肝細胞とはたらく細胞の代謝機能
肝細胞の基本構造と機能
肝臓の70~80%を構成する肝細胞は、人体最大の化学工場として機能する重要な細胞です。肝細胞1個で2000種類にも及ぶ化学反応を短時間に実行する能力を持ち、その集合体である肝臓は「生体の化学コンビナート」と呼ばれています。これらの細胞は肝小葉を形成し、門脈三管(胆管、門脈、肝動脈の終枝)と肝静脈終枝に囲まれた構造の中で機能しています。
肝細胞の特徴的な機能には、代謝機能、血清タンパク質の産生、薬物代謝・解毒、胆汁の産生があり、これらは生命維持に必要不可欠な働きを担っています。肝細胞は高度に分化した臓器でありながら、最も専門化していない細胞でもあるという矛盾した特徴を持ち、この特性により肝再生が可能となっています。
参考)札幌医科大学 医学部附属再生医学研究所 組織再生学部門
肝細胞の糖質代謝とグリコーゲン貯蔵
肝細胞における糖質代謝は、血糖値の恒常性維持において中心的な役割を果たしています。腸管から吸収されたグルコースは門脈を通って肝臓に取り込まれた後、グリコーゲンを合成し貯蔵されます。血糖値が下がるとグリコーゲンは分解され、グルコースとして血液中に放出されるメカニズムが働きます。
グリコーゲンの合成・貯蔵機能は、ほとんどすべての細胞が持つものの、特に肝細胞と筋細胞でこの機能が高度に発達しています。過剰なグルコースは肝臓や筋肉が取り込んでグリコーゲンを合成・貯蔵し、これがグルコースの貯蔵形態として機能します。この過程はインスリンによって促進され、グルカゴンやアドレナリンによってグリコーゲンの分解と糖新生が促進されます。
参考)グリコーゲンはグルコースの貯蔵形態 – 兵庫県明石市大久保町…
肝細胞のアルコール代謝と解毒機能
肝細胞の重要な機能の一つが、アルコールをはじめとする有害物質の解毒作用です。アルコールは肝臓において、まずアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドという有毒物質に変換され、その後2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)によって無害な酢酸に分解されます。
アセトアルデヒドは毒性作用があり、口腔がんや咽頭がん、食道がんなどの原因となるほか、顔が赤くなったり動悸や吐き気、頭痛を引き起こす原因にもなります。肝臓で分解されて生成された酢酸は血液の流れに乗って筋肉や心臓へ移動し、そこでさらに熱エネルギーを発しながら分解され、最終的に炭酸ガスや水へと変化します。
参考)アルコール分解の仕組み
「はたらく細胞BLACK」では、この肝細胞の解毒機能がキャバクラという設定で表現され、肝細胞がキャバ嬢として描かれ、赤血球がアルコール分解を「ヌきに行く」「ヌいてもらう」と表現しています。飲酒が増加するとアセトアルデヒドの影響で肝細胞の体調悪化が深刻化し、身体はやつれ髪はボサボサの状態として描かれています。
肝細胞の胆汁生成と脂質代謝
肝細胞は脂肪の消化・吸収を助ける胆汁の生成において中心的な役割を果たしています。胆汁は水分、胆汁酸、コレステロール、リン酸、脂肪酸、ビリルビンから構成され、このうちビリルビンは古くなった赤血球を肝臓で水に溶けやすい物質に変化させたものです。
肝細胞では、隣接する肝細胞同士の間を走行する毛細胆管内に能動輸送により胆汁酸塩が分泌されます。毛細胆管での輸送が胆汁生成の律速段階となっており、分泌された胆汁酸塩は浸透圧によって他の胆汁成分(特にナトリウムと水)を毛細胆管内に引き寄せる役割を果たします。
参考)胆道機能の概要 – 02. 肝胆道疾患 – MSDマニュアル…
胆汁酸は肝でコレステロールより生合成され、Classical(neutral)pathwayが胆汁酸生合成の主経路となっています。これらの胆汁酸は腸内細菌により7α位の脱水酸化を受けて2次胆汁酸に変化し、十二指腸内では摂取された脂肪や脂溶性ビタミンを可溶化し、それらの消化吸収を促進する重要な機能を担っています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tando/25/2/25_2_189/_pdf
肝細胞の血清タンパク質合成機能
肝細胞の重要な機能として、アルブミンをはじめとする血清タンパク質の合成があります。アルブミンの合成は肝細胞に特徴的かつ重要な機能と考えられており、幼若な肝細胞でもアルブミン産生は認められますが、肝細胞が分化するにつれてその産生量が増加します。
アルブミン合成には分岐鎖アミノ酸(BCAA)が材料となるだけでなく、肝細胞でのアルブミン合成を翻訳レベルで促進させる物質としても機能します。具体的には細胞内シグナル伝達経路としてのmammalian target of rapamycin (mTOR)-p70S6キナーゼ系がBCAAにより活性化され、アルブミン合成を促進することが明らかにされています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsph1999/12/4/12_329/_pdf/-char/ja
肝細胞では尿素、血清アルブミン、凝固因子、酵素、その他多くのタンパク質の産生が行われており、これらの機能により血液の適切な性質維持と全身の組織への栄養供給が可能となっています。アミノ酸から血液に必要なアルブミン(タンパク素)とフィブリノゲン(線維素)を作り、血液中に送り出すという重要な役割を担っています。
参考)肝臓