免疫反応をわかりやすく解説医療従事者向け

免疫反応をわかりやすく

免疫反応の基本概念
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自然免疫システム

生まれつき備わった第一防御線での即座の反応

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獲得免疫システム

特異的抗原認識による長期記憶を持つ反応

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サイトカインネットワーク

免疫細胞間の情報伝達と協調システム

免疫反応における自然免疫の初期応答メカニズム

免疫反応の最初のステップは、生まれつき体に備わっている自然免疫システムによる病原体の認識と初期対応です 。体内に細菌やウイルスなどの外敵が侵入すると、マクロファージや好中球といった自然免疫細胞が即座に反応し、侵入者を直接攻撃します 。

参考)免疫反応って何?免疫反応のながれやしくみを解説! href=”https://www.euglab.jp/column/immunity/000408.html” target=”_blank” rel=”noopener”>https://www.euglab.jp/column/immunity/000408.htmlamp;#821…

自然免疫の特徴は、特定の抗原を記憶する必要がなく、侵入してきた外敵に対して迅速に反応できることです 。マクロファージは「大食細胞」とも呼ばれ、異物を発見すると丸飲みして処理する強力な能力を持っています 。同時に、食細胞としての役割だけでなく、他の免疫細胞に敵の情報を伝える重要な情報伝達機能も担っています。

参考)自然免疫・獲得免疫とは

NK(ナチュラルキラー)細胞は、がん細胞やウイルスに感染した細胞を独自に判断して攻撃する能力を持つ自然免疫の重要な構成要素です 。これらの自然免疫細胞は、血管外遊出という現象により血管壁を通り抜け、感染部位に迅速に到達します 。

参考)301 Moved Permanently

自然免疫反応の限界として、血液中の小さな病原体や細胞内に侵入した病原体への対処が困難という点があります 。このため、より精密で持続的な免疫反応である獲得免疫が必要となるのです。

免疫反応における獲得免疫システムの精密制御

獲得免疫は、自然免疫では対処しきれない病原体に対する第二防御線として機能し、抗原特異性と免疫記憶という重要な特徴を持ちます 。このシステムの中核を担うのは、T細胞とB細胞という2種類のリンパ球です 。

参考)B細胞とT細胞|腫瘍免疫の基礎知識(垣見の腫瘍免疫学)|東京…

T細胞は細胞性免疫の中心を担い、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞など複数のサブタイプに分化します 。ヘルパーT細胞は免疫システムの司令塔として機能し、マクロファージから抗原情報を受け取ると、B細胞に抗体産生を指令し、キラーT細胞に感染細胞の攻撃を命令します 。

参考)免疫とは?

B細胞は抗体産生を専門とする細胞で、特定の抗原に対する抗体を大量に産生する形質細胞に分化します 。産生された抗体は、補体システムと協力して病原体を中和し、感染拡大を防ぎます。また、一部のB細胞はメモリー細胞として体内に残存し、同一抗原の再侵入時に迅速な免疫反応を可能にします 。
獲得免疫の活性化には1〜2週間という時間が必要ですが、一度形成された免疫記憶により、二度目の感染に対しては極めて迅速かつ強力な反応が可能となります 。これが予防接種の原理であり、麻疹などの感染症に一度罹患すると二度目の感染がほとんど起こらない理由です。

免疫反応におけるサイトカインの多面的役割

サイトカインは免疫細胞から分泌されるタンパク質で、免疫反応の調整において中心的な役割を果たします 。主に白血球などの免疫系細胞から産生・分泌され、免疫細胞間の情報伝達を担う重要な分子群です 。

参考)免疫の重要アイテム 【サイトカイン】  

インターロイキン(IL)は代表的なサイトカイン群で、「インター(間)」「ロイキン(白血球)」の名前が示すように、主に白血球間の情報伝達を行います 。例えば、IL-4は好酸球の活性化やIgE産生を促進し、アレルギー反応において重要な役割を果たします 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/50/6/50_6_290/_pdf

