マレイン酸とフマル酸の酸の強さとそのメカニズム

マレイン酸とフマル酸の酸の強さ

マレイン酸とフマル酸の酸性度比較
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マレイン酸の酸性度

pKa1=1.9、pKa2=6.1で強い酸性を示す

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フマル酸の酸性度

pKa1=3.0、pKa2=4.4で比較的穏やかな酸性

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医療現場での重要性

薬物の安定性と溶解性に直結する基礎知識

マレイン酸の酸性度とその特徴

マレイン酸(シス-ブテン二酸)は、構造式HOOC-CH=CH-COOHで表される不飽和ジカルボン酸です。この化合物の第一解離定数(pKa1)は1.9、第二解離定数(pKa2)は6.1を示し、比較的強い酸性を持っています 。

参考)マレイン酸とフマル酸の酸性度についてマレイン酸とフマル酸は酸…

マレイン酸の特筆すべき点は、分子内水素結合を形成できることです 🔗。シス型の立体構造により、2つのカルボキシ基が近接した位置にあるため、一方のカルボキシ基から脱離したプロトンともう一方のカルボキシ基の酸素原子との間で分子内水素結合が形成されます 。この分子内水素結合により、第二解離が著しく抑制され、pKa1とpKa2の差が大きくなっています 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nikkashi1972/1974/11/1974_11_2042/_pdf

医療従事者にとって重要なのは、マレイン酸が医薬品の安定化剤として使用されることです。例えば、チモロールマレイン酸塩などの医薬品では、マレイン酸の酸性度が薬物の溶解性や安定性に影響を与えます 。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00002788.pdf

フマル酸の酸性度とその性質

フマル酸(トランス-ブテン二酸)は、マレイン酸と同じ分子式C4H4O4を持つ幾何異性体です。フマル酸のpKa値は、第一解離定数が3.0、第二解離定数が4.4となっており、マレイン酸と比較して穏やかな酸性を示します 。

参考)フマル酸

フマル酸の酸性度がマレイン酸より弱い主な理由は、トランス型の立体構造にあります 📐。カルボキシ基同士が離れた位置にあるため、分子内水素結合が形成されません。その結果、第一解離と第二解離のpKa値の差が小さく、より均等な解離パターンを示します 。

参考)分子内の水素結合より分子間の水素結合が強いのはなぜですか? …

フマル酸は食品添加物としても広く使用されており、その酸性度は食品の保存性やpH調整に重要な役割を果たしています。また、フマル酸第一鉄として鉄剤にも使用されており、胃内での溶解性が治療効果に直結します 。

参考)https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/439.pdf

マレイン酸の分子内水素結合による安定化効果

マレイン酸の酸性度を理解する上で最も重要なのは、分子内水素結合による安定化効果です。シス型の構造により、片方のカルボキシ基が解離してCOO⁻となった際、もう片方のCOOHとの間でO-H···O型の水素結合が形成されます 。

参考)http://molsci.center.ims.ac.jp/area/2013/pdf/4P123_w.pdf

この分子内水素結合は非常に短く、O···O距離が約0.244nmという極めて短い結合を形成します。この短い水素結合により、第一解離で生じたイオンが安定化され、pKa1が1.9という低い値を示すことになります 。

参考)https://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/micro/report/ctl/1988/1988-res12.pdf

一方で、第二解離では既に分子内水素結合が形成されているため、さらなるプロトン解離が困難となり、pKa2が6.1という高い値を示します。これは第一解離定数の約1/20000という極端に小さな値であり、分子内水素結合の強い影響を示しています 。

フマル酸の分子間相互作用と結晶構造

フマル酸はトランス型の構造のため、分子内水素結合を形成することができません。その代わりに、フマル酸分子同士が分子間で水素結合を形成し、より規則的な結晶構造を取ります 🏗️。

この分子間水素結合による規則的な配列により、フマル酸は高い融点(約300℃)を示し、マレイン酸(約135℃で分解)よりもはるかに熱的に安定な化合物となっています 。分子間水素結合は分子内水素結合よりも強い相互作用を示すため、結晶格子の安定性に大きく寄与します 。

参考)http://fastliver.com/list/kurabe/theme6hutten.pdf

フマル酸の結晶構造は医薬品製剤において重要な意味を持ちます。結晶多形の違いが溶解速度や生体利用率に影響するため、製剤設計では結晶形の制御が必要です。特に経口鉄剤として使用される場合、結晶構造が胃内での溶解性に直接影響します 。

マレイン酸とフマル酸の医療分野における応用の違い

医療現場において、マレイン酸とフマル酸の酸性度の違いは、それぞれ異なる用途での活用につながっています 💊。マレイン酸は強い酸性と分子内水素結合による安定化効果により、医薬品の塩形成に適しています。

マレイン酸塩として調製される医薬品では、薬物の溶解性向上や安定性確保が期待できます。例えば、眼科用β遮断薬であるチモロールマレイン酸塩では、マレイン酸の酸性度が薬物の点眼液中での安定性に寄与しています 。
一方、フマル酸は比較的穏やかな酸性度と高い結晶安定性により、鉄剤の基材として広く使用されています。フマル酸第一鉄は、胃内の酸性環境で適度に溶解し、鉄イオンの放出をコントロールできるため、消化器への刺激を抑えながら効果的な鉄補給が可能です 。

これらの特性の違いを理解することで、医療従事者は患者の状態に応じた適切な薬物選択や投与方法の決定に活用できます。また、薬物相互作用や副作用の予測においても、酸性度の違いが重要な判断材料となります。