出血性ショックと何リットルの血液喪失
出血性ショックの循環血液量と計算式
出血性ショックの発症には、まず正常な循環血液量の把握が不可欠です。成人の循環血液量は体重の約8%(約1/13)とされており、体重60kgの成人では約4.8リットル、70kgでは約5.6リットルとなります 。この基本的な計算式「血液量(ml)= 体重(kg)× 1000 × 0.08」を用いることで、個々の患者の推定血液量を迅速に算出できます 。
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循環血液量の理解は治療戦略の立案において極めて重要です。なぜなら、出血性ショックの診断・治療における輸血量の決定や、患者の重症度評価の基準となるためです 。特に外傷現場や救急外来での初期評価において、この計算式による迅速な血液量推定は、治療の緊急度を判断する重要な指標となります。
参考)出血性ショック
体重別の血液量目安として、40kg(約3.2リットル)、50kg(約4.0リットル)、60kg(約4.8リットル)、70kg(約5.6リットル)と覚えておくことで、臨床現場での迅速な判断が可能になります 。
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出血性ショックの発症に必要な何リットルの出血量
出血性ショックの発症には、循環血液量の20%以上の急速な喪失が必要とされています。体重60kgの成人では約1リットル、70kgでは約1.1リットルの血液喪失で出血性ショックが発症します 。これは牛乳パック1本分の血液量に相当し、比較的少量でも急速に失われると重篤な状態に陥ることを示しています 。
参考)止血法 – 南魚沼市
さらに重要なのは、循環血液量の30%以上(体重60kgで約1.5リットル)を失うと生命に危険を及ぼす状態となることです 。このレベルでは交感神経反射による代償機構が破綻し、血圧低下が明らかとなり、脈拍も頻拍かつ微弱となります 。
参考)消防・救急
35%以上の出血(1,600mL以上)となると重度の出血性ショックとなり、救命率が著しく低下します 。医療従事者は、このような段階的な重症度分類を理解し、迅速な治療介入のタイミングを逃さないよう注意が必要です。
出血性ショックのショック指数による診断基準
ショック指数(Shock Index: SI)は出血性ショックの早期診断において極めて有用な指標です。心拍数を収縮期血圧で除した値で、正常値は0.5とされ、1.0以上で出血性ショックと診断されます 。この指数は血圧低下を待たずに循環動態の異常を検出できるため、早期診断に重要な役割を果たします。
参考)ショック指数(Shock Index;SI)|知っておきたい…
ショック指数と推定出血量の関係は以下のように分類されます。0.5<SI値<1.0で出血量750mL未満、1.0<SI値<1.5で750~1,500mL、1.5<SI値<2.0で1,500~2,000mL、2.0以上では2,000mL以上の出血量と推定されます 。
妊婦の場合は循環血液量が増加しているため、SI値1.0で1,500mL、SI値1.5で2,500mLの出血量と推定され、特別な配慮が必要です 。このように、ショック指数は患者の状態に応じて柔軟に解釈する必要があります。
出血性ショックの段階的重症度分類と症状
出血性ショックは出血量に応じて4段階に分類されます。クラスI(15%未満、約600mL)では血圧・脈拍とも維持されますが軽度の不穏状態となり、クラスII(15~30%、600~1,200mL)では軽度の血圧低下と頻脈、呼吸数増加が見られます 。
クラスIII(30~35%、1,200~1,600mL)では交感神経反射による代償が破綻し、血圧低下が明らかとなり、脈拍も頻拍・微弱となります。最も重篤なクラスIV(35%以上、1,600mL以上)では重度の出血性ショックとなり、救命率が著しく低下します 。
症状としては、皮膚の蒼白・冷感、冷汗、頻脈、呼吸困難、意識障害、尿量減少などが段階的に出現します 。特に目がうつろになる、表情がぼんやりする、息が速くなる、チアノーゼなどの症状は迅速な治療介入の必要性を示す重要な指標です。
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出血性ショックの治療と予後における何リットルの意義
出血性ショックの治療において、失血量の正確な推定は輸血・輸液量の決定に直結します。大量輸血プロトコル(MTP)では、初期に赤血球4単位以上の輸血が必要とされ、全血輸血の併用により24時間生存率が37%向上することが報告されています 。
参考)https://www.medicalonline.jp/review/detail?id=8086
治療開始から14分以内の全血輸血開始が生存率向上に重要であり、時間の経過とともに救命の可能性が急激に低下します 。これは出血性ショックから死亡までの中央値が約2時間という事実と密接に関連しています 。
参考)外傷による大量出血、早めの全血輸血が生存率を高める|医師向け…
出血性ショックの後遺症として、脳や臓器への障害が残る可能性があり、大量出血により十分な血液循環が保たれなかった結果、長期的な機能障害をきたすケースが存在します 。特に多臓器不全を合併した場合、治療後も重篤な後遺症が残存する可能性が高く、早期診断・治療の重要性が強調されます 。