈疾患の既往がある患者さんでは、スタチン治療による二次予防効果が多くの大規模臨床試験で証明されています。
スタチンの種類と特徴の比較
スタチン系薬剤は現在、日本では6種類が使用可能で、効果の強さによって「スタンダードスタチン」と「ストロングスタチン」の2つのグループに分類されます。
【スタンダードスタチンとストロングスタチンの比較】
分類 | 一般名 | 主な商品名 | 規格 | LDL-C低下率 |
---|---|---|---|---|
スタンダードスタチン | プラバスタチン | メバロチン | 5mg, 10mg | 約15-20% |
シンバスタチン | リポバス | 5mg, 10mg, 20mg | 約15-20% | |
フルバスタチン | ローコール | 10mg, 20mg, 30mg | 約15-20% | |
ストロングスタチン | ロスバスタチン | クレストール | 2.5mg, 5mg | 約30-40% |
ピタバスタチン | リバロ | 1mg, 2mg, 4mg | 約30-40% | |
アトルバスタチン | リピトール | 5mg, 10mg | 約30-40% |
ストロングスタチンはスタンダードスタチンと比較して、同じ用量でもLDL-Cの低下効果が約2倍高いことが特徴です。そのため、現在の臨床現場ではストロングスタチンの処方が多くなっています。厚生労働省のNDBオープンデータ(平成28年度)によると、外来院外処方数量の上位3位はすべてストロングスタチン(ロスバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン)が占めています。
ストロングスタチン間での効果や副作用の発生頻度に大きな差はないとされていますが、ロスバスタチン(クレストール)は用量の幅が広く、最大通常量の8倍である20mgまで増量可能であるため、より厳格なコレステロールコントロールが必要な場合に選択されることがあります。
スタチンの副作用と発生頻度について
スタチン系薬剤は一般的に安全性の高い薬剤ですが、いくつかの副作用が報告されています。主な副作用とその発生頻度(ロスバスタチンの添付文書より)は以下の通りです。
- 筋肉痛:約3.2%
- 肝機能の数値(GPT)上昇:約1.7%
- CK(CPK)値上昇:約1.6%
- 横紋筋融解症:0.1%未満(重大な副作用)
- 間質性肺炎:0.1%未満(重大な副作用)
スタチンの副作用として最も注目されているのが筋肉関連の症状です。軽度の筋肉痛や違和感は比較的よく見られますが、重篤な横紋筋融解症はきわめて稀です。
横紋筋融解症は、骨格筋を構成する筋細胞が壊れることで筋肉痛や脱力を生じる病態で、壊れた筋肉から流出したミオグロビンという物質が腎臓に作用して急性腎不全を引き起こす可能性があります。しかし、大規模な研究によれば、その発生頻度は極めて低いことが確認されています。
- プラバスタチン(メバロチン):8136万処方で3例
- ロスバスタチン(クレストール):9919万処方で19例
- アトルバスタチン(リピトール):1億4036万処方で6例
このように、スタチンによる重篤な副作用の発生率は非常に低く、1989年の製品化以来、大きな問題なく広く使用されています。週刊誌などで「飲み続けてはいけない薬」として取り上げられることがありますが、適切な医師の管理下で使用する限り、その恩恵は副作用のリスクを大きく上回ると考えられています。
スタチンの投与量と効果の関係性
スタチン系薬剤の投与量と効果の関係性には興味深い特徴があります。一般的に薬剤の用量を増やせば効果も比例して高まると考えがちですが、スタチンの場合は「6%ルール」と呼ばれる現象が知られています。
この「6%ルール」とは、スタチンの投与量を倍に増やしても、LDL-Cの追加低下効果は約6%程度にとどまるというものです。つまり、投与量を8倍に増やしても、効果は8倍にはならないのです。