サイトカインネットワークの特徴として、協調作用と拮抗作用があります 。複数のサイトカインが協力して免疫反応を促進する一方、ある種のサイトカインは他のサイトカインの作用を阻害し、過剰な免疫反応を制御します。この絶妙なバランスにより、必要な時に適切な強度の免疫反応が発動し、不要になれば速やかに終息します。
炎症性サイトカインであるTNF-α(腫瘍壊死因子α)は、血管内皮細胞の活性化を誘発し、白血球接着分子の発現を増強することで免疫細胞の感染部位への浸潤を促進します 。一方で、抗炎症性サイトカインは炎症反応を抑制し、組織損傷を最小限に抑える役割を担っています。

参考)炎症誘発性サイトカインの概要

インターフェロン類は抗ウイルス作用を持つ特殊なサイトカインで、ウイルス感染細胞において産生され、周囲の細胞にウイルス感染への警戒を促し、ウイルスの複製を阻害します 。

参考)自然免疫 – 15. 免疫の病気 – MSDマニュアル家庭版

免疫反応における白血球の動的協調システム

白血球は免疫反応の主役として、複数の細胞タイプが協調して機能する複雑なシステムを形成します 。好中球は最も迅速に感染部位に到達する白血球で、1分間に27〜29μmという速度で移動し、細菌を貪食処理します 。

参考)侵入してきた敵をたたく白血球|守る(2)

樹状細胞は自然免疫と獲得免疫の橋渡しを行う特殊な抗原提示細胞です 。組織内で抗原を捕獲すると、リンパ節に移動してT細胞に抗原情報を提示し、獲得免疫反応の開始を促します 。この抗原提示プロセスは、獲得免疫の特異性を決定する極めて重要なステップです。

参考)免疫について

マクロファージは多機能性を持つ重要な免疫細胞で、貪食作用、抗原提示、サイトカイン産生という3つの主要機能を担います 。感染初期には炎症性マクロファージ(M1型)として病原体を積極的に攻撃し、感染後期には修復型マクロファージ(M2型)として組織修復を促進します。

参考)マクロファージとは?特徴や働きを簡単に解説!|北海道科学大学

白血球の血管外遊出は、循環血中の白血球が感染部位に到達するための重要なメカニズムです 。組織損傷や感染により放出されるサイトカインが化学誘引物質として機能し、白血球を感染部位に誘導します。この過程では、血管内皮細胞との相互作用により接着分子の発現が増加し、白血球の血管壁通過が促進されます。
免疫抑制時における白血球減少は、がん治療や免疫抑制薬の副作用として生じる重要な臨床問題です 。特に好中球減少症では、細菌感染に対する初期防御能力が著しく低下し、重篤な感染症のリスクが高まります。

参考)感染しやすい・白血球減少:[国立がん研究センター がん情報サ…

免疫反応の臨床的意義と病態への応用

免疫反応の理解は、現代医療における診断・治療戦略の基盤となっています。自己免疫疾患は、免疫システムが自己組織を非自己として誤認識し攻撃する結果生じる疾患群です 。関節リウマチ多発性硬化症、1型糖尿病などがその代表例であり、免疫寛容の破綻が病態の中心にあります。
アレルギー反応は免疫システムの過剰反応により生じ、本来無害な物質に対して過度な免疫応答が起こる現象です 。IgE抗体を介したI型過敏反応では、マスト細胞からのヒスタミン放出により即時型反応が生じます。アナフィラキシーショックは最重篤な形態で、全身性の血管透過性亢進と血管拡張により生命に関わる状態となります。
免疫不全状態では、感染症に対する抵抗力が著しく低下します 。原発性免疫不全症では遺伝的要因により特定の免疫機能が欠損し、後天性免疫不全症候群(AIDS)ではHIVによりCD4陽性T細胞が破壊され細胞性免疫が障害されます。
がん免疫療法は、免疫反応を人工的に増強してがん細胞を攻撃させる革新的治療法です。免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞の活性化を抑制する分子を阻害することで、がん特異的免疫反応を増強します 。PD-1/PD-L1経路の阻害により、がん細胞による免疫逃避機構を無効化し、持続的な抗腫瘍免疫を誘導します。

参考)Journal of Japanese Biochemica…

移植免疫学では、移植片対宿主反応(GVHR)と宿主対移植片反応(HVG)の制御が重要課題です。HLA適合性の評価と免疫抑制療法により、移植臓器の長期生着を目指します。近年では、制御性T細胞(Treg)を活用した免疫寛容誘導療法の開発が進んでいます 。

参考)Hepatocyte Growth Factor(HGF)に…