例えば、ロスバスタチン2.5mgで30%のLDL-C低下が得られた場合、5mgに増量しても追加効果は約6%程度で、合計36%程度の低下にとどまります。さらに10mgに増量しても、追加効果は約6%で合計42%程度となります。
この現象が生じる理由は、肝臓内でのコレステロール合成を抑制すると、代償性に小腸からのコレステロール吸収が増加し、血中コレステロール量を維持しようとする機構が働くためと考えられています。
このような生体の代償機構に対応するため、近年ではスタチンと小腸のコレステロール吸収を阻害するエゼチミブ(ゼチーア)の併用療法や配合剤が注目されています。スタチンで合成を抑制し、エゼチミブで吸収を抑制することで、より強力なコレステロール低下作用が期待できます。
スタチンと他剤の配合薬の特徴と使い分け
スタチン単剤での治療で十分な効果が得られない場合や、複数の疾患を同時に治療する必要がある場合には、スタチンと他の薬剤を組み合わせた配合剤が有用です。現在、日本で使用可能な主なスタチン配合剤には以下のようなものがあります。
- スタチンとエゼチミブ(ゼチーア)の配合剤
- アトーゼット配合錠:アトルバスタチン(リピトール)とエゼチミブの配合剤
- ロスーゼット配合錠:ロスバスタチン(クレストール)とエゼチミブの配合剤
これらの配合剤は、スタチン単剤で十分なLDL-C低下が得られない患者さんに使用されます。スタチンによるコレステロール合成抑制と、エゼチミブによる小腸からのコレステロール吸収抑制という異なる作用機序を組み合わせることで、より強力なLDL-C低下効果が期待できます。臨床試験では、ロスバスタチン単剤で十分な効果が得られなかった患者さんにエゼチミブ10mgを追加したところ、さらに25%近くLDL-Cが低下したことが報告されています。
脂質異常症と高血圧は合併することが多いため、これらの配合剤は両疾患を同時に治療できる利点があります。アムロジピンは代表的なカルシウム拮抗薬で、血圧を下げる効果があります。
配合剤のメリットとしては、服薬錠数の減少による服薬アドヘアランスの向上、薬剤費の軽減(一部の配合剤)などが挙げられます。一方、個々の成分の用量調整が難しいというデメリットもあります。
スタチンの長期服用と生活習慣改善の重要性
スタチン系薬剤は、一度服用を開始すると長期間にわたって継続することが一般的です。脂質異常症は慢性疾患であり、薬剤の中止によってコレステロール値が再び上昇してしまうためです。特に動脈硬化性疾患の既往がある患者さんでは、スタチンの継続服用による二次予防効果が重要となります。
しかし、薬物療法だけに頼るのではなく、生活習慣の改善も同時に行うことが重要です。スタチンの効果を最大限に引き出し、副作用のリスクを低減するためには、以下のような生活習慣の改善が推奨されます。
- 食事療法
- 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取制限
- コレステロールの多い食品の摂取制限
- 食物繊維の積極的な摂取
- 適正なカロリー摂取
- 運動療法
- 有酸素運動を中心とした定期的な運動
- 1日30分以上、週に3回以上の運動が推奨
- 禁煙・節酒
- 喫煙は善玉コレステロール(HDL-C)を低下させる
- 過度の飲酒は中性脂肪を上昇させる
- 体重管理
- 適正体重の維持
- 肥満の場合は体重の5-10%の減量を目標とする
これらの生活習慣改善は、スタチンの効果を補完するだけでなく、スタチンの必要用量を減らせる可能性もあります。また、脂質異常症だけでなく、高血圧や糖尿病などの他の生活習慣病の予防・改善にも効果があります。
スタチン系薬剤は1989年の製品化以来、多くの大規模臨床試験によってその有効性と安全性が確認されてきました。適切な医師の管理下で使用する限り、その恩恵は副作用のリスクを大きく上回ると考えられています。しかし、薬物療法に頼るだけでなく、生活習慣の改善も同時に行うことで、より効果的な脂質異常症の管理が可能となります